親父、俺はお前を許さない

 


 ――――現場は凄惨を極めた。



 苦しみ悶える怪物と、



「……ぶ、ぶぶふぅ……ぅ」



 泡を吹いて倒れるノエル。



「どういう事だミシャ! その魔法ノエルにも影響があるぞッ!」


 ブランはモンスターを蹴散らしながらも倒れたノエルに駆け寄る。確かに魔法が影響しているには違いないが、問題はもっとメンタル的な所だ。


「ほらっ、早く私をらなきゃ元の雑魚モンスターに戻るわよ!? どぉんな姿になるか今から楽しみで仕方ないわっ! あははははッ!」


 諦めろブラン、残念だが……もう彼女は声の届かない所に居る。


 このトリップした狂気の姿を見て、空の上のアルノルトは今どんな顔をしているだろう。 いや、もう見ていないのかも知れない……見たくないだろうから。


「くっ、ダメか……! これでは保護魔法も頼めん……どうにかノエルを守りながら戦うしかないようだ……」


 ミシャ狂人からの支援を捨てたブランは腹を括る。


 そして、魔女の悍しい魔法を己と重ねたノエルもまた、その意識を深層へと沈め、ミシャ同様別世界に旅立っていたのだった。



 ――――――――――――――――

 ――――――――――――

 ――――――――




 ――――……………どこだ……? ここは……



 ………暗い……深くて……足元が無い……





 《 ハハハハッ! 》





 ―――ッ……! こ、この声は……



 《 だーから言っただろーがッ! てめぇなんかが外に出ても死にに行くようなもんだってよっ! 》



 お、――――オヤジ!?



 《 カッカッカ、どーだ、身に染みてわかっただろ? てめぇの弱さがよっ! 》



 くっ……! な、なことねぇッ! 俺だって最初は……まあまあやってたんだ……一人で、シルバークラスに上がってよ……



 《 ――はぁ!? おまっ、狼人族最強と言われた俺の息子がシルバー如きでなぁにハゲたこと言ってんだっ!? 》



 ハゲてねぇ! ……いや、尻尾ハゲたわ、最近……



 《 え……うそん……な、なんで? 》



 ……まぁよ、話せば長く……てか…………は、話しっ、たくっ……うっ………うぅ……



 《 お、おいっ、だらしねぇな、なに泣いてんだてめぇ 》



 うるせぇッ! てめぇなんかに……わかんねぇよっ……!



 《 ……情けねぇ野郎だ。 おめぇはハーフだとかそんな理由で弱いんじゃねぇ、純血だろうが人間だろうが強え奴は―― 》



 ―――黙れクソ親父ッ!! てめぇ狼人族最強とか言って大体俺は他の狼人族会ったことねぇんだよッ!! 俺より強えだけで最強とか信じられっか!! 最強なら尊敬されて誰か尋ねてくんじゃねぇのか!? 誰も来たことねぇよなぁッ!!



 《 そ、そりゃおめぇ……じ、事情があんだよッ!! 》



 事情だぁ? なぁんの事情があんだよ!



 《 い、言えないから事情なんでしょっ? 》



 嘘くせぇ、全く信じられねぇっ!



 《 やっ、やっかぁしいわッ!! だったら外で俺より強え奴いたかよっ!! いねぇだろ? いる訳ねぇんだよッ!! 》



 …………親父。



 《 なんだよ 》




 ――――いたわ、多分親父より強えの……




 《 ああ!? んなのおめぇが強さを測れねぇだけだろ? そもそもお前に本気見せたことねぇし! 》



 まあ、吠えてろよ……狼だけに……



 《 おい、ここで狼人族ジョークかよ 》



 そいつはよ、人間で、女なのに俺より速くてよ……



 《 ……そ、そうか 》



 魔導士のクセに、腕力も、剣も俺より強くてよ……



 《 ……… 》



 今は化けの皮剥がれたけど、会った時は……仲間を支える筈の……白魔導――



 《 ―――ヤメロォォオオオオッ!!!》



 おっ、親父!?



 《 聞きたくねぇッ!! チクショウ……なんだってそんな話しやがるッ……!! 》



 ど、どうしたんだよっ? 落ち着けって!



 《 うるせぇッ!! この、この俺が……なんでこんなコトに……っ! 》



 だからわかんねぇって!



 《 ……誰も尋ねて来ない? あたりめぇだろ隠れてんだからッ!! こっばずかしくて会えっかボケェッ!!》



 ……何なんだ…………どういう事だよ………



 《 ……ノエル 》



 あ、ああ。



 《 やっぱり、お前は俺の息子だ 》



 ……なんで、そうなったかな……



 《 俺からお前に言ってやれることは、これだけだ 》



 ……なんだよ。



 《 あるぜ 》



 あ?



 《 俺も……尻尾ハゲたこと…… 》



 ま、マジ……?



 《 もう行くわ、泣きそうだから 》



 なあ、親父さっきからおかしいぞ?



 《 最後に、一つだけお前に言っておく 》



 最後って、結果尻尾ハゲたしか言ってねぇぞお前。



 《 お前の母さんは、白魔導士だった 》



 ―――なッ!!?



 《 そして、その女がどんなに強くても…… 》











 ――――最強は母さんだよ――――





 おっ、おいっ! ちょっと待てよクソ親父ッ!! どういう事だッ!? 嘘だろ!? まさか親父も……そんな、これって………――――遺伝なのかよぉッ!! 待てコラッ!! だったらてめぇぜってー許さねぇからなッ!! おいっ、おおいぃぃぃいいい……ッ!!



 ――――――――――――――――

 ――――――――――――

 ――――――――





「――――………るさねぇ……ぞ……!」



 うなされ、歯を食いしばるノエルの口端から血が滲む。 何の怪我も無く、ただ気を失っているだけだというのに凄い力み様だ。 まるで麻酔がかかっていて痛くないのに『ウィーン』という歯医者の音に怯えている時のあの感じか。 違うか。



「……の――――クソ親父ぃぃッ!!」



 と怒鳴りながら身体を起こしたノエルは、一歩も動いていないのにブランより汗をかいていた。


 彼が何と戦っていたのかは謎だが、実はこれが正しい姿なのかも知れない。 何故ならノエルは……




 ――――メンタルバトル型主人公なのだから(なんてね)。


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