第一章:覇王再臨

第1話:アキと春夜


 TCがEAWの為に作り上げた人工島――に浮かぶ国内最大のEAW施設【EAWスタジアム】がそこにあった。


 EAWスタジアム内では出店、大道芸、花火が打ち上がり、それを見ながら楽しむ人々に溢れ返っていた。

 

 はしゃぐ親子や子供達に老若男女の人々によって楽し気な雰囲気がある。

 

 中には肩慣らしと言わんばかりに気の早い者達が、外に設置された簡易フィールドで、バトルを始めて自身の力を示していた。


 しかし明るく楽しむのは、ただの観光客やエンジョイ勢ぐらいだ。

 

 この島に目的を以て訪れる多くの猛者――Pプレイヤーは、この施設で最大の盛り上がりを魅せてくれる存在を探していた。

 

――狙うは、始まりの覇王ただ一人。


 このEAWスタジアムに訪れるP達で、始まりの覇王の噂を知らない者はまずいない。

 

 それ程までに噂は一人歩きし、第七回の世界大会が終わり、あらかたEAW界が安定した今、誰もがを抱いていた。

 

――始まりの覇王は必ずこのスタジアムに現れる。

 

 その予感、想い。所詮は願望でしかない。だが影響は既に出ている。

 

 始まりの覇王効果により『黄金の騎士ゴールド』や『白金の騎士プラチナ』クラスのPが数多く集結し、一般人の中に紛れてプロの姿もある。


 本来ならば場違いとも呼べる存在達。

 そのファン・野次馬も含めれば参加人数は数千、万を超える異常ぶりが噂の本気度を現すかのようだった。


 SNS・ニュースも繁盛ぶりに押されたアナウンサー達が焦り気味に中継し、係員達の誘導も、激務超えて避難誘導の領域で対応していた。


『通常入場は此方からになります! 此方から並んでください!! そっちじゃありませんよ!?』


『特別入場は此方になります! 入場資格は『銀の騎士』以上の方で、付き添いは4名までになります!』


 入場だけでも混乱は避けられない。係員が叫ぶように対応する姿は、まるでパニックだ。

 

 その中心地である一般入場は行列が生まれていた。

 

 だが、対照的には決められたランクによる待遇入場によって、スムーズに入場が許されていた。


――そんな特別入場の入口前で、アキを含めた三人は絶賛立ち往生中だった。


「あれ……? あれれ?……あぁぁれぇぇぇ!!? ない! プレイヤーカードが何処にもない!?」


 店からでたアキは、自転車で本土と人工島を繋ぐ橋を一気に渡り、無事に友人達と合流したが、運が良かったのはそこまでだった。


 特別入場に必要なPカードがないのだ。 


「どこどこ!? Pはどこ!」


 自身の鞄からEAボックスまで全てを開けて調べるが、目的の物はない。

 

 そんなアキの姿に清楚な服装をした黒髪ポニーテールの<天川あまがわ ムラサキ>

 

 ボーイッシュな私服を着る小柄な茶髪後輩女子<木逢きあい 時雨しぐれ

 同じ高校のEAW部の二人も、心配そうに見守るしかなかった。


「ア、アキちゃん落ち着いて~財布とかには入ってないの~?」


「そうっすよ! 大事なもの大半は財布にあるっす!」


「探したけどないのよぉ……! どうしよう、あれないと特別入場できない……!」


 誘った張本人で、しかも入場資格である『銀の騎士』ランクを持つのもアキだけだった。


 その事もあってアキにプレッシャーが掛かり、遅刻は免れたがカードが無いショックは大きい。

 

 罪悪感によるダメージも容赦なく自身を責めてしまう。大事なPカードの紛失も手伝い、血の気が引くのをアキは感じた。


「や、やっぱりない……! うぅ、ごめん二人共……Pカード、やっぱりないぃ……!」


「そ、そんなこと気にしないで下さいアキちゃん……私達は大丈夫ですから~」


「そうっす! それよりも紅葉院先輩のカードの方が大事っすよ!」


 こんな状況でも自分を心配してくれる仲間の言葉が、アキの胸に染み渡る。

 

 思わず目尻が熱くなる。

 

