第4話 エミリーの想い

  西へ向かって空を飛んでいくエミリー

  5キロ程進んだ所で、前方に凶悪なオーラを放出している黒い塊を視認すると、エミリーは一旦その場で制止して両手を目標へと突き出し【威戎】を顕現させる。


  『幻威顕現吹き飛べ!バルベリス《天変地異


  エミリーの両手から幾つもの真空の刃が放たれ、目標の頭上からはピンク色の落雷が何本も降り注ぎ、上空に覆われた厚い雲を突き破り隕石の様な豪火球が黒い塊に向かって落ちてくる。

  全て目標に命中し、周囲には轟音が鳴り響き壮絶な爆発の熱量で空間が軋んでいた。

   

  【バンッ!ドォウォォガッガッガッゴオオォン!!】


  爆煙が風で流されると何事もなかったようにエミリーを見据える六枚羽根の蝙蝠男。


  「ん?エミリー?なんの真似ですか?」

  深緋の瞳から鈍く赤い光が漏れている。

  そう。悪魔の世界で序列5位のこの男【バルベリス】には幾重にも張られた結界がある為、放出系の攻撃は圧倒的な力の差がないと意味をなさない。

  分かっていても選択肢がないエミリーにとって、先程の攻撃が全力なのだ。


  「バルベリス!何でお前がここにいる!!!」

  顔を顰めながら、敵対者を睨み返すエミリー。


  「愚問ですね。アレンを消滅させる為ですよ」


  「アレン様の力は解放されていない!!何故ここが分かったかと聞いているんだ!!!」


  「ふぅ、逆に何故?と私が聞きたい。貴女などに説明する必要がありませんからねぇ。

  まぁ、いいでしょう簡単な事ですよ。私があのアレンを見逃すとでも?何やら姑息な抵抗がありましたけど、私には意味をなしませんよ」


  「他の悪魔共はどうした?」


  「私は【傲慢のバルベリス】種族が同じだけで、群れる事など有り得ませんよ」

  殺し合いが日常の悪魔界の中でも最強の力をもつ男は、誰かに従う事もなく、自分の目的のみを気の向くまま行動する。


  「ふん。【ボッチのバルベリス】でしょ」

  エミリーは憎々しげに言い捨てる。


  「お話は終わりですか?さっさと始めましょう」

  口元を大きくつり上げ、その場から消えると瞬時にエミリーの背後に移動する。


  「あなた、本当にエミリーですか?殺るなら早く死合しあいましょう」

  不思議そうにエミリーを深緋の瞳が見据える。


  エミリーは慌ててその場を離れる。

  《こらホンマに厳しいな》

  《そんな事は分かってる!でも今は私しかいないの》

   

  『幻威顕現【戦闘モード自動結界展開】』

  エミリーは【太助】を強く握り直し、幾重もの防御結界を張り直す。更に3個のピンク色の光球を自身の周りに展開させると再び蝙蝠男に向けて突撃する。

   

  「うん?幻威?…」

  エミリーが展開した【威戎】に疑問を浮かべる。

 

  3個の光球と一緒にバルベリスへ突っ込むと、光球の一つをバルベリスの顔にあてるが、光球はバルベリスの障壁に遮られ、身体に触れること無く消滅してしまうが辛うじて光の歪みを発生させた。エミリーはバルベリスとの距離を詰めながら、左薙の一閃から繰り出される真空の刃で、一枚剥がし、【太助】を返して同じ軌道でピンクのオーラを纏わせた【太助】を右薙にする。バルベリスの障壁を二枚破り直接相手に攻撃をするも、左手2本で受け止められてしまう。

  なんとか活路を見出そうと、一旦その場を離れるエミリー。






  バルベリスは右手の親指で小さな指弾【霊威の黒球】を放ちエミリーへ飛ばす。ピンク色の光球が黒球の軌道に入るが、あっさりと打ち破られ展開している障壁も意味をなさない。左肩と腹部に指弾を受け後方へ吹き飛ぶエミリー。太助の力で外側は守られているが肩は砕け、内蔵も破裂してしまった。

  エミリーの顔が苦痛で歪む。


  後方へ吹き飛ばされたエミリーの背後にバルベリスが表れ、衝突するタイミングに合わせて身体全体で捻りを加えた蹴りを上から下へ叩きつける。エミリーの障壁はまたしても簡単に破られ、一瞬で地上に叩きつけられ、大地に大きなクレーターを作った。



 上記の内容を人から見るとこんな感じになる。

  【ギィィイン、ガッ、ガッ、ドンッ!!!】

  閃光や爆発、超重量の物体がぶつかる衝撃音がほぼ同時に発生する。



  【威戒者】同士の戦いには【威戎】の差が戦闘力の差に直結する。敵と相対する為には同威戎の使用が最低限必要になる。

  バルベリスは第五威戎【極威】

  エミリーは第三威戎【幻威】


  2つも違えば尚の事、対する前から既に勝敗は決まっていた。

     

 


  【ズドーーーォォォン】

  地響きと共に大きく凹んだ大地に

  ボロボロになったエミリーが

  仰向けになって倒れていた。


  《いわんこっちゃない!》

 

 

  【霊威顕現「光の恵粒子修復」】

  エミリーが淡く光るとみるみる内に傷が綺麗になる。

  「太助、ありがと。【万威ばんい】を使うわ。あいつをぶちのめす」


  《アカンて、その不完全な体でその力は無茶や!》

 

  「やってみないと分からない」

 

  (アレン様。お役にたてず申し訳がざいません)

  ピンクの瞳から輝く雫が頬をつたう。


  【万威顕現「愛の祝福確定された結果」】


  世界の色がほんの一瞬変化した…

  エミリーはただ虚空を見つめている。

  先程までピンク色に輝いていた瞳は既に光りを無くし、魂が抜けた器だけがそこに佇んでいた。

 

 



  「無様ですねぇ。何がしたかったのやら」

  蝙蝠男は余裕の笑みを浮かべ

  東の渓谷に視線を向けてその場をさった。



  エミリーがかけた空間偽装も蝙蝠男には意味をなさず

  アレンがいる場所の空から窪みを睨む。



  「アァレーーーン。また会えたねぇ」


  「やぅ!!!わがう、わぅ!!!」

  (クソ蝙蝠!!!エミリーはどうしたっ!!!)


  「ん?あのピンクのゴミなら

  勝手に自滅しましたよ。クククッ」


  「実にゴミらしい、死に様でしたぁ」

  ニターッと口元をつりあげる仕草が極めて気持ちが悪い。


  「わぅわ?」

  (ゴミだと?)

 

  「えぇ。そう言いましたよ。自らの力量も弁えずに、神の力を行使しようとする愚か者等、他に例えようもないでしょうに」


  エミリーの死を楽しげに語る蝙蝠男。

 

 

 

   


  アレンが再び黄金色のオーラを放ちだす。

 

  「クソコウモリ・・・

    おまえはもうきえろ・・・・・・・」

  アレンが

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