第3話:覇王再臨
バトルエリアで騒動が起こっていた。
『双炎の魔王軍』がバトルエリアを占拠し、周囲のプレイヤーを押し退けて占領し、勝手に設定を弄り始めたのだ。
「アイツ等、一体何する気だ?」
「話によればリーダー格が対戦するって話らしい」
他のPもカオスヘッドが同じランクPと戦うという噂を聞き付け、徐々に集まって騒ぎ始める。
殆どのPは彼等の評判を知った上もあり、上位ランク同士の戦い見たさもあって、それを止める真似をしない。
そんな中でカオスヘッド本人が現れた事で真実だと周囲が悟り、そんな状況をマックスやランロ、そしてティア達は静観していた。
「……『銀』同士の戦いか。これは楽しみだ」
「所詮は『銀』ですよ団長? 俺達にとっては雑魚ですって……」
楽しみに待つマックスとは正反対で、ランロは興味なさそうに缶ジュースを飲み続ける。
ランロ自身が『
ただ興味ないという点に関しては3階のティアも同じ意見であり、騒動に気付いて視線を向けるが、すぐに興味を失った。
「お嬢様……どうやら『銀の騎士』クラス同士の戦いが始まるそうです」
「そう……でも興味ないわ。あの人は『銀』じゃないもの」
買ってきて貰ったカフェオレを飲み、ティアは再び会場へと目を向けて覇王を探し始める。
高ランク故に余裕とも言える態度の彼女達だが、他のプレイヤーにすれば『銀』同士の戦いは眉唾者であり、まだかまだかと興奮していた時だった――
♦♦♦♦
「待たせたわね……」
アキがバトルエリアへ到着した。その後ろではムラサキと時雨が心配そうに、春夜は険しい表情で見守っている。
オープンイベント期間中もあり、ギャラリーの数は大規模な大会並みでアキは緊張しそうになるのを抑え、深く深呼吸してフィールドへ歩き出す。
「うぅ、アキちゃん~」
「アキ先輩ファイトっす!」
「……何もなきゃ良い。ただそれだけだ」
後ろでは春夜達が待機しアキだけが向かうのを確認し、それに合わせてカオスヘッドの部下達も退散した。
完全な一騎打ち。それは誰が見ても明らかだった。
「待ってたぜ……嬢ちゃんよぉ」
まるでカモを見るような笑みで待っていたカオスヘッド。
彼が立っていた場所。そこは一対一以外も可能な巨大な円上のフィールド。
その対極の位置に佇む二人は、目の前の機械にプレイヤーカードをスライドさせると目の前に『棺』の様な小さな箱が出現する。
「行くよ『紅葉』……!」
その棺へ、それぞれのEAを入れる事で準備が完了。
専用の椅子に腰を下ろし、アキとカオスヘッドは構成される仮想コクピット――『光の繭』に包まれた。
「あれが光の繭――通称『コア』か。個室じゃなく、リアルビジョンを使って生成するバーチャルコックピット……随分と進化したんだな」
「そうっす! あれだと閉鎖感も暑さや寒さも関係なく、色々と応用が効く画期的なコックピットっす!」
時雨の説明を聞きながら春夜が新型コアを見ている頃、コア内でアキはレバー等を掴み、細工がないかチェックを行っていた。
けれど細工どころか感度は良好。流石は新型のバトルフィールドだと感心すらしてしまう。
『凄く動かしやすい……これなら大丈夫ね。――『
アキはEAWのサポートAIを呼び出すと、コア内に形成された小さなモニターから女性の音声が流れ始める。
『おはようございます アキ。どの様な要件ですか?』
『向こうにモニター繋いで』
『かしこまりました』
EYEがそう言って数秒後。コール音と共に新たなモニターが表示され、映りだされたのはカオスヘッドだ。
『逃げずに来た事を褒めてやるよ! それで再度条件を纏めるが、勝負は今の設定・戦場はランダムでのバトル。勝者と敗者はさっきは言った通りの要望を聞く。それで良いんだな?』
『えぇ、構わないわ』
カオスヘッドは慢心で自惚れている。しかも『双炎の魔王軍』が仲間内でランクを調整しているのは有名な話だった。
カオスヘッドの『銀』ランク。それは実力に見合っていない。
そんな連中にアキは負ける気はなく、笑みを浮かべているカオスヘッドを尻目に自身に満ち、操縦レバーを握る手に力を込める。
『確かに聞いたからな?――じゃあ始めるぞEYE04!』
『りょ~かい』
カオスヘッドに呼ばれたEYE04はアキのと少し違い、どこか抜けた口調のAIだ。
サポートAIのEYEは設定ができ、気に入った性格に出来る。
ハッキリ言って、これが売り上げを左右する時期もあったが、アキは最初期からあり、一番人気で冷静なEYE00に設定していた。
『こっちもやるわよEYE!』
『かしこまりました』
向こうと違い、お淑やかなEYEに指示を出したアキは紅葉をカタパルトにスタンバイ。
次に目の前のモニターが紅葉のカメラとリンクし、景色を映し出す。
『P名:アキ! 紅葉――いきます!』
『P名:カオスヘッド! ヘルイフリート――蹂躙する!』
両者共に名乗りを上げ、同時にEAを発進。
光の閃を作りながらフィールドへとダイブさせると、外のモニターでは戦いの映像と共にP名とランク、そして大きな功績が表示された。
『P名:アキ ランク『銀の騎士』――公式大会参加回数24:上位入賞回数16:優勝回数12――全国EAWインターハイ個人戦優勝』
『P名:カオスヘッド ランク『銀の騎士』 公式大会参加回数36:上位入賞回数24:優勝回数3』
表示された両者のデータに会場からは驚きの声が上がり、春夜もどれどれと呑気な様子でそれを眺めた。
「へぇ、アキちゃんって大会に結構出てるし、インターハイも本当に優勝してるんだ」
「はい! アキちゃんは頑張りやさんですから~」
「そうっす! 自分達の誇りっす! ただ向こうも上位入賞回数だけは多いんで油断は出来ないっす」
時雨はそう言って心配そうにモニターを見ると、春夜もモニターを見ながら納得して頷いた。
優勝回数は少ないし、代表的な功績が表示されないのは大舞台での大会を制してない事実。
だが、それでも並みの大会で上位常連程の力がある事も事実。
前評判通りなら、面倒なアクシデントも起こされる可能性が高い。
「……さて、どうなるかな」
春夜は険しい表情でモニターを睨みながら、試合を見守る様にモニターへ集中するのだった。
♦♦♦♦
岩陰ぐらいしかない。シンプルなフィールド『荒野』
そこに立つ互いのEA――刀を二本下げ、背後に薙刀と火縄銃型の武器を持つデュアルアイの『紅葉』
黒く、左右の腕だけが赤と青に染めている三つ目の『ヘルイフリート』
そのデータや装備は確認したければ可能であり、アキとカオスヘッドは相手のEAの詳細画面を横目で見ていた。
『ヘルイフリート……ベース機体は『イフリート』の最新型『イフリート・オメガ』ね。武装も『炎帝シリーズ』の火属性レアパーツばっかり』
アキはモニターに映るヘルイフリートの詳細を見て、想像通りだったと笑みを浮かべた。
敵EAは頭部に三つのカメラアイを装着し、センサーも増設して索敵を強化している。
更に火属性を主軸としている事で高機動・高火力を軸としているが、ハッキリ言ってカスタマイズと言うのもおこがましい程に粗末に見えた。
『どうりで優勝回数が少ない筈よ……火力でゴリ押して、決勝で敗北しているパターンね』
機体の外見だけで見抜かる。それだけでも底が知れるわとアキは呆れた。
カスタマイズ・操縦技術。その両方を察したアキは慢心ではなく純粋に勝ちを確信する。
技術とかはなくゴリ押しだけで負ける程、軟な試合をして来てはいない。
だから深呼吸した頃には、アキの緊張は完全に消え去った。
『試合開始』
ブザーと共に試合開始の音声が発した直後、ヘルイフリートが動く。
『蜂の巣だッ!!』
ヘルイフリートの背部から二丁の大型マシンガンが現れ、サブアームで構えると同時、両腕のトンファーライフルの引き金を一斉に引いた。
――瞬間、破裂音と共に赤い光の弾幕が紅葉へ向かい、一斉に間合いを染め上げた。
『やっぱりそう来たわね……!』
だがアキは読んでいた。
火力ゴリ押し重視の大半は、初っ端からぶっ放す事が多い。
だからレバーを強く引いてスラスターを作動。紅葉は高速でフィールドを駆け、弾幕を回避した。
『速ぇ……!――だがな!』
回避されてもカオスヘッドも怯まず、すぐにセンサーに意識を集中させた。
ヘルイフリートの頭部カメラは三つもあり、センサーも多い。
だから紅葉の場所は完全に捉えてはロックオンもせずに、そこへ向けて弾幕のシャワーを放ち続けた。
『オラオラオラァァァ!!』
『甘いのよ……!』
その程度ではアキには何の問題にもならない。寧ろ嘗めんじゃないわよ、とやる気が更に上がったぐらいだ。
『紅葉は射撃もできるんだから!』
紅葉の背後から火銃『リンドウ』を取り出すと、移動しながら同じくロックオンもせずにヘルイフリートへ一発だけ放つ。
その弾は火属性特有の赤い弾だが、大きく高速にヘルイフリートの右肩のマシンガンを撃ち抜き爆散させた。
『なっ、なんだ!? 何が起こった!?』
モニターに映るダメージ詳細。武装LOSTの通知にカオスヘッドは動揺が隠せず、無駄にモニターを操作して確認を急いだ。
あんな高速移動中、正確な射撃なんて出来る筈がないと高を括った結果だが、アキが難無く熟したことで、カオスヘッドに嫌な汗が流れ始める。
この時点で腕の差が露見したが、僅かに弾幕を止んだ事でアキは一気に仕掛けた。
『行くよ紅葉!』
背部の薙刀『不知火』を取り、一気にヘルイフリートへと接近して振り下ろした。
ヘルイフリートは回避しようとしたが無駄に武器を構えていた事が災いし、操作性の悪さも相まって青い左腕を完全に捉えられ、そのまま左腕が宙を舞った。
『ぐおっ!? く、くそがッ!!』
増えるアラームにパニックになりながら、咆哮と共にカオスヘッドは右腕の収納武器である仕込み刃『デュアルイフリータ』を展開。
反撃しようと試みたが、背部サブアームに薙刀を持たせた紅葉は、空いた両手で腰の刀を抜刀して受け止めた。
『なんだこいつ!? 持ち替えも対処も早すぎる!?』
『場数の差よ! 一気に押し通るわ!!』
スラスターから一気に放出し、紅葉は片腕で受けていたヘルイフリートごと突き進み、そのまま岩へと叩き付けた。
岩に亀裂を生んだその衝撃は機体自身へもダメージを与え、一部のパーツがヘルイフリートから剝がれ落ち、損傷は増加。
ボロボロの自分に比べ、無傷である相手の姿にカオスヘッドの頭に血が昇る。
『ぐあぁ!? まだだ! こんな……こんな筈じゃ!』
ヘルイフリートは紅葉を蹴り飛ばして間合いを作ると、背部ポッドからミサイルを複数発射した。
ただそれは普通のミサイルではなく、形を獣の様な火の精霊へと姿を変えて不思議な動きで紅葉へと飛んでいく。
『どうだ! 自動でロックオンするレアパーツ『スピリットミサイル』の動きは! 避けようが下手に動いても直撃させるぜ!』
『だから何よ?――EYE! 収納スペースのもう一本の薙刀を出して!』
『かしこまりました』
EYEは返事をすると、紅葉も更にサブアームを出し、その手に粒子が集まり薙刀が握られた。
『こんなもの、避けるまでもないわよ!!』
両サブアームの薙刀を高速回転させると、薙刀の刃が発火する。
炎輪となり、突っ込んできたスピリットミサイルを受け止めると、そのまま撃ち消した。
その姿はまるで四腕の荒武者であり、カオスヘッドはコックピットで絶句する。
『バ、バカな……俺様は『銀の騎士』だぞ! なのに、なんでこんな試合に――!?』
信じられないと動揺するカオスヘッドだったが、それは会場で見ている者達も同じだった。
「おい、本当に同じ『銀』同士なんだよな? 凄い一方的だぞ!?」
「カオスヘッドもそこまで弱くはない筈だが、それ以上にアキって子が強すぎるんだ!」
周囲は完全にアキの強さに気付き、画面に見入ってしまう中、ムラサキと時雨もアキの圧勝に喜びの声をあげる。
「強いわアキちゃん~!」
「流石は先輩っす! もう勝ったも同然っす! 季城さんもそう思うっすよね!」
「……う~ん、そう思いたいんだけどさ」
時雨達の言葉に頷きたかった春夜だが、表情を険しくしながら周囲を見渡すと、会場の
「……『双炎の魔王軍』のメンバーいなくなってるね?」
先程までバトルエリアをウロチョロしていたメンバーが一斉に姿を消していた。
言い方は悪いが、結構な人数でウロチョロし目障りだった者達が一斉に姿を消すのは異常でしかない。
「本当ですね……どこに行かれたのでしょうか~?」
「リーダーがあの様っすから逃げたんすよ! そういう連中らしいっすからね!」
春夜の言葉に二人も気付いたが、時雨は気にせず、そう言ってモニターに視線を戻してしまう。
けれど、春夜は険しい表情を崩さなかった。
――素直に負けを認める連中か?
カオスヘッド達の性格を思い出し、春夜は胸騒ぎを感じていた。
だが周囲が騒ぎ出したのでモニターに視線を戻すと、紅葉がヘルイフリートを追い詰め、まさにトドメを刺そうとしていた時だった。
『これで決着ね……』
スキルを使うまでもない。口だけでしかなく、これならインターハイの方が手強かったぐらいだ。
アキはそう思いながらトドメを刺そうと武器を振り上げるが、それでもカオスヘッドは強気の態度を崩さなかった。
『……ハッ! 本当にそう思ってんのか?』
やけに強気な態度だとアキは思ったが、ヘルイフリートの至る所が放電し装甲も抉れている事から逆転の芽はない。
つまりは負け惜しみ。自分の負けを言い訳で誤魔化す人種だと思い、そのまま腕を振り上げた時だった。
――不意に青い閃光が紅葉のサブアームを射抜き、薙刀が落下した。
『どうしたの!?』
コックピットに広がるアラーム音とサブアームの破損報告。
あり得ない状況にアキが困惑すると、EYEが現れた。
『遠距離からの狙撃です。熱源反応も
『なんですって!?』
アキはすぐにカメラを拡大させた。
すると、その場所には水属性のスナイパーライフルを持ったEAが構えており、それを捉えた瞬間にアラームが更に増加する。
『上空から更に多数の敵反応。回避してください』
『ッ!』
一気に後退すると同時に下りて来るEAの集団。
それはヘルイフリートを守る様に布陣すると、カオスヘッドが怒鳴りの檄を飛ばした。
『テメェ等クソ遅いんだよ! なにチンタラしてんだ!!』
『リーダーが何かあるまで動くなって言ったんでしょ? 責任転換じゃない?』
『うっせぇ! 良いから直せ!』
仲間を怒鳴り散らしながら命令すると、ヘルイフリートの周りに支援型EAが現れ、ヘルイフリートの修理を始める。
その間に他のEAは武器を紅葉へと向け、その光景にアキは自分が嵌められた事に気付いた。
『あんた……最初から騙してたのね! 仲間を待機させてるなんて卑怯な奴!』
「そうっす! 反則っす!」
アキの叫びと現状はモニターで映されており、時雨がそう叫ぶと周囲も「そうだーそうだー」と流石にブーイングをするが、カオスヘッドは逆に怒鳴り返した。
『うっせぇぞ外野が!! それに最初に言った筈だぞ俺は?……
『設定?――EYE! この対戦の設定はどうなってるの!?』
嫌な予感を感じ、アキはEYEにすぐに問い掛けるとモニターに設定が表示され、そこに映された設定にアキは我が目を疑った。
『現在の設定は集団対戦――『総力戦』となっております』
『そんな……!』
その言葉を聞いて完全に自分の確認ミスだと、アキは顔から血の気が引いてしまう。
そして周囲もザワつく中、春夜は事情が分からずムラサキ達に問いかけた。
「ごめん……総力戦ってなに? 確かイベント以外だと、EAWって基本は一対一だよね?」
「そうなんですが総力戦は違うのですぅ~!」
「最近はチームも増えたから、それに対応して集団対戦できる様になったっす! あいつ等はそれを悪用してるっす! 許せないっす!」
設定を見ていなかったとはいえ、流石にそんな事をする奴は基本的にいない。
しかし不注意で片付けるには悪質であり、中断する気もない事も知っているムラサキと時雨はEAを持った。
「すいません行ってきます!」
「先輩をたすけるっす!」
二人はアキの左右のコックピットに立ち、参戦する為に自分のプレイヤーカードを読み込ませた。
だが何故かエラー音と共に拒否されてしまった。
「どうして!?」
「どういう事っすか!」
『現在、アキチームの参加条件は『銀の騎士』以上となっております。ですので『銅の騎士』以下のプレイヤーの参加は認められません』
EYEの言葉に時雨達は言葉を失い、見ていられなかった周囲のプレイヤーも思わずEAボックスを下ろしてしまった。
基本的に『銀の騎士』でも上級者と呼べるランクの中、それ以下の参戦を封じられればどうする事も出来ない。
だが納得できない時雨は、せめてもの抗議をカオスヘッド達へ叫びまくった。
「反則っす! 反則っす! そっちの連中の大半は『銅の騎士』どころか『青銅の兵士』クラスの筈っす!」
『ハッハッハッ!! だからどうした? そういう条件にしてるだけだぜ? つまりはルールに従ってんだよ俺等はな!』
あくまでも
だがアキは許せなかった。平然と卑怯な真似をするカオスヘッド達を。
『ふざけるな! こんな事、納得できる訳が――』
『さ~て始めっか!――やれやお前等!!』
修理を終えたヘルイフリートは立ち上がり、腕を上げて一斉に攻撃を開始を指示。
それに合わせ、彼等のEA部隊が動き始めた。
『よっしゃ! レアパーツは頂き!』
『数で押せば『銀の騎士』だろうが!!』
ブレードやアックス、バズーカや銃器を持って一斉に突撃を開始する『双炎の魔王軍』のEA。
その大半は三つのアイを持つ機体サイズが大きく、荒野の様な場所に強い地属性重EA『ゲノーモス』だった。
TC・アメリカ支社が開発した重装甲・高機動が売りのEAであり、現在ある地属性EAの中で覇権を取った大人気の機体だ。
『ゲノーモス!? フィールドがランダムなのも嘘ね!』
明らかに敵EAに有利なフィールドである以上、ランダムというのも嘘が確定するがアキは迎え撃とうと動いた。
『舐めんじゃないわよ!』
刀を収めて高威力の銃を敵へと向け、敵EAの頭部や腕を貫いて行動を次々と停止させる。
そこに足が止まったEAへ高速で接近し、薙刀を振るい周囲を斬り裂いていった。
『は、速い!』
『やられた!? コアが破損しちまった!』
一気に4機を潰した紅葉だが、今度は5機編成の小隊4隊が接近しキリがなかった。
『後方部隊……一斉攻撃!! 水属性の武器を存分に使え!!』
カオスヘッドの声で一斉に別方向から放たれる青い弾・レーザー・ミサイルの雨。
火属性が多い紅葉には、水属性の攻撃はダメージは大きかった。
それが降り注ぐと、モニターは揺れて紅葉の甲冑にも傷が目立ち始める。
『紅葉――ダメージ40%に到達しました』
『それでも諦めないわよ!』
紅葉は銃弾の雨を避けようと動くが、そこに突撃部隊が現れて交戦を余儀なくされる。
しかも撃破する直前に再び銃弾の雨を浴びる事になり、もはや嬲り殺し状態だ。
だがアキは諦めず、紅葉も応えるかのように
「破損しているのに、更に出力が上がる?――ん?」
その不思議な光景を見て春夜は違和感を抱いていると、不意に自身が持つEAボックスが僅かに揺れている事に気付いた。
「……まさか」
何かに気付いた様に急いでボックスを開け、中にある自身のEAを見て我が目を疑った。
「そんなバカな……!
驚愕と困惑する春夜の手には
「これは……償いだな」
困った様に小さく笑いながら、春夜はそう呟く。
その表情は叱られた子供の様に寂しそうであったが、その表情はすぐに変わった。
そして鋭利な眼光をカオスヘッド達へ向け、静かにフィールドへと歩み始めた。
『ダメージ。更に増加』
その間にも紅葉のダメージは増えていき、これには他のプレイヤーも見捨てる訳にはいかないとマックスやティアが動いた。
「見てられん! 行くぞランロ!」
「仰せのままに……団長」
「……行くわよセバス」
「畏まりました。お嬢様……」
2階と3階にそれぞれのエレベーターへと急ごうとするが、その瞬間、1階のバトルエリアの観客の内の一人の声が四人の耳に届く。
「おい!
