「Lie」
oyama
JOKER
とある動画が社会現象を巻き起こした。その動画はとある動画サイトに投稿された物だった。その投稿は一週間に一度のペースで更新されていくもので、不愉快極まりない動画だ。流暢な英語でつらつらと社会や周りの人間に対する愚痴を話しているだけの動画。何か国語もの字幕がある為、世界中で話題になった。
その動画は、廃墟のような場所で黒いフードなどの黒い服装に身を包んだ青年が動画の序盤で人間の腕を千切る場面から始まる。血飛沫が飛び、青年の顔に掛かった。青年はその後一度カメラを見つめた。その青年の顔はマスクをつけているため分からない。視聴者に恐怖感を与える演出になっているようだ。その後、後ろへ歩いていき、言葉を話し始めた。内容はこうだ。
『これは僕の食事風景だ。今後一週間に一度だけ、動画を投稿しようと思っている。内容は全部愚痴だ。笑ってくれよ、友達がいないんだ。当り前さって両親に笑われた。ちなみに僕の手にあるのは母親の腕だよ。贅肉が美味そうだろう?カメラの後ろには父親もいるよ。ロープでがっちり縛ってあるし、脚の腱も切って逃げられないようになっている。僕を虐めた罰だよ。
ごめんね。許してよ。こんな動画でよければ、また見てね』
そんな内容だった。
この動画が彼の最初の投稿だった。
徐々に動画は増えていき、何週間にもわたって動画の数を増やしていった。その間に動画は消されるだろうと思っていたが、予想外だった。動画はずっと残されたままだった。動画のタイトルは、「Break Heart」。彼の動画の内容から察するに、要約してしまうと、「殺す」ということだろう。実際に彼は人殺しをしてなお、カニバリズムと言う形で彼の言う「食事」をしている。何とも惨たらしい光景なのに、彼を好く者がいた。若者文化に特化していたんだ。
動画の内容はほとんどが愚痴なのにもかかわらず、多くの高評価、登録者数を日に日に増やしていき、二週間足らずで彼の登録者数は百万人を超えた。
彼の名前は「JOKER」。
『今日は最悪だったよ。僕のことを見て蔑んだ目で「汚らしい」って言うんだ。ちなみに今日の料理は近所の子供二人。僕のことを見て笑ったからお仕置きだよ。』青年はカメラから少し離れた場所で生きたままの子供の腕を千切り、首を折った。足首を千切り、コンパクトなサイズに斬り終えると、そのまま貪り食った。『子供の肉は美味しいね。とても美味だ。』上手い具合に彼の顔は見えない。なので殺人犯を特定することが出来なかった。場所も特定することが不可能で、動画の発信源さえつかむ事が出来なかったのだ。彼は食事を終えるとマスクをつけず、また上手い具合に目元が見えないようにカメラに近づき、軽く手を振って『今日はこれくらいにしようかな。ばいばーい』と軽い口調でカメラを切った。この動画は二個目の動画で、動画のタイトルは、「Perfect Children」。
背景はずっと廃墟の一室、同じ角度で、同じ時間帯に撮っているようだった。窓から差す光の入り方がどれも同じだった。時間帯はおおよそ二時。月明かりの照らされて顔が見える事はほとんどない。計算された位置に立ち、フードの被り方さえ計算されているようにも見えた。
犯人は頭が良い。そういう犯人の事件は大体が迷宮入りしている。歴史上に出てくるそういった殺人鬼は大勢いた。全てではないが、その多くは解決されないまま風化されていってしまった。きっとこれもそうだろうと誰もが思っていた。それはやはり当たっていて、ICPO(国際刑事警察機構)が動くも全く手がかりが無く、逮捕が難しいとされた。
JOKERは動画内で時節泣く仕草をする。なので彼は精神疾患を患っているのではないかと言われていた。その理由も大体把握できて、彼が動画内で言っていることが全てを物語っていた。
『僕が小さい頃、テストでA評価を採れたことがあってね、とっても嬉しかったんだ。でも、かあさんは喜んではくれなかったよ。悲しい、悲しいよ。ああ、僕はダメな子なんだって、その時気付いた。遅かった。』カメラの前に椅子を置き、マスクの上から手で覆った。肩を振るわせて泣いているように見えた。その証拠に嗚咽が時節聞こえる。動画を見た人間は色々な思想を抱くだろう。彼に対して言及する者、自分の意見を正当化しようと強い言葉で彼に意見する者、同情する者、たくさんいた。彼はすべてのコメントに対して反応を示し、評価していた。動画サイトのコメント欄には色々な国から寄せられていて、彼はそのすべてのコメントに返信していた。
