セコンドにタオルを投げても、いいじゃないか

 


 デルドル王国の生物兵器、国王ガイノスの野望が造り出した怪物と、サイネリア教団が造り上げてしまった迷惑兵器が相見える。



「つーか、魔導士って普通戦う前ローブ脱ぐか?」


 戦わない男のぼやきが聞こえる中、ほぼ不死身の体を持つ生き物は躊躇無く突進する。



「―――前進せよプラス=ウルトラ運命のフォルテス=フォルト好意ゥナ=アドュバットっ!」


 ミシャは回避、防御力上昇を自らに唱え、振り下ろされた禍々しい腕を躱し、怪物の爪は地面を抉る。


「……その補助魔法、どうせブランにはかけてねぇだろ」



 ―――鋭い。



 そのブランは呼び寄せられたモンスター達と交戦中、ノエルセコンドはミシャ、ブラン、どちらにも一切手を貸さずに口だけを出す。



「一撃食らえばこっちは致命傷、片やアンタはダメージを与える度に強度を増す。 それは魔法攻撃もそう、そりゃ焦りもするわ」


 狂ったように繰り出す連撃を物ともせず、言葉を解さない相手にミシャは苦言を吐く。


「じゃどーすんだよ!」


 アドバイスどころか質問してくるセコンド、っています?


「火に強いモンスター、水に強いモンスター、氷、雷、土、光……全てを喰らったお前は全属性の耐性を持ち、物理攻撃にも対応する。 つまり弱点が無い」


「……となると―――あっ、精神力か!? 意外と落ち込みやすいタイプなら得意の嫌がらせでボロボロに出来んもんなっ!」


 それは二つの意味で悪口だ。


 しかしこのバカ犬は……言葉の解らない化け物にどう嫌がらせをするつもりだ。



「ノエル」

「おう」



「―――正解よ」

「おっし!」



 正解らしい。


 集まって来たモンスターを切り伏せるブランは、この馬鹿げたやり取りを横目で見ていた。 その感想は―――



( ……なにをやってるんだ、コイツらは…… )



 まだコメディーこの世界に戸惑っている様子。


 アンジェなら「ノエルあったまいーっ!」、ラケシスなら「マゾM寄りじゃったらどうするんじゃ?」とまあこんな感じだろう。


「この私がわざわざアンタの為に作ったんだから、しっかり受け止めてよね」


 その言葉が既に嫌がらせだ。 なぜなら破壊神から受け取るものは『災い』でしかない。 実体験からそう思ったノエルはすかさず『忘却』した。



「その節操のない体をスッキリさせてあげるわッ! ―――無防備な器エボパラシオン!!」



 大魔導士オリジナルの魔法。 それは術者本人を表すように、唸りを更に拗らせた心象の悪い動きを見せ、黒い粒子が獲物に『責任を取れ~』『結婚しないと殺す~』と言って纏わりつくように……――――ノエルには見えた。



( ……なんだ? ふ、震えが止まらねぇ……ッ!! )



 それを受けたガイノス王野望の化身は、初めて怯えたような声を上げ、必死に纏わりつく黒い粒子を振り払おうとする。


「な、なんだあの魔法は……」


 頬を引くつかせるブランは、執念、怨念、とにかくこの世の陰を集めてオフ会を開いた絶望のパーティーを見たかのように戦慄した。


「ああ……ぁぁあああ……ッ!」


 そして、それを食らった訳でもないのに壊れ始めるノエル。



「何が……――――一体何が起きているんだッ……!」



 恐怖に叫ぶブラン。 なんと言う光景だろうか、彼らは味方の放った魔法で怯え、混乱している。 一帯を阿鼻叫喚に陥れた悪魔は、その呼び方も生温い狂気の笑みを浮かべ、愉しそうに囁き始めた。



「ねぇ……怖い? アンタでも怖いの?」



 ――――お前が怖いわ。



「この魔法はね、全ての属性を取り払ってしまうの……。 そう、アンタがこれまで喰ったもの全部……私が吐き出させてあげる……」



 ……吐きそうだ。 もう一時もこの場に居たくない。 それを言葉に出せない憐れな化け物……と、



「もう―――やだぁ……辺境に……家にいりゃよかったあぁぁ……ぁ……」



 実家に帰りたい、助けてお父さんお母さん。 救いを求める狼は、牙は勿論心もバッキバキに折れていた。



「ヴァア……ァ……ァアアアアッ!!」



 半狂乱となった怪物は、振り払えない黒い粒子をそのままに、ミシャへと奇声を撒き散らして爪を立てる。


「あはははっ! そう、そうするしかないわよねぇ!」


 不格好な攻撃は当たる筈もなく、それを高らかに嘲笑うその姿は紛れもなく『魔女』。 それも修正不能な程悪性の類だ。


「言ってもわからないでしょうけど教えてあげるっ! この魔法はね、私かアンタが死ぬまで纏わり付くのよっ!」


「最悪だあああッ!!」


 いかん、ノエルはもう限界だ。

 だが、ノエルセコンドにタオルを投げるという奇天烈な事は出来ない。


「ある意味私達は一蓮托生「殺してくれぇぇ……!」、私を殺すか「死んでくれぇぇ……!」アンタが丸裸になるまで毟られ、剥ぎ取られて私に殺されるかしかないッ!!」


 魔女が呪いの言葉を並べているうちにも、化け物の爪は剥がれ、皮膚が爛れて肉体が分離していく。



「これが、常に再生し続けるアンタの為に用意した『嫌がらせ』……




 ――――終わらない煉獄よッ!!」




「「――ギゔァあアあァアあア゛あ゛ッッ!!!」」




 永久に焼き苦しめられるその業に絡まれた者は、救われない己の運命を呪い、蓋の閉じた地獄の門に叫びを叩きつける。




 ―――開けろッ!―――




 俺をミシャここから……






 ―――出してくれッ! ………と―――



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