第19話:強襲・EDG-A4プレデト

『キィィィジョォォォォォォォォ!!』


 怒号、悲鳴、そのどちらにも聞こえる大声と共にサソリを彷彿させる姿をしたEAがフィールドへ姿を現した。

 装甲に守られた剣の様な鋭利な六本脚・全てを両断する巨大な二本のクロー・本体と同等か、それ以上の大きさのサソリの様な尾。

 それらの武装を持ち、先日撃破した違法ゼネラル級<ベヒーモス>に比べれば数段小さいが、通常のEAと比べれば巨大な胴体を持つ機体の登場に、春夜とティアも険しい表情を向ける。


「えっ……なに、あれ?」


 それはアキを始めとした観客達も同じことだった。

 世紀の覇王同士の激突、伝説の再現、伝説の続き。それを邪魔、妨害、ましてや乱入する存在がいるなんて思えなかったからだ。

 そんな思いもしない現実に直面し、イレギュラーな機体の存在感もあって万もいる観客を黙らせるのは容易い事であった。

 

「……おいおい、ありゃあ」


「これはいけませんな……!」

 

 だが乱入した機体を見た士郎とセバスは、嫌な予感を抱いて表情を険しくしていた。

 またもう一人、時織もまた険しい表情を浮かべる。


「このタイミング……しかもゼネラル級。普通じゃねぇ」 


 未実装の筈のゼネラル級の乱入。TCのお披露目かと、そんな事は思う筈もなかった。

 伝説を汚す。そんな事をしてまでお披露目する程、TCのプレゼンテーション力が低い筈もない。

 だからこそ考えられるのは本当の非常事態だ。


「普通じゃないゼネラル級……?――まさかEAWドームでカオスヘッド達が使った違法ゼネラル級!?」


 時織の言葉にアキの脳裏に過ったのは、先日撃破した怪物の名を持つゼネラル級の存在だった。

 カオスヘッドの様に誰かが再び違法ゼネラル級を投入したのかと思い、アキや皆がゼネラル級へ意識を集中させた時だ。

 春夜やティア、そしてアキ達はゼネラル級の頭部辺りに上半身だけある1機のEAの存在に気付く。


「EAが1機? もしかしてベヒーモスみたいにコアの役割をしてる……って、あれ? あのEA見覚えがあるんですけど」


「でしょうな。拙者達も見覚えがありますぞ。しかもついさっきまでに」


 EAの役割を察したアキだったが、その頭部にいるEAに見覚えを感じ、嫌な予感をしていたが、鳥杉がそれは気のせいじゃないと頷いて同意する。

 その正体、それは機体と怒号から察して一人しかおらず、機体から春夜もその正体に気付いた。


「あれはグロワール改! お前、義盟ぎめいか!」


「義盟……? もしかしてさっきの季城君の偽物?」


 春夜とは違い関係性が薄いティアは僅かに記憶残っていた程度だったが、一度ならず二度までも試合の邪魔をした事で険しい表情でゼネラル級を睨んだ。

 だが義盟が気付く事はなく、絶叫で名指すだけあって春夜を捉えるように大きな機体を動かし、村正へ真っ正面に捉えた。


『そうだ! よくもさっきは僕に恥を掻かせたな!!――今思い返せば、本当にお前は僕の邪魔ばかりして目障りこの上なかったんだ!』


「その恥も行動も、全てお前自身の身から出た錆だ。EAWサークルの悪行も、覇王を騙って恥を掻いて返り討ちにされたのも全部がお前自身で招いたことだろ義盟!」


『黙れっ!! ただただムカつくんだよお前が! 僕の作り上げたEAWサークル王国を壊し! インチキして僕を負かしたお前が!』


「すごい無茶苦茶言ってるわね……」


「最早病気だな。とっくに義務教育終えてんのに、まだ子供のままでいようとしてやがる。――まぁあれと比べると、お前は良く素直に育ったなアキ」


「それ褒めてる?」


 怒りの感情剥き出しの義明の姿にアキと士郎達は、あまりの幼い姿に怒りや呆れを通り越して哀れに思えた。

 そして褒めてるのか貶してるのか分からない事をいう士郎の脇を、アキが肘で軽く小突くが、当の標的である春夜は溜息を吐くしか出来なかった。


「ハァ……全く、困ったな」


 まるで子供の我儘に困る大人の様な余裕のある雰囲気の春夜だが、その表情はすぐに険しいものへと変わる。


「……義盟。お前、その機体どうした?」


『この機体か! これは僕の実力に気付いたある企業の営業マンがくれたんだ!  分かるか? 分かる人間にはどっちが優れているか分かるんだよ!』


「企業ってお前……その機体は未実装のゼネラル級だぞ! 一体のどこの――」


『機体スキャン完了。敵機体EDG-A4プレデトと判明。過去に使用された違法機体との共通あり、周囲への悪影響・高――よって違法EAと認定します』


 EYEの言葉に春夜とティアの眼が大きく開いた。

 それは違法EAの件でもあったが、二人が気付いたのはその型番の名称にあった。


「ED?――!?」


「亡命社《ネグレクト》の違法EAか!」


 それは閏が覇王達へ忠告した世界的に暗躍する者達。EAWを犯罪に利用する組織――『亡命社』であり、プレデトの型式にはその開発部門のEDの名が刻まれていた。

 その事実にティアと春夜の眼光が鋭く光ると同時、サツキ達EPの面々が動いた。


「総員! FDフィールドダイブ! 違法ゼネラル級を無効化し確保しろ!」


『了解!』


 サツキの言葉に周囲にいた隊員は一斉にフィールドへ駆け、機体をスタンバイするが、その姿をVIP席で見ていた閏は失望の瞳で見ていた。


「愚かだね……あんな感情的に動けば観客が騒がしくなるじゃないか。――厳流」


「はい」


 サツキ達に少しは冷静に動けないものかと、閏は呆れながら側近の厳流を呼んだ。


「すぐにフィールド地下のメンテナンスルームに隊員を送れ。今はあそこからしか機体を送れない以上、操縦者はそこにいる。あと残りの隊員は観客が騒ぎ始めた時の為に周囲へ待機」


「了解しました。――会場内の封鎖はどうしますか?」


「もう遅いよ。逃げ場のない地下メンテナンス室にPがいる以上、明らかに捨て駒。実行指示をした者はとっくに逃げてるよ。やるなら外部の封鎖だね」


「了解です」


 閏の指示を受け厳流はすぐに専用通信機で残りの隊員へ指示を出す。

 その直後だった。FDをした隊員達の機体がフィールド内へ入った瞬間、一斉にコアに電流が走り、プレイ中のPをコア内へ閉じ込めた。


「ベヒーモスの時と同じハッキング。狙いは覇王のデータとついでにEPの新型調査かぁ……」

 

 閏は面倒そうに呟きながらフィールドへ視線を向ける。

 EAWスタジアムでカオスヘッド達が使ったベヒーモス。その時にコアの防衛装置を誤作動させた事があったが、今回も同じことが起こってしまった。

 しかも今回はEPの乱入もあってか、覇王と新型機クルスニクのデータが狙いなのは想像に容易かった。


「閏様……大丈夫でしょうか。見た感じですが、あのプレデトというゼネラル級。恐らく、以前に第五の覇王とスペインの王者が撃破した違法ゼネラル級と同型に見えますが?」


「その機体と同じなのは間違いないけど……恐らくは発展型。前よりも完成度が上がってるし、以前に回収した物よりも手強いだろうね」


「ならばメンテナンス室に行った隊員を急がせます。このままでは覇王達や周囲の一般人に危険が――」


「必要ないよ」


「――ハッ?」


 閏のまさかの非情な発言に厳流は思わず言葉が出なかった。

 確かに周りは閏的にとって有象無象だが、春夜は間違いなく彼にとって特別だと厳流は分かっていたつもりだった。

 だからこの反応は予想外であり、何故かと聞き返そうとすると閏は小さく笑い始めた。 


「ハハハッ……あんなゼネラル級に負ける筈がないだろ? 春夜が違法EAを撃破する最高のシーンが見られるのに、それを妨害してどうするの? 寧ろ邪魔でしかないねEP達は……春夜の戦いを汚す、汚れでしかないよ」

 

