悪魔、過去を超え、牙を研ぐ狼
目醒めてすぐ “永眠” を伝えられたノエルは、把握し切れない状況に困惑していた。
「ど、どーなってんだ? 森が―――吹っ飛んでる……?」
二人の強力な魔法のぶつかり合いにより、妖精の森の中央付近は無残にも吹き飛び、ぽっかりと穴の空いたドーナツ状になってしまった。
「リンダ、起きたのか……で、何してんだ?」
ミシャと向かい合うおさげ髪の少女。
事情を知らない
「起きてないのよ、リンダは」
「――は?」
今回一度も剣を振るっていないアホヅラは首を傾げる。
「今リンダの身体にはね、大昔数々の魔法を創り出した、当時世界一と言われた魔導士が乗