 だが今こそ二人の為に頑張る時だと、顔をあげて歯を食い縛って耐えた自身を褒めたかった。


「ありがとう二人共……うん! ちょっと家に電話してみる。店に置きっぱなしにしてるかもしれないし!」


 仲間の為、自分の為にと急いでスマホを取り出し、店ではなく直接士郎のスマホにアキは連絡を試みた。


 無いならば最後の可能性。家に忘れた以外に何があるというのだ。


 望みを賭ける様にアキは電話すると、運が向いて来たのか僅か2コールで士郎は電話に出てくれた。


『おう、なんだ馬鹿姪?』


「第一声がヒドい!?――ってそうじゃなくて、叔父さんまだ店にいる? 少し聞きたいことがある――」


『いや店にはいねぇ。外出中だ』


 他人事のような軽い口調の士郎の声に、アキは頭の中が真っ白になった。

 全身に嫌な寒気も駆け抜けた気がした。全てを諦めた時の血の気が失せた寒気だ。


「……終わったわ、何もかも」


 やる気を出した瞬間の絶望。

 それは心を抉り取り、無意識に下がった顔を上げる力も残さない。


「……あぁそうなんだ。じゃあ……今はどこにいるの?」


 そのショックは希望を持った反動もあって大きく、力無くアキが問いかけると――


「――可愛い姪っ子の後ろだ」


 背後からの士郎の声に、アキは顔を上げて振り返った。

 そこには自分のPカードをこれ見よがしに揺らしながら立っている士郎と見知らぬ青年がいた。

 

「私のPカード!」


 けれどアキが青年に意識が向く事はない、というより気付くよりも先に嫌な顔でニヤニヤしている士郎。


 彼が持つ自身のPカードが彼女の意識を引っ張り、飛び掛かる様に勢いよく士郎の前に立った。


「大事なもん忘れやがって……今日は売り上げのお零れ諦めるしかないな。――ほら、お前のPカードだ」


 そんな姪の姿に呆れた表情を浮かべる士郎へ、アキは何も言えなかった。

 

 それでも内心で反省しながら震えながらカードを受け取ると、慣れた手触りが自身のプレイヤーカードだと教え、ようやく安心を得られた。


「お、お、叔父さん……ありがとう!!」


 アキは喜びのあまり士郎へと抱き着き、士郎も誇らしげにわざとらしく笑い出す。


「ハッハッハッ」


「私、今世界で一番幸せな姪だよぉ~!」


「じゃあ俺は世界で一番最高の叔父だな。まぁ知ってたが」


「良かったですねアキちゃん!」


「やっぱり持つべきものは家族っす!」


 アキ達を中心に優しい空間が生まれた。

 

 遠目で見れば、なんか笑っているヤバい集団でもあった。

 実際になんかヤバい集団、的な声がアキ達の耳に届くが、それも関係ない。


 少なくとも自分と友人達は救われたのだからと、アキに生気が戻っていた時だった。


「泣ける話だ……俺も思わず胸がほっこりしたよ」


 軽く拍手しながら、聞き覚えのないわざとらしい声がアキ達の耳に届く。

 その声にアキ達は動きを止め、一斉に声の主である青年へ顔を向けた。

 

「あ、あなた……誰?」


 アキ達からすれば青年とは初対面だ。

 

 警戒な目で見るのは失礼だと自覚もあるが、青年が距離感無視で何気なく入ってきたのだから仕方ない。


 するとアキ達の視線に気付いた士郎も手をポンッと叩き、わざとらしく、思い出した様に説明し始めた。


「あぁそうだった……こいつは季城 春夜って言ってな。お前が出掛けてすぐに来た客でよ。ここまでの道が分かんねぇって事でついでに連れて来たんだ。――それに一応、復帰勢でもある」


「復帰勢……?」


 アキは春夜の全身を確認する様に見まわした。

 

 普通のマスクにジャケットからはみ出た変なTシャツを除けば、平凡な感じで不審者ではないとも思えた。


 何よりも、大事に使われていたであろう使い古されたEAボックスを持っている事から復帰勢である事を察した。


「普通……っていうか異物混入? けど、復帰勢と言われると納得できる気がするのよねぇ」


 マスクで表情が分からないが、露骨に冴えてない雰囲気と何故かやる気のない感じで復帰勢らしいとアキは感じた。

 

