精神力の限界、ブランが悪い
幾つもの命を喰らって成長した怪物は、木々を踏みにじる音を聴かせながら舞い戻って来た。 だが、今度の相手は同じ怪………美しい金色の髪、澄み切った聡明な青い瞳を持つヴァルキリー様だ。
「邪魔なモンスター達は任せたわよ、ブラン」
「……ああ」
敗者に役割を持たせる事で活力を与える。 ブランは同じサイネリア教団出身の幼馴染だ、ミシャとて鬼ではないという事か。
( ああ、だから『ちょうどいい』って言ったのか。 こえー女 )
目を細めるノエルは、モンスターが集まって来てももうすぐ負ける
「ノエル」
「おう」
「アンタは………晩御飯の事でも考えてて」
「カレーだ」
「わかった」
ノエルの役目は終わった。
「しかし、どうするつもりなのだ、ミシャは」
もうミシャに任せるしかないとはいえ、あの魔女でも一度は勝てなかった相手だ。 派遣社員として暮らしていたこの四年間で、その差を詰めたとはどうしてもブランには思えなかった。 いや、思いたくなかったのかも知れない。
「さぁな、問題は
アンジェの故郷、妖精の森のように。
「……大した信頼だな、敗れるとは考えないのか」
自分では倒せなかったあの化け物に対し、勝利を前提に話すノエルに微かな棘を見せる。 彼は言った、悟りを開いた賢者のような表情で―――
「そうだな、今んとこ俺には、アイツの居ない未来は―――見えて
「…… “くれない” ?」
ブランはただの言い間違いかと思ったようだが――――当然違う。 それで正しいのだ。
「あ、そういやよ、その死んだ仲間ってのがミシャと付き合ってた
「それは無い」
「……そ、そうか」
完全否定の顔、そして無機質な声だった。
「じゃあ二人は惹かれ合って――」
「無い」
「……うん、そう」
絶対の確信を持って遮るブラン。 ウチのヒロインらしき女はそこまで脈ナシだったというのか。
「五人のパーティは私を含め死んだアルノルトともう一人の三人が男だったが、ミシャに気のあった男は一人もいないと断言出来る」
「断言……まではしなくてもいいんじゃね……?」
「もう一人の女性メンバーは白魔導士でな、誰にでも優しく可憐な、天使のような存在だった。 だから私達は――」
「やめろ、やめとけブラン……」
話を止めようとした理由、それは何だろう。
『優しく可憐な天使』、ミシャが自称している台詞と酷似する。 そして派遣登録は『白魔導士』、まるでその女性メンバーを真似ているかのようだ。 だからどうという事は無い筈だが、ノエルは何か、ドス黒い人間の深層にある核に触れた気がして寒気がした。
「ミシャは一応黒魔導士として登録していたが「やめろ」前衛最強のアルノルトと互角の戦力を誇り「もういい」私達男の自尊心をボロボロにして「聞きたくない」白魔導士として懸命に修行する彼女を嘲笑うかのように強力な白魔法を会得し「頼むよ」後先考えず大魔法を放つ迷惑な――」
「―――やめろォォォオオオオッ!!!」
もう、限界だった。
解ってはいた。 自分はヤバい奴に取り憑かれた。
それでも精神崩壊を起こす事無くやって来たのだ。 それを過去、幼少期から知る人間に改めて『コイツヤベーよ』などと言われたら自分を保つ自信が無い。
「ど、どうしたのだ?」
「どーしたもこーしたもねぇ! なぁんでそういうこと言っちゃうかなぁ!?」
これは銀髪先生ではない、西田〇行だ。
「お前は極刑になった人間に『極刑だよ?』『極刑じゃん!』って言ってんだぞ!?」
―――そういう事だ。
そんな女に取り憑かれて嫁にしなきゃ殺すと言われている男に、言っていい事と悪い事があると言うもの。
「よく分からんが、も、モンスター達がやって来たので私は行く……」
「おお行け行けッ! おめぇなんかやられちまえッ!」
おずおずと戦闘に向かうブラン。 豹変したノエルの心情は理解出来ないだろうが、ブランくんが悪いと思います。
その時
( ……アルノルト、今日で終わらせるわ。 あの日初めて味わった自分への失望も……あなたへの想いも――― )
………何も言えねぇ(二回目)。
天国のアルノルトよ、どうか嘘でも見守っていてくれ。 苦笑いせずに。
そしてブランは………早くも染ってきたなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます