第3話 六枚羽根の蝙蝠男
転生12日目。恒星【ノーズ】の暖かい日射しがバロック様式の白い建物にふりそそぎ、街全体が輝いている。城の南に位置する巨大市場は、この街の名所の一つになっていて、今日も大勢の人々で活気に溢れていた。
【ゴゴゴゴゴオーーーードッドドォォォォォン!!!】
それは、あまりにも突然にやってきた。
多くの人々で賑わっていた巨大市場の光景が一遍する。
異変が起きた中心地は
巨大市場から北に20キロ程の場所にある、小高い丘の上に建てられた領主の城にも、衝撃波と共に破損した家屋や荷台が城のあらゆる場所に打ち付けられ、城全体が振動していた。
「何事だーーーー!!!」
外に飛び出してきたローガンはあまりの変わり様に衝撃を受け事態の原因を探るが、全く状況の把握が出来ずに取り敢えず叫ぶ。
次々と南の空から、降ってくる飛翔物に対し、城の魔法師達が幾つもの魔弾を放ち、瓦礫を撃ち落とすが圧倒的な物量を捉えきる事が出来ずに、今も尚、壁や城の窓を打ち破り城内にまで押し寄せていた。
懸命に問題の原因を見つけようと、南側に目を凝らすが何も見つからない。とその時。
「空です!南の空に何かいます!」
マルティネス騎士団。団長の【カザン】がローガンの問いかけに答える。(既にその何かは大地に到達していたが、カザンには捉えきれていなかった。南の空から物が飛んできているのだから、多分空に何かあると推察し、そう報告するのが精一杯)
「そんな事は分かっとるわ!」
何も分かっていないローガン。
視線を南の空から、下方へ見やると巨大市場の周辺一帯が黒い煙で覆われていた。
◆◆◆
白い建物が建ち並ぶ巨大な市場は今は跡形も無くなり、そこにはポッカリとあいた荒地があった。
荒地の中心から周囲10キロを跡形もなく吹き飛ばした人影が徐に立ち上がり、再び上空へ飛び上がる。
その背には六枚の
黒く鈍い光を放つ灰色の肌に対比して
深緋の瞳はギラギラと光り、鋭利な視線を北に向ける。
『見つけたよ。ここだね。いるね。アァレーーーン!!!!』
頭からねじ曲がった2本の角を後ろに生やしている人外の生物の声が頭に直接鳴り響く。一見すると知的でクールなイケメンなのに、口元を吊り上げ、鈍く光る灰色の肌をくねらせながら狂喜している。
ギラギラと光る深緋の瞳が丘の上の城を確認すると全身からドス黒いオーラを膨大に放ち、その場に爆発の痕跡だけを残し掻き消えた。
凄まじいスピードで北へ進む巨大な黒い塊は、人々がその姿を視認する事はできないが【六枚羽根の蝙蝠男】が通り過ぎたあとに、遅れてその下にある建造物が南から北に向かって、吹き飛んでいくので、何かが北上しているのを理解する。
【ドンッ!!!ドンッ!!!・・・ゴオォォオォォ!!!】
切り裂かれた空間の後に大分遅れて振動と轟音が城に鳴り響く。
「あいつを見るなぁーーー!!!
魂を持っていかれるぞーーー!!!」
目の前の光景を未だ理解出来ていない、ローガンは次の指示を飛ばす。
「奴の狙いはアレンだ!!!カザン!お前は他の騎士達と倒れた者を救助しろ!!!、アレンの所は俺がいく!!!」
鬼の形相でローガンが叫ぶ。
「くっ、御意!!!」
ローガンの言葉にカザンが苦々しく応える。圧倒的な現象の前に、何も出来ない事を本能的に理解しているようだ。
ローガンはカザンに指示を出したあと、アレンの寝室へ向かうが、その途中で意識を失い何も出来ずに床に倒れ伏す。
◆◆◆
(えっ?何か揺れてるよ?地震.......じゃないな、外で何が起きてるんだろう? まぁ、焦った所で何も出来ないんだけどね.......魔力ゼロの無魔なんで.......)
