第三章:第三の覇王と亡命社の脅威

第22話:芽生えた脅威

「相変わらずだなリオン。まぁ逆に安心したけどな」


 昔と何一つ中身が変わっていないリオンを見て春夜は安心した様な、めんどくさい様な複雑な表情を浮かべながら溜息を吐いた。

 それを見たリオンは、そんな態度を一蹴する様に鼻で笑う。


「ハッ! 七年も過ぎれば大人になって俺も、しおらしくなると思ったか? ちゃんと根っこがしっかりしていれば人なんて変わらねぇんだよ。俺を、そこの腑抜けた女帝さんと一緒にすんなよ月詠!」

 

 春夜の言葉にリオンは小馬鹿にする様に言うと、その言葉にティアの瞳が鋭く光った。


「あら、言ってくれるじゃない? 第一回目では準決勝で春夜君に敗れて、第二回目でも準決勝で私に完敗した負け犬さんの分際で」


「アァ……!!」

 

 ティアの言葉に今度はリオンの眼光が鋭く光る。

 心なしかブチッと何かがキレた様な音がしたの気のせいだろうが、それでも両者は互いに歩み寄り、互いへ思いっきりガン飛ばし始めた。


「俺がテメェに負けたのは準々決勝で第四の女とぶつかったからだ! あれのせいで俺の『モードレッド』が本調子じゃなかったんだよ!」


「それを言ったら私も同じよ! 準々決勝までずっと白銀プラチナクラスと戦ってたのよ! それで勝った以上、アナタは私より弱かった! そ・れ・だ・け!」


「んだとこの冷徹女がぁ!!」


「何よ女誑し!!」


 そう言い合い互いに火花を散らすリオンとティア。

 今にも取っ組み合いが始まりそうな雰囲気の中で、そう言えばとリオンは春夜が静かな事に気付いた。


「おい月詠! さっきから何を黙ってやがる! テメェも何か言えや!」


 叫びながらリオンは春夜のいた場所を向くと、そこに春夜はいなかった。

 けれどリオン達の背後から何やら賑やかな会話が聞こえてくるのに気付き、リオンが振り向くとそこに春夜はいた。

 自身の取り巻きの女性達と一緒に。


「あぁ! やっぱりミレイさんにフレイさん達だったんだ! 随分と変わって分からなかった」


「キャッハハ! ハーイ! 久しぶりね月詠クン!」


「もう7年近くもどこに行ってたーノ? 皆、心配してましータ!」


 ブロンド髪の女性達――リオンの側近兼恋人のミレイとフレイは、春夜も昔から知る女性達であった。

 昔からリオンとやり合う中で自然と顔見知りになった仲であり、当のリオンを放って置いて三人は久し振りの再会に花を咲かせていた。


「あぁ……ちょっと俺にも事情があったとだけ。はいサイン描けました」


「キャーキャー!」


「ツギ! 私モ オネイガイシマース!」


 そんな中で、他の取り巻きである女性達に春夜はサインを描いてあげる等のファンさを行っており、それを見たリオンとティアの瞳が怒りで光る。


「ゴラァテメェ等!! 何やってんだ!」


「春夜君!!!」


 リオンとティア、二人からの怒りに思わず春夜も怯んでしまったが、別に悪い事をしている自覚がない春夜には原因が分からず、ミレイ達に助けを求める様に彼女達の方を見た。


「え、いや……久し振りの再会だし、サインも欲しいって言うから」


「そうデース! 再会を喜んでるだけデス!」


「ソーダ! ソーダ!」


「お、お前等ぁ……!!」


 春夜の弁解にミレイ達も乗っかり、何故かほぼ全員のリオンの仲間達が彼を非難していた。

 尻に敷かれているのも昔から変わらないなと思い出しながらも、春夜は顔を真っ赤にしながら何も言えないリオンを見て僅かに疑問を抱いた。


「そもそもリオンは何故、あんなに興奮してるんだ? 昔はあそこまで短気じゃなかった筈だ」


「あぁ! それなら簡単デス! リオンはずっと月詠クンの事を心配してましタ。見つかるまでずっと暇そうでしタシ、前回の時も無事が分かって喜んでたんデス!」


「でも既に最初の対戦は第二の覇王に決マータから、我慢に我慢を重ねてようやく戦えると思ーテ喜んデールの!」


「あぁそう言う事か。まっ、リオンが優しくて面倒見が良いのは知ってたし、本当に変わってないって分かって安心した」


「本人の前で恥ずかしい話してんじゃねぇぞテメェ等!!」


 春夜と仲間達から恥ずかしい話をされたリオンは更に激昂するが、彼が手を出したり誰かを傷付ける言葉を言わないのは皆が分かっている為、温かい目で春夜達はリオンを見ていた。

 するとリオンの顔をは更に羞恥で赤くなっていった。


「く・そがぁ……!!」


 あっ、もう一回ぐらい叫ぶな。春夜達がそう思って少し身構えた時だった。

 あまりに騒がしくし過ぎた為、離れていたアキ達も騒動に気付き、こちらへと走ってきた。


「春夜さん! なんか凄く騒がしいし増えてますけど何かあッ――あれ、この人確か」


 春夜の傍に来たアキはリオンを見て気付いた。

 先程の試合中、あの観客の中でも分かる存在感を出し、何やら春夜とティアに関して言っていた金髪の男だと。

 アキがそんな風に不思議そうにリオンを見ていると、同じ様に来たセバスと士郎もリオンの存在に気付く。


「これはこれはペンドマン様、お久しぶりですね」


「ほぉ、誰かと思えば第三の覇王とはな……目的は宣戦布告ってところか?」


「第三の覇王……? そうか! 叛逆のリオン・ペンドマン! 見た目が頻繁に変わるから気付かなかった!」


 思い出した様なアキの言葉にリオンの仲間達は思わずプッと噴き出したが、リオンの睨みによって眼を逸らしながら黙った。

 そして人が多くなってきたなと、リオンは春夜達に背を向けた。


「騒々しくなって来やがったな。おい月詠! くれてやる。それで村正を完璧に修復しろ! お前とやり合うのはその後だ!」


「なんだ今からやると思ったが、そんなに時間くれるのか?」


「ハッ! 強がんな……ナノボックスで見た目は修復されたが、中身は完全じゃねぇだろ。そんなテメェに勝って、何を得られんだ俺は?――試合についてはこっちから追って知らせる。それじゃあな」


 そう言ってリオンは仲間に合図をして春夜達に背を向けたまま歩いて行くが、不意に何かを思い出した様に足を止めて振り返った。


「そうだ……言い忘れたが、最近EAWでおかしな違法パーツが出始めてるらしい。まだ海外の一部でしか出回っていねぇとの事だが注意はしとけよ。お前も、もう他人事じゃねぇからな」 


 そう言うリオンの表情は先程とは違い、感情的にではなく冷静そのものの真剣なものだった。

 それを見て春夜は『亡命社ネグレクト』関係だとすぐに察した。


「その違法パーツの具体的な特徴は?」


「わりぃが俺も実物を見てねぇ。だが妙に小さいらしく、一見はちょっとしたアクセサリー・デザインパーツみたいなもんだとよ。けど機体性能を格段に上げるらしくてな、そのスキルを発動したら禍々しい光が機体を包むって話だ。――まっ、そんな都合の良いブツを使う連中はアホだけだと思うがな」


「そのパーツの噂は私も聞いたわ。そこまで具体的な内容じゃなかったけど、確か使えば使う程、機体やECに莫大な負荷が掛かり、最後は使い物にならなくなるって話よ」


「まっ、どこまで行こうが違法パーツ。デメリットがない筈がない。機体性能を上げるって言うのも無理矢理制限を外して出力やEを活性化させてるだけだろう。そんな事をすれば機体や各パーツがイカれるのも無理はない」


 リオンとティアの話を聞いた春夜はすぐにどんなものかを察し、碌な物が出回らないなと呆れてしまった。

 同時にリオンの言う通り、デメリットを考えず、そんな都合の良いパーツを使うPも限られていると安心と不安が半々だった。


「そんじゃ、今度こそ俺等は行くぜ。またな


 最後にそう言い残し第三の覇王は去って行った。

 彼の仲間達も最後に手を振って去って行き、残されたのは春夜達だけとなる。

 日も暮れていき、そろそろ完全に撤退しないとまずいだろうとアキが春夜の傍に近付く。


「春夜さん。そろそろ私達も――」


「なんでこんなにもEAWを、つまらなくしようとするんだろう。……は」


「――えっ?」


 小さな声だった。でも確かに春夜の言葉を聞いた。

 あの老人共。一体なんの事なのか。タイミングからして違法パーツ関係なのか。

 アキは何の事か分からず、気付けば春夜の顔を見上げていた時だった。

 不意に、アキの頭に優しく手が乗せられる。それは春夜のものだった。


「帰ろうかアキちゃん。良し! 全員撤収!!」


 優しい笑みでアキを見ながら春夜はそう言って時織達に撤収を告げ、もう一度アキの頭へポンッと手を優しく置いて彼女にも帰宅する事を告げた。


「さっ! 帰るよアキちゃん」


「えっ! は、はい……!」


 春夜の言葉に反射的に従い、アキも皆と一緒に荷物を背負って帰る準備をする。

 その時だった。春夜の携帯端末が不意にメッセージの着信を告げる。


「ん? これは……」


 春夜が端末を見ると、そこに記されていた送り主の名を見て意外そうな、けれど確かに嬉しそうな表情を浮かべた。


「懐かしい相手からばかり連絡が来るか……俺が思っているよりも退屈しないなこれは」


 そう言って小さく笑いながら春夜も皆に続くように、その場を後にする。

 だがリオン達の忠告。それが脅威となって芽を出すのは、それから僅か三日後の事であった。

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