この状況下で一人、EAボックスを持った一人の青年――春夜はフィールドへ歩いて行く。
マスクをし、YOMIGIのTシャツと桜餅のジャケットを着た変わった青年に周囲は困惑するが、それを見ていたマックスとティアは無意識に足を止めていた。
「ちょっと失礼するよ時雨ちゃん」
「き、季城さん?」
悔しく、そして悲しそうな表情をする時雨とムラサキの傍で春夜は足を止めた。
そして時雨のいた場所のコアに来ると、春夜はプレイヤーカードを取り出し、読み込ませた。
『……『銀の騎士』
「えっと……あの?」
時雨が気になって不安そうに春夜を見上げるが、春夜は形成されるコアの中へと入って行った。
その最中に見せた表情は真面目な表情だったが、すぐに笑みを浮かべた。
「……まぁ、期待には応えないとね」
そう呟き笑みを浮かべたまま、春夜はコアの中へと消えていく。
しかしフィールドでは未だに激戦は終わらず、アキはずっと奮戦して耐え続けていた。
『まだまだッ!!』
左腕を持ってかれ、頭部も半分は破損した。
だが残った右腕と右のサブアーム、両足に仕込んだ小太刀で更に敵EAを撃破すると、『双炎の魔王軍』の者達も流石に気迫で下がる者が出始めた。
『な、なんて奴だ……!』
『リーダーどうする! あのEA様子が変だぜ!?』
『チッ――特殊なスキルかも知れねぇ。こうなったら
半壊近くまで持っていったのに、全く機体の動きが鈍らないのは困惑を通り越して不気味だった。
内心で胸騒ぎを覚えるカオスヘッドは、その不安を消す為に指示を出すと4機のEAが紅葉に高速接近していく。
その手には青い蛇の様な鞭が握られており、一定の間合いに入った全機が放つと鞭が一直線に伸び、紅葉の右腕・腹部・両足に巻き付いた。
『!?――なにこれスタン!?』
青い電撃が紅葉を襲う。そしてアキのモニターには『STAN』のマークが表示され、そのまま紅葉は膝を付いて動きを止めてしまう。
『しまった! 水属性のスタン武器!?』
『これで勝負ありだ……綺麗にバラして俺等の勝利と行くか!』
スタンされて操作が出来なくなり膝を付く紅葉と、それに近寄ってくる敵EA部隊。
このままではパーツをバラされ、適当に勝負を決めて全てを奪われてしまう。
そんな光景がアキの脳裏に過り、必死にレバーを操作するが紅葉は動かなかった。
『動いて! 動いて紅葉! こんな……こんな負け方なんて……!』
くやしい。大事に作った紅葉まで、こんな理不尽な勝負で負けてしまう事が。
そして悔やまれる。こんな連中でも勝負では反則できないと思っていた事が。
『そんじゃあ……レアパーツ奪えやぁ!!』
『了解!』
後方にいるカオスヘッドの指示に1機のゲノーモスが紅葉の傍に立ち、その両手持ちの巨大アックスをギロチンの如く振り上げた。
それをモニターで見ていたアキの目から、思わず悔し涙が流れる。
『くそ……くそぉ……! 負けたくないよ……こんなので……!』
人前で泣きたくない。
コアの中という事だけが救いだったが、それもまた情けなくて辛かった。
せめてもの現実逃避として、アキは目を閉じた。悔しくて仕方ないから。
けれど非情にも音だけでも状況が分かるし、大切なEAが壊されることが最も心を痛ませる。
『こんな事になるなら……EAWなんて最初からやらなかったのに……』
始まりの覇王に憧れてEAWを始めたのに、こんな目に遭う事なんて誰もが望む筈がない。
それが最後の言葉とし、アキは肩の力が抜けていく。
せめてもの反抗でレバーは掴み続けるが、心が折れた様に顔はゆっくりと下へと下がっていった。
――その時だった。
『――俺が見惚れたのは君の笑顔だ。だから、そんな辛そうな表情は似合わない』
『……えっ?』
聞き覚えのある声にアキは顔を上げた瞬間、空から橙色の閃光が降り注ぎ、紅葉を囲んでいたEA。その胸部にあるコア全てが的確に撃ち抜かれる。
撃ち抜かれたEAはそのまま爆散か、原型を残したまま動きを止めて沈黙する。