 完全に自身のイメージだが。

 そんなアキの視線に春夜も気付き、他人事の様な感じに手を振りながら挨拶をした。


「初めまして、季城 春夜です。年齢は21で大学生やってるからよろしく頼むよ。親しみを込めて“餅の探求者”――略して餅求者って呼んでくれ。今まで誰も言ってくれないんだ」


「いや私達も呼びませんよ……でも、餅が好きなのは分かりました」


 第一声の自己紹介で餅推しする人は、アキの人生で初だった。

 

 だが横で電子タバコを吸う士郎の様子を見る限り、アキは春夜が本当に悪い人物ではないと確信できた。


 それだけ士郎の人を見る目を信頼していたし、何より一人のPとして使い古されたEAボックスが好印象だ。


「……所々に傷はあるけど、あんな使い古したボックスを見れば大切にしているって分かるわ」


 箱の所々にある傷を見たアキは、直感的ではあるが粗暴に扱って出来た傷ではないと悟った。

 

 物を大切にする人に悪い人はいない。

 特にPの顔の一つでもある、EAボックスならば尚更だとアキは勝手に納得した。


「でも助かりましたわ士郎さん。これで中に入れるもの~」


「士郎さんどうもっす!」


「いやいや姪だけならともかく、他の人も巻き込んでんなら放っておく訳にもいかねぇからな」


 ムラサキと時雨の感謝の言葉に気にするなと、返す士郎だったがその後に何か言いずらそうに頭を弄り始めた。

 そして、士郎がそのまま自分を見ている事にアキは気付く。


「えっと……なんかあるの?」


「実はな……春夜をお前達と一緒に同行させてほしいんだ」


 士郎からの予想外な言葉にアキは友人達の顔の方を向くと、ムラサキ達も同じ気持ちなのか互いにキョトンとする。


「えっと……どうして季城さんを私達に?」


「実はこいつ……色々と現環境の知識が抜けていてな。店に来た時も武器のカスタムパーツも知らなかったんだ」


「そ、それは復帰するにしても致命的っす!? あるとないとじゃ大違いっすよ!」


 士郎の言葉を聞いて、部活で一番入部が浅い時雨ですら驚くが、アキも時雨の意見に賛成だ。


 『銅の騎士』のムラサキ達ですら使用し、弾数・チャージ時間の問題を解決するパーツでプロだって使っている。今では標準装備のチームも多い。


 一部例外を除けば、大半が使用するパーツを知らないならアキも、確かに士郎が心配するのも分かると納得した。


 だが、当の春夜はやや困った様子だった。

 