 覇王、一般人への危険? その全ての言葉に閏は呆れてしまった。

 あり得ないからだ。起こる筈がないからだ。EAWを作り、その全ての素材を理解し生み出した自身がいる。

 そして、最高の親友――春夜がいる以上、それはない。世界を制し、EAWの基礎を作った春夜が負ける筈がないから。


「で、ですが……一般人がパニックを起こす可能性が――」


 おかしそうに笑う閏へ厳流は食い下がり、そのまま客席の方を見た。

 そこでは既に観客達はざわつき始めていたからだ。


「おい、なんだあの機体?」


「乱入!? けどこれはチーム戦でも抗争でもないぞ!」


「アクシデントじゃないの? だって覇王同士の試合で……」


「待てよ……確か前にも他の覇王やトップPの試合で似た事がなかったか? あの時は無人の違法ゼネラル級だったが、今回だってあれは……!」


 徐々に観客席へ困惑が広がっていた。中には似た様な光景を見た事があるの幸いし、慣れによって騒ぎは一定のラインで止まっていた。

 だが時間の問題でもある。犯罪組織の干渉と分かればどうなるか分からない。

 それでも閏の表情は変わらずにVIP席から観客達を見下ろした。


「それも問題ない……確かに最初は戸惑い、不安もあるだろう。けどすぐに気付くさ……これは国際犯罪組織のテロではなく、最強の覇王が悪者をやっつけてくれるショーでしかない事にね」


 そう言った歪んだ笑みを浮かべる閏。

 しかし同時に厳流は閏が対応を間違えた事もない事実を知っている。

 不安でしかないが、それでも閏には何が見えているのかと、そして今は言う通りにするしかないと厳流はフィールドを見守るしかなかった。


「春夜さん!」


「お嬢様……!」


 その頃、アキやセバス達も異変に気付き春夜とティアのコアへと駆け寄っていた。

 だがそのコアはベヒーモス時と同じく、防衛装置が誤作動されていてスパークを生み出し、迂闊に振れる事ができなくされていた。


「あん時と同じか」


 士郎も確かめる様に食べ終わったお好み焼き。その割り箸を一本、ダーツの様にコアへと投げた。

 すると割り箸は強い電撃音と共に弾かれ、そのまま飛んで士郎の足下へと落下すると、士郎は興味深そうに電子タバコを取り出した。


「ほぉ~う。こりゃ前の時よりも強力だな。どうやらあの違法ゼネラル級の生みの親共はよっぽど覇王達のデータが欲しいらしい」


「そんな呑気なこと言ってないで、どうにかならないの!?」


 慌てた様子もない士郎にアキは叫ぶが、士郎も無理だというように首を左右に振るだけだった。


「無理だな。必要な器具もねぇし……そもそも俺等ができる事はねぇ。それに無能って言われてるEPだが天童 閏と厳流が今はいんだ。やれることは流石にすんだろ」


「そりゃそうだろうけど! だからって――」


 アキは歯痒い様に拳を握り締め、フィールドのプレデトを睨みつけた。

 自分を助けてくれた春夜。その危機に自身は何もできない現状がアキに無力感を与え、それが焦りへと変えていく。

 

「ダメッ! やっぱり何もしないでいられない!」 


 アキはそう声をだし、春夜のコアへ更に近付こうとした。

 何の意味もない行為でもあり、本人も自覚しての行動。ムラサキや時織達も止めようとした時だった。


『来るなよ!』


「っ!」


 アキの行動を察していた様にコアから春夜の厳しい声が発せられた。

 そしてその言葉は自身に向けられたものとアキは反射的にも理解し、すぐ傍で動きを止めた。


「しゅ、春夜さん……」


『……危ないから来ないでくれよアキちゃん。恐らく向こうの目的は違法EAの実戦データと、俺達――上級Pのデータだ。だからそのデータ収集の邪魔をしなければ危害はない筈だ』


 いつもの優しい春夜の声に戻り、アキは安心した事で落ち着きを取り戻せた。

 だが春夜のその言葉を聞いた事で不安は完全に消えなかった。


「そんな保障……! こんな危険な事をする人間なんですよ! どこにもそんな保障ないじゃない!」


 アキが言うように保証はない。周囲の扉も既にゼネラル級の影響でハッキングされて閉められている。

 誰も逃がす気はないのだ。完全に檻となったこの場によってアキの不安は拭えない。


『アハハ……! 確かに、そんな保障はないさ。――けど本当にヤバい事をする気なら既にこのEAWスタジアムで異変が起こってる筈だ。それに閏も特に慌てた様子がないからね』


 随分と天童閏を信頼しているのだとアキは少し複雑な気分を抱く。

 残念ながらアキ的には初対面時の閏の印象が悪かったからだ。

 けれど、そんなアキの内心を知ってか知らずか春夜は話を続けた。


『それにさ……?』


「えっ、何をですか?」


『憧れの覇王が、悪い違法EAを撃破するところをさ』


「!……もう、この人は」


 きっとこの人は今、満面の笑みなのだろう。子供の様な純粋な。

 アキはそう感じた。想像も容易いぐらいに。まだ短い付き合いだが、春夜を少し理解出来た気がした。


「お嬢様、大丈夫ですか? 残った場所からなら私もFD可能ですが」


『私は無事よセバス。でも手出しは不要よ。――ここまで怒りが湧いたのは久し振りなの……もう私自身の手で始末しないと気が済まないわ』


「かしこまりました」


 散々の妨害にティアから並々ならぬ気迫を感じ、セバスはこれならば大丈夫だと言う通りに下がった。

 そして周囲を安心させた春夜とティアは、それぞれ損傷が目立つ愛機でプレデトへと身構えた時だ。

 真っ先に動いたのはサツキ率いるEPだった。


「覇王共の出る幕ではない! 我々はEPだ!」


 サツキの号令に一斉に30機近くのクルスニクがプレデト目掛け急降下を開始。

 内の数機は途中で停止し、そのまま射撃にも使える槍――タルボシュで援護射撃を行う。


『ククク……お前等もだ……お前等も気に入らないんだよ!!』


 何かとエリートの名があるEPに義盟は叫び散らした。

 EPのエリートうんぬんは良くも悪くもあるのだが、義盟は気に入らず目標を春夜とティアからEPへと変えていた。


『見せてやるよ……プレデトの力を!!』


 叫ぶと同時にプレデトの巨大な両碗のクローが開き、それぞれのクローから大出力の火属性・雷属性ビーム砲がクルスニク隊へと発射される。


「旋回しろ!」


 迫りくる巨大なビームの柱にサツキのクルスニクSや周囲のクルスニクは回避行動をしたが、それでも8機は直撃しそのまま地面へと落下し沈んだ。


「なっ! くっ――怯むな! 接近さえすれば此方の有利だ!」


『甘いんだよ!!』


 再び接近するサツキ達に対し、今度はプレデトの鋭利な六本脚――その装甲がスライドすると仲から幾つものマイクロミサイルが顔を出す。

 一つの足に18発もあるミサイル全てが空に昇り、次々とクルスニクを襲った。


「は、速い!? 駄目だ被弾し――」


「盾を使え! 当たり場所が良ければ大破はしない!」


 マイクロとはいえ大量のミサイルにより空は爆煙に呑まれたが、それを突き破ったクルスニクの部隊が飛び出した。

 けれど無傷ではない。各部の破損。四肢の欠損等の損傷も出た機体もある中、EPはプレデトの間合いへと遂に到達する。


「射撃戦はするな! タルボシュのESを解放し、接近戦で短期決着を挑め!」


 サツキの号令に全機がタルボシュのES『クルースニク』を発動させ、タルボシュはそれぞれの持つ強い属性エネルギーを纏う。

 春夜との戦いではそのまま投擲したのを、今回は所持したままの接近戦を選ぶが、そんなクルスニクに対しプレデトはその巨大な尾を空へと向けた。


『お前等みたいなのがエリートだと? エリートってのはなぁ……僕みたいなのを言うんだよぉ!!』


 義盟の叫びに共鳴するかのようにプレデトの巨大な尾――その先端が割れると、中からビームの発射口が顔を出す。

 そして僅かにチャージにより光った瞬間、拡散のビーム砲が一斉にクルスニクへ放たれた。


「う、うわっ!?」


 突如、眼前を支配するビームの弾幕。それを前に何機か咄嗟に止まって盾を構えたが、そのまま盾ごと破壊される。

 

「ば、馬鹿な……! クルスニクのカスタムシールドがこうもあっさりだと!?」


「副隊長! 奴のビーム砲は複数の属性を持ってます!――なっ!?」 


 複数色のビームを何とか流していた隊員がだったが、サツキへ報告したと同時に弱点属性が直撃してしまう。

 それを見たサツキは驚いた表情でプレデトを見るが、その表情はすぐに鋭くなった。

 

「くそっ……! 止まるな! 突っ込め!!」


 サツキの号令に残りのクルスニク達が決死の突撃を開始した。

 何とも勇敢な行動、市民の為にテロリストは許さない彼女等の戦いは胸に来るものがある。

――訳が無かった。


「……あの拡散のビーム砲、があるわね」 


「あぁ……機体の完成度の割に、何であんな半端な武装を付けているんだ?」


 そう会話をしながら冷静に状況を見るのはティアと春夜だった。

 プレデトとクルスニク達から離れ、EODも最低までエネルギーを落としながら戦いを見ていた二人は、プレデトの装備に意見交換をする程に落ち着いている。


「複数属性を撃てる拡散式ビーム砲……けれど、確実にビームが当たらない場所が生まれてるわ」


「まだ試作なのか、それとも急遽取り付けたのか、どちらにしろ気付かないサツキちゃん達EP相手には十分な武装か。これじゃ閏が嘆くのも分かる」


 頭に血が昇っているサツキ達は気付かないが、真っ正面からでも冷静に見れば分かる程に露骨。

 亡命社にどこまでの意図があるのか分からないが、少なくとも春夜とティアはEPが嘗められているという確信を抱く。

 

「あぁ~あ、なんでEP専用の高性能機なのに結果が出ないんだろ……」


「……この一件が終わり次第、すぐに会議の議題に致します」


 嫌味、そして失望した様に呟く閏へ、厳流も冷や汗を流しながら答えるが、それで目の前の結果が変わる訳ではなかった。


『そんなんでプレデトに勝てると思うなぁ!!』

 

 接近許したクルスニク二機を、プレデトの大型クローでそれぞれ挟むと、クローは雷属性と水属性のエネルギーを纏わせながら挟む力を強める。

 クルスニクも機体から悲鳴があがるが、フレームごと両断される前に地面に叩き付けられて沈黙した。


「馬鹿め! 目先だけの行動が命取りだ!」


 先程の二機を囮にサツキのクルスニクSと他4機のクルスニクが間合いを詰め、コアとなっているグロワール改へタルボシュを振り上げた。

――が、グロワール改へ接触する瞬間にサツキ達のタルボシュは弾かれた。


「なっ!? なんだ……これは……!」


 攻撃を弾かれたサツキは目前の現象に目を疑った。

 それはプレデトを守る様な球状のバリアーらしきもので、雷属性も纏っているのかバリアーから激しい電流も流れていた。


Eエレメントフィールドか……!」


 そして正体に真っ先に気付いたのは春夜だった。

 膨大なエネルギーを代償に使用できる属性防御兵装――Eフィールド。

 通常のEAでは実装に過剰な手間が掛かるそれが、違法ゼネラル級のエネルギーによって自身守る最強の盾を実現したのだ。


「あれだけの武装を積んで更にEフィールドまで積めるのか、あのゼネラル級は……!」


「属性も付与してる……あの巨体でも満足な属性付与するなら間違いなく筈よ」


 EAWへ深い知識を持った春夜とティアは理解した。プレデトを守る盾の秘密を。

 それを証明するかのようにグロワール改の背後から雷属性を纏ったが生える様に顔を出した。

 そしてそれはサツキ達も良く知る物だ。

 

「あれはオベリスク……か!」


「……あれだけの属性エネルギーを付与していたんだ、やっぱり積んでたか」


 フィールドの属性環境にも影響を及ぼすオベリスク。

 巨大な機体のプレデトを覆う程のバリアーで、更にそれに属性エネルギーを纏わせるならオベリスクを所持しているのは不思議ではない。


「こ、こんな事が……ええい! 誰か地属性のクルスニクはいないか!」


「駄目です! 地属性のクルスニクは既に全滅! 我々にも雷属性に有利になる武装は――」


『これがエリートか……こんな奴等がEPで、なんで僕はぁ……!!』


 一人のEP隊員の言葉を遮り、サツキ達の耳に届いたのは恨み――負の感情が濃縮に篭った義盟の声だった。

 それと同タイミングでプレデトの尾が再び開き、先程と同じビーム砲の発射口が顔を出す。


「また来るぞ! シールドのESを発動しながら、散開――」


『どうして僕がぁ!!!』


 サツキ達は一斉にクルスニクのシールドを構えて回避行動したが、義盟の心の叫びと同時に放たれたのは拡散式のビーム砲ではなかった。

 その尾の巨体に見合う、巨大なビーム砲。それを尾で薙ぎ払う様に振るうと、ビーム砲はサツキ達のクルスニクを全て呑み込む。


『があぁぁぁぁぁ!!!』


 だがそれだけで収まらず、そのビーム砲はフィールドすらも薙ぎ払い続ける。

 その余波でフィールドにスパークが走り、アキ達や観客から悲鳴があがったが、春夜とティアを始め、閏と一部の者達は冷静を保っていた。


「前に戦ったベヒーモスより小型で、この火力か……!」


「大した火力ね……でも連発が可能なのかは別問題みたいよ」


 ティアが指摘する様にプレデトを見ていると、プレデトの背部にある雷のオベリスクに亀裂が入っていた。

 そして亀裂が収まらず、そのまま砕け散ってしまう。


「無理をしたからなのか、それとも最初から使い捨てだったのかしら?」


「恐らく前者だろうな。Eフィールドへのエネルギーを維持しながらの大火力のビーム砲の負荷にオベリスクが耐えられる筈がない」


「……ならEフィールドとビーム砲を同時に使用させれば良いわね」


 目の前でEPが壊滅しても尚、春夜とティアは冷静であり続けていた。

 それどころか意見交換をして、互いの脳内では既に対プレデトの攻略を完成させていた。

 そんな二人だったが、サツキ達が壊滅した事で標的を変える様にプレデトが村正とアナスタシアへ向き直す。


『キィィィジョォォォ……クリスヘイムゥゥゥ……!!』


「……呼ばれてるぞティア?」


「酷い人、最初に呼ばれたのは季城君じゃない?」


 春夜もティアも最初から最後まで自身のペースは乱れていない。

 それだけ余裕なのか、どちらにしろ二人の表情は楽しそうだった。

 だが逆に義盟のメンタルは既に限界を迎えていた。


『僕の父と兄は……医者だぁ……しかも最高の最大の病院のトップだぞぉ……! コネや小遣いせびる傀儡となってる現代政治家共よりもぉ……偉いんだぁ……そしてその息子の僕もぉ……お前等よりも凄いんだぁぁぁ!!!』


「……親か」


「……哀れね、本当に」


 義盟の叫びを聞いた春夜とティア。二人の表情は蔑み、怒り、不快――そんな物は一切なかった。

 不思議と二人の表情は悲しみ、寂しさ、僅かな険しさを写していた。


『ハオウ……ハオウ……ハオウゥゥゥゥゥ!!!!』


 叫びを止めずにプレデトの両クローが威嚇する様に高速で開閉しながら迫って来る。

 そんな相手に対し、春夜とティアは静かに顔を上げながら小さく呟く。


「EOD――再起動!」


「EOD――再起動!」


 呟いた瞬間、一瞬だけ二機の小さなEODの光が消えた。

――瞬間、機体を包み込む程の巨大な光が両機より生まれた。


「戦護村正――EOD最大出力!」


「アナスタシア――EOD最大出力!」


 その姿に誰もが言葉を失う。

 隻腕で各所に損傷している村正と、要の脚部や可変ドレスが破損しているアナスタシア。

 にも関わらず、両機の放つ威圧感はゼネラル級以上の存在感を持っていた。


「エスコートは必要か、ティア?」


「させて欲しいならお願いしてあげるわよ、季城君」


 全く余裕が崩れないティアに春夜は思わず小さく笑うと、静かに村正も構えた。

 

「あぁ、頼む……!」


「ふふ……ならお願いするわ」


 ティアは笑いながらアナスタシアを構えさせ、その周囲には冷気と共に氷柱が侵食するように生えていく。

 そして村正もデュアルアイが鋭く光らせ、その眼光でプレデトを射抜く。


「義盟……散々邪魔をした代償を払ってもらう」


『うるさい!! うるさいんだよ!! もう消えてくれぇぇぇぇ!!!』


 その叫びが再戦の合図となり、プレデトは村正とアナスタシア目掛けて突撃を開始し、そのクローを振り下ろす。

 

「――行こうティア!」


「えぇ季城君!」


 村正が隻腕で握る雷火、アナスタシアが破損しながらも氷刃を精製する脚部が同時にプレデトのクローとぶつかり合う。

 今、二人の覇王と違法ゼネラル級の戦いの幕が上がった。 

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