【ドッゴオオオオォォ】
城の外壁がガッツリと削られて、外から丸見えの状態だ。
(あーあ。あそこに寝てたら即死だったね。なんかなぁ、ハードモードのレベルが違い過ぎる。無理ゲーなんてレベルは軽く超えてるよな)
【転生して間もないアレン、前日に無魔の判定を受けており、若干投げやりになっている感もある。】
「みつけたぞぉぉぉーーー!!!アレーーーン!!!」
下卑た笑みを浮かべながら、大声で叫ぶ蝙蝠男。
「ヴぁわ!!!うわぁう!!!うわヴーーーヴぁ!!」
(うっせーーーなぁ!!!ていうかお前誰だよ!!!いきなり人様の家の壁、ぶっ壊してくれてるんじゃねーよ!!!ぶっ殺すぞこの野郎!!!)
するとアレンの体が黄金色に輝きだす・・・・・・
輝いているが、光っているだけともいう.......
(くっそ!!!ちょっと逆転チートを期待したじゃねーか!!!こんな使えねぇエフェクトなんかいらねーんだよ!!!)
「ブハッ、相変わらず君は面白いねぇ。僕はちゃんと君の事を覚えているのに、肝心の君が覚えてないなんてズルいよね」
蝙蝠男の声には強烈な
「ちゃんと、思いださせてあげるよ。それからじゃないと楽しさが半減してしまうからねぇ。クックック」
蝙蝠の様な形をした六枚の羽を大きく広げ、アレンに向かって手をかざそうとしたその時。
【バァァァン!!!】
「アレン様ぁーーー!!!」
扉を蹴りでぶち壊し、部屋にエミリーが飛び込んでくるや右手に魔力を纏わせて蝙蝠男を全力で殴り飛ばす。
【ドガッ!!!】
衝撃で空気が振動して伝わってくるがアレンにはエミリーの姿が全く捉えられない。
「アレン様っ!!!失礼します!!!」
アレンを抱きかかえ、3階から外に飛びだす。
「
「はいよーっ!!!」
白い狛犬が目の前に現れ、その背に飛び乗り
東の渓谷を目指し、もうスピードで空を走り出す。
「わぅわーーーー」
(まんまシーサーやん!!!空めっちゃ飛んでるやん!!!)
「姫、これはアカンやつや。何ともならへんで」
「知ってる」
「アカンて、無駄死にするだけや、わいは大丈夫やけど、姫の今の状態じゃ・・・」
「アレン様はまだ睡眠状態、覚醒の兆しはあるから何とか時間を稼ぎたい」
「えらい、難易度の高いミッションやな・・・ ボーナス期待してまっせ!!!」
城から東に向かって100キロの場所にある
マルティネス領の観光名所の一つであるノルウェー渓谷の奥に向かって降りていく。渓谷の底に着いたエミリーは岩壁に向けて光球を放ち、窪みをつくる。
エミリーが創り出したピンク色の毛布でアレンを包み込み窪みに優しく寝かせる。
「アレン様、少しお待ち下さいね」
悲しげな顔でアレンをみつめ、頬に優しくキスをする。
「うー、わぅ?わぅぇわぅわ?」
(いや、無理しなくていいよ。とりあえず一旦落ち着こう!!!)
【
アレンがいる窪みに土壁が出来て周りから見ると全く見分けがつかなくなった。
「ヨシッ!」と短く気合いをいれ、突然後ろに振り返る。
「太助、お願い」
「よっしゃ、なら気張りますか」
狛犬が白い粒子に変化するとエミリーの全身を覆う。
エミリーの黒いメイド服が艶のあるラバースーツに代わり、小さな身体にピッタリと張り着いている。
右手には煌びやかな装飾がされた鈍く光る長剣が握られていた。
「太助、行くよ!!!」
そう呟くと、西の空へ飛び立って行った。
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