「あぁ、やっぱそんな感じなんだ。でも個人的にはそこまで必要ないんだけどね……」


 何か思う事があるのか、時雨の言葉を聞いた春夜は、マスクをしても分かる様なバツの悪い表情を浮かべながら悩んでいた。


「……まぁ強化パーツに関しては車の中で士郎さんに聞いたし、俺のEAも事前にカスタマイズしたから大丈夫だって」


 あまり関わりを持ちたくないのか、それとも迷惑を掛けるの避けようとしているのか。


 どちらにしろ春夜が、これ以上の世話を断ろうとしているのは明白であったが、士郎はやれやれと言った様子で話を続けた。


「――って言ってるが、どうも心配でな。折角のEAWスタジアムで悪いんだが、色々と教えてやってくれないか?」


「そういう事なら私は構わないけど……二人はどう?」


 高校でEAW部の部長をしている事もあって、こういう困っている人をアキは見捨てられなかった。

 ただ自分一人でない為、連れのムラサキ達にも聞いてみると二人は喜んで頷いた。


「私は構いません~」


「ワタシもっす! 一緒に先輩に教わりましょう!」


「なんか……皆優しくて逆に申し訳ないな」


 満面の笑みで受け入れてくれるアキ達を見て、春夜は言葉通り、申し訳ないとでも思ったのか、それが雰囲気に出しながら頭を掻いた。


 それを見てアキはやれやれと笑みを浮かべ、情けない表情のの胸をトンっと叩く。


「男子がそんな情けない顔をしないの! EAWは皆で楽しむものなんだから、そんなこと気にしないで? これでも私、インターハイ制覇してるんだからどんと任せなさい!」


 そう言って自身の胸も叩き、アキは自分でも分かる様な満面の笑みを浮かべた。

 EAWは皆でプレイするものだ。ならば手を貸すのも問題ではなく、寧ろ頼れ。


 そんなアキの気持ちが通じたのか、春夜は少し驚いた様な様子でアキを見て固まり、ジッと見られたアキは照れ臭くなってしまった。


「ちょ、ちょっと……何か言ってくださいよ?」


 自分を見つめたまま固まる春夜にアキは呼びかけると、春夜は我に返った様に瞬きすると、すぐに笑みを浮かべた。


「いや、紅葉院さんの笑顔に見惚れてたんだよ。本当に綺麗だった」


「……えっ?」


 春夜の言葉にアキは一瞬動きと表情が固まる。

 思考は何故か逆にフル稼働しているが、経験がないので顔が熱くなる。


 その背後でもムラサキ達の驚きの声が聞こえ、恐らく同じ様に真っ赤になった顔を隠しているのが分かる。

 