彼は何を求めているのか分からなかった。少なくとも、頭の固い人間には。だが、一部の少年少女たちには何か判るものがあったのだろう、同情し、励まし合っていた。中には自殺を考えていた者もいたという。それを彼が止める結果になった。実際救われた人間がいる。だが動画内では確実に人間は死んでいた。身元が分からない人間が数十人死んでいる。あってはならない、許されるべき存在ではないという人間がいるが、その反面、彼に対して何かをしてあげたいという人間もいた。
冷めきった社会に突如現れた謎の青年の動画。これが、社会を、一世を風靡した。
JOKERは悩んだ。日常が辛くて堪らないのだろう。
泣いて、静かに泣いて、誰かに助けを求めていた。
愛されたかっただけの可哀そうな青年。
彼の素性を知るものは一人もいなかった。少なくても、生きている人間の中にはいなかった。動画で愚痴を吐く事によって、何かを緩和させ、自分を防衛していた。コメントで罵倒されようが、同情されようが、彼はすべての人間に対して興味を示し、返信して、自分の生きる価値を見出していたのかもしれない。彼の動画が十個ほど溜まった頃、彼は一度だけ動画内で自殺を図った。
『もう無理だよ。誰も助けてくれないんだ。僕を嫌いな人間を大勢殺した。大勢僕の中に入った。気持ち悪くなって吐いた事もあった。でも、君たちのお陰で僕は生きることが出来た。救われた気がした。でも、違うんだ。僕は抱擁されたいし、褒められたいし、とにかく愛されたいんだ。でも、そんなコメントなんて一つもなかった。「貴方の事を愛しています」なんて言葉を一度だけで良いから聞きたかった。嘘でもいい、これを見てくれた心の優しい人間がいるのなら書いてくれるかな。待っているね』
彼は天井からつるされた麻縄に手を掛けながら言った。首を吊る気はそもそもなかったようで、言い切るとさっさと椅子から降りたところで動画は終わった。
三分の一程度だが、彼が動画内で言っていた、「貴方の事を愛しています」というコメントが現れた。相変わらずすべてのコメントに返信や評価をしていく。そういったコメントに対して彼はとても嬉しそうな文脈で答えていた。相当嬉しいのだろう。
日を追うごとに、動画内で殺される人間の数が減っていった。最初は二人。次は三人。四人、五人と増えていったが、動画内で殺された人数は、彼の口から発せられたもので言うと十人が殺された。しかし、動画で映るのは決まって一人だけだった。彼のこだわりが強いのだろう。だがその動画の後に前に記した、死のうと見せている動画、「I`m fack you」という動画が投稿され、それ以降だんだん被害者の数が減っていった。
そして、これが彼の最後の投稿になる動画だ。タイトルは、「Lie」。
『ありがとう。ここまで見てくれて。とても嬉しいよ。僕を愛してくれてありがとう。初めて温かい何かを授かった気がするよ。僕にも彼女が出来たんだ。この年になって人生初の彼女だよ、とっても嬉しい! 視聴者の皆さんにはとても感謝しているよ。タイトルにもある通り、これらすべてはフェイク。全部偽物。上手いでしょ? 上手でしょ? 僕は手先が器用でね、警察が動いているらしいけど、被害は一切ないよ。安心して。こういうのって詐欺になるのかな? 怖いな、ごめんなさい。悪気はないんだよ。でも、ちょっと嘘ついちゃったかな。これで終わりにするよ。さようなら』
そういってカメラの前でマスクを取った。
整った顔立ちの好青年という印象だった。
JOKERは笑った。
『またどこかで』
そこで動画は途切れ、それ以降、一切動画は投稿されることは無かった。
「Lie」 oyama @karuma_samune
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