『なんだ!? 何が起こったか報告しやがれ!』
突如レーダーに友軍機LOSTが大量に現れたカオスヘッドは何事かと部下に檄を飛ばし、すぐさま状況報告をさせた。
するとカオスヘッドの傍に1機のネムレスが近付いて通信を送る。
『空からの射撃だ! 女のEAを囲んでいた連中が全員やられた!?』
『全員を!? しかも空だと……!』
部下の言葉に困惑するカオスヘッドは咄嗟に上空を向くと、空から
そのEAは降りてくると紅葉の前に着地し、アキもモニター越しで見て、そのEAの存在感に思わず大きく目を開く。
『侍……いや、武将?』
そのEAは武将を連想させる甲冑型の装甲。所々に見える着物の様な模様のデザインを刻み、不思議と重圧的な威圧感を放っていた。
武装は、腰と両腕の左右に計4本の太刀を。背後に大型スラスターと十文字槍もある。
その手にも紅葉のと類似する火縄銃型の銃が握られており、その機体のデュアルアイがカオスヘッド達を睨んでいる。
『このEA……どこかで』
一目見ただけで分かる完成度の高さ。
細かい部分までに手を入れていて分かる完成度あるEAにアキは驚きながらも、どこか懐かしさを抱いた時だった。
『遅くなってゴメンよ、アキちゃん……』
通信で呼びかけられる声――それは春夜だった。
『えっ……春夜さん!? このEAって春夜さんのなんですか!?』
『あぁそうだ……俺の愛機『
『せ、戦護……村正……?』
モニター越しに村正を見渡すアキだったが、それを構成しているパーツの大半は見た事が無いものだった。
ただ村正が強力なEAなのは直感的に理解するが、村正の登場はカオスヘッド達もモニター越しで確認していた。
『ア、アイツ……さっきの復帰勢か?』
カオスヘッドは直感的に見て村正に何か感じ取り、すぐに相手の機体データを確認すると内容に驚いた。
『機体名『戦護村正』――ベース機『初代ムラマサ』 主な武装パーツ『大乱世シリーズ・四季シリーズ』』
『なっ……まさかムラマサの初期版か!?――ハ、ハハハッ……ハッーハッハッハッ!! 最高のレアじゃねえか!!』
それは世界有数のEAW企業の一角【千石社】が製作した超高性能EA――初代ムラマサと言われるムラマサシリーズの最初期EAだ。
超高性能だが操縦性に難もあって出回った数が少なく、けれど始まりの覇王が使った機体でもあって今ではプレミア価格が付いている。
『すげぇぜ……だが『四季シリーズ』っての聞いたことがねぇな』
馬鹿でも高価と分かるEAにテンションが上がるカオスヘッドだが、聞き覚えのないシリーズに疑問を持つも、すぐに頭を切り替えた。
『初代ムラマサなら普通に売っても数十万……いや今じゃ数百万か!? 最高だ、こんな代物ならリヴァイアサンなんて幾らでもくれてやるぜ!』
マニアや企業に売れば値段はもっと上がるだろうと、カオスヘッド達の興味は村正へと完全に移った。
新型EAリヴァイアサンを10機だろうが100機だろうが売っても手に入らない超希少EA。
もうカオスヘッドの脳内は『村正』で一杯だ。
『鴨が葱どころか金の延べ棒担いで来やがった! テメェ等!! 予定変更だ! まずはあっちの――』
カオスヘッドが部下に指示を出そうとした時だ。
EYEが突然、その言葉を遮って割り込んだ。
『最高ランクのプレイヤーが参戦致しました。これにより、この試合は『超昇格戦』となります』
『これは強制だよぉ~頑張って昇格しよう~』
『……ハァ? 昇格戦……だと?』
意外な言葉にカオスヘッド達は動きを止める。
♦♦♦♦
昇格戦の話はアキの下にも届いており、レバーを掴みながらただ茫然と聞いていた。
『……それってつまり――』
EYEからの突然の宣言にアキも困惑するが、それは会場の者達も一緒だ。
昇格戦が告げられると会場のプレイヤー達も一斉に騒ぎ出し、ムラサキと時雨も互いに顔を見合わせる。
「確か昇格戦ってぇ~とあるランクのプレイヤーと戦う時に発生するはずよねぇ~?」
「そうっす! 普通は大会とか戦績で昇格するのが普通っすけど、かなりの格上相手に勝てばランクは問答無用で上がるっす。――っていうか、それってつまり……」
会場のプレイヤー全ての視線が、春夜のコアへと注がれる。
『銀の騎士』だろうが、どのランクだろうが勝てば問答無用で昇格できるランクは最高ランクの一つ――『白金の騎士』のみ。
つまり春夜のランクは――
『『白金の騎士』だとぉぉぉぉ!!!?』
会場中が爆発する様な叫び声は、アキにも微かだが聞こえていた。
世界規模のEAWでプロでも殆どいない『白金の騎士』が目の前にいる事実。
しかも名も知らぬ復帰勢のプレイヤーならば尚の事で、それが分かった会場のざわつきは治まる事はなかった。
『……でも『
ザワつく周囲の中、時雨も聞いた事がない昇格戦に首を傾げる。
周囲の困惑。その一番の問題はそれだからだ。
明らかに普通の昇格戦ではないと聞き覚えもなく、周囲は話し合うが答えは出ない。
――だが、
「超昇格戦だと……!」
「まさか……そんな!」
マックスとティアの二人だけは驚愕の表情を浮かべ、この試合を目に焼き付け様と身を乗り出してフィールドへ視線を固定させた。
焼き付けなければならない。そう思わせるかのように身を乗り出すトップランカー二名の姿が、更に周囲を困惑させた時だった。
「……超昇格戦ってのは、昇格戦よりも更に上の戦いだ」
困惑の声ばかりの中、一人冷静な声は周囲の耳によく届く。
そして、声の主である男にも視線が集まった。
「し、士郎さん……?」
「よっ……やっぱり騒ぎが起きたか」
たこ焼き片手に呑気に歩いて来る士郎にムラサキが気付くが、時雨はそれよりもその続きが気になった。
「あの! 昇格戦よりも上ってどういうことっすか!?」
「そのまんまの意味だ……格上の相手と発生する昇格戦、それよりも上。つまり『白金の騎士』クラス
「えっ……『白金の騎士』よりも上? ですがそれって――」
「まっ……他の六人も最近じゃ多忙だしな。それに並みの大会だと発生しねぇし、昇格戦自体、白銀以外じゃ一つ上程度のランク差じゃ発生もしねぇ名ばかりのレアイベント。だから知らねぇのも無理はねぇさ」
「それって……まさか!」
「春夜さんが……!」
士郎の言葉にムラサキは察した様に両手で口を隠し、時雨も開いた口が塞がらない。
だが察したのは彼女だけじゃない。会場全ての者も察して周囲の音が死んだ頃、春夜はコア中でEYEと対話していた。
『やぁEYE……久しぶりだ』
『ご無沙汰しております……
『チュートリアルは大事だよ……けど、今はそんな暇がない。――だからサポートを頼む』
口調とは裏腹に真剣な表情、そして怒りを宿した瞳で話す春夜へ、EYEも懐かしそうに承認する。
『かしこまりました。では、これより対戦表示を更新いたします』
EYEがそう言うとアキの、カオスヘッドの、そして外のモニターに新たなプレイヤーの名が表示された。
それは会場中を息を呑んで釘付けにする中、士郎だけは余裕の表情で見ていた。
この時を待っていたぞと、言わんばかりに悪戯めいた笑みで。
「さぁ見せてくれよ……
『P名:季節餅 ・ランク『覇王』――公式大会参加回数58:上位入賞回数58:優勝回数58――第一回EAW世界大会予選1位通過及び、世界大会優勝』
――それが表示された瞬間、会場が揺れた。
ある者はただ叫び、ある者は感極まって涙を流し、ある者は逆に言葉を失う。
アキも息をするのを忘れて放心し、カオスヘッドの表情は真っ青に染まった。
だが全員が視線をモニターからは外さない。今、目の前で伝説が蘇る。
そんな歓声に気付いているかどうかは分からないが、レバーを握った春夜の表情は楽しそうな笑みを浮かべていた。
そして――
『P名:季節餅 改め――季城 春夜。戦護村正
その言葉と共に
――覇王再臨。
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