「ハハハッ……頼りになるけど反応は可愛いんだね」


 けれど、余裕のある雰囲気をしている春夜を見て、きっとこれはコミュニケーションの一環だと気付いた。


 半ば、からかわれているとも思い、反撃する様に余裕の態度をアキは無理矢理作り出してみせた。


「アハハ……ありがとうございます。それに私の事はアキで良いですよ?――でも、一回褒めたぐらいじゃ私は惚れてあげませんからね」


 悪戯っ子の様な笑みを作り、アキは春夜を向けてからかう様に言い返す。

 内心では心臓バクバクだったが、せめてもの反撃。


 春夜も予想外の反応で面喰ってポカンとすると、そんな春夜の背中を士郎がおかしそうに叩いた。


「ハハ、そう言う事だ。うちの姪っ子はハードル高いぞ?」


「確かに……これは飛び越えるのが大変だ。――それじゃって呼ばせてもらうよ。それと、後ろの子達にも挨拶をしないと」


 自分の負けだと言う様に苦笑する春夜。

 彼はそう言ってムラサキ達の方へ再度挨拶している間に、アキは再び電子煙草を吸い始める士郎の傍へ寄ってみた。


「アキちゃんって……なんか一気に距離を縮められたわ。――けど珍しいね? 叔父さんがそこまで入れ込むなんて」


「ん?……まぁ、アイツはだ。それに今日からなると思う。だからアホな理由で無様な姿は見たくねぇんだ」


「なにそれ? もっと意味が分かんないだけど?」


「恐らくだが、お前にもすぐに分かる事になるぞ。――じゃあ、そう言う事で後は任せた」


 士郎はそう言って手を振り、アキに背を向けて歩き出してしまう。


「えっ……叔父さんは一緒に来ないの?」


「露店で適当に飯食った後に一般から入るから気にすんな~」


 そう言い残して士郎は人混みの中へと消えて行った。

 それを見てアキも仕方ないと思い、春夜達と一緒に特別入場のゲートへ歩いて行った。


♦♦♦♦



「Pカードの提示をお願い致します!」


 ゲート前に来たアキ達は係員の指示に従い、Pカードを差し出した。


「お願いします」


「はい確認しますね……ランクは――『銀の騎士』!? その歳で大したもんだ」


 入場資格は『銀の騎士』以上だから驚く事はないが、若すぎる高ランクにカードを機械に通した係員も驚いて目を大きく見開いた。


 プロでも『銀の騎士』がやっとのプレイヤーもいるぐらいなのに、アキ自身はまだ高校生だ。


 ハッキリ言えば逸材と周囲は呼ばれる事はあるが、アキ自身は慢心しないように心がけていて笑顔で返した。


「アハハ……ありがとうございます。でも私なんてまだまだですから」


「いやいや、久し振りに応援し甲斐があるプレイヤーに会えたよ。――それで同行者は此方の三名様で良いのかな?」


 係員はそう言って春夜達に顔を向け、アキもそうだと言おうとした時だった。

 春夜は待ったと言った様に手で制止し、自分のPカードを差し出す。


「いや、俺は自分のでお願いします」


「ん?……おぉ! このカードは“初期版”のプレイヤーカード!? これだけでもかなりのレアじゃないか!?」


 アキ達のカードと違い、デザインはシンプル。

 タイトルとEAWの紋章が刻まれているだけで、顔写真もない初期版Pカード。


 そのシンプルなデザインと渋さ。そして絶版になっている事もあって人気が高いとネットに書いてあったのをアキは思い出し、係員に春夜の事を説明してあげた。


「実はその人、今日からの復帰勢なの」


 内心では覇王に憧れたが理想と実際のギャップで、春夜をすぐにEAWを止めた連中の一人とアキは思っていた。


 しかし初期のPカードを持っている事で、その線は薄いと実感する。

 始まりの覇王世代の者達は、人気になる以前からEAWをプレイしていた根っからのPばかりだからだ。


 助け舟じゃないが、スムーズに話を進ませる為に係員へ復帰勢である事を告げてあげると係員は更に驚いてしまう。


「復帰勢!? なる程、覇王復活の噂を聞いて古参のプレイヤーも出て来たか。これは胸アツだなぁ!」


 熱いシチュエーションが好きなのだろう。

 係員は子供の様にはしゃぎ、その姿に苦笑しながらアキは春夜に一応聞いてみた。 


「でも本当に大丈夫? 何なら私のカードで一緒に入れるけど?」


「いや、流石に自分で出来る範囲は自分でするさ。長年放置してたけど、悪質行為や目も当てられない様な惨敗をした訳じゃない。だから降格もしてない筈だ」


 EAWは昇格が大変な分、降格には寛大で有名なゲーム。

 悪質行為や酷い連敗をしなければ降格はせず、長年放置して戦ってない場合でも余程の事をしていないなら降格もされない。 


 ならば大丈夫だと思い、アキも落ち着いた様子の春夜へ深くは追求しなかった。


「……そう、なら先に行って待ってるわね?」


「お先に失礼します」


「待ってるっすよ!」


 アキ達はそう言うと開いたゲートへと入って行き、3人が入場するとゲートは再び閉じていった。


♦♦♦♦



「では次はあなたですね」


 アキ達が入った後、係員はそう言って春夜のプレイヤーカードを受け取り、持っているタブレット機械へ通す。

 すると、ゲートの上のランプが青に点灯しゲートは開いた。


「おっ! 良かったですね!」


「いやぁ~実は内心でヒヤヒヤしてました」


 実は結構放置していた事もあり、春夜は内心で少しビクビクだったのは内緒である。

 だが実際問題、こうやって入れるらしいので長年の放置でも下がらないと認識できたから良しであった。

  

「それじゃ行ってくるよ」


「えぇ、どうぞ楽しんできて下さい」


 アキ達を待たす訳にはいかない。

 春夜は、やや駆け足で係員に手を振りながらゲートへと入った時だ。

――背後から係員の声が春夜の耳に届いた。


「――えっ? ちょっ、待って!」


 驚いた様子の声だったが、春夜はただ笑みを浮かべたままゲートに入って入場し、

係員が何か言う中でゲートが閉じた。

 そして、入場したゲート前ではアキ達が約束通り待っていた。


「良かった……無事に入場できたのね?」


「おかげさまで何とか」


 心配していた様子のアキ達が自分の姿に見て安心したらしく、随分と不安がらせたと春夜は内心で反省する。


 後で何か奢ってあげようと思いながら安心させるように手を振ってあげると、時雨が感心した様に頷いていた。


「でも意外っす。特別入場って事は季城さんも『銀の騎士』以上って事っすから」


「私も時雨ちゃんも『銅の騎士』ですものね~」


「いやいや……ただ楽しんでプレイしていた内に勝手に上がっただけさ」


 二人の言葉に対し、春夜は落ち着いて謙遜気味に答えた。

 けれども謙遜ではなく、本当にただプレイしていた結果なのも事実。


「――目的も無く気付けば、このランクになっていただけ。望んでなくてもね」


 どこか呆れた様に、けれど虚しそうな笑みを浮かべる春夜。


 そんな感じの春夜に二人は違和感を抱いていると、アキが入口に置いてあるパンフレットの地図を広げて戻って来た。


「それじゃあそろそろ行きましょうか? パーツや新型の発表もあるし、三人にも色々と教えてあげないとね」


「お願いねアキちゃん~」


「宜しく頼みます!」


「は~い、お願いします」


 そう頷いて春夜はアキ達の後ろを付いてAWスタジアムを進んで行くと、出迎えたのは膨大な設備やショップ。

――そして数多くのプレイヤー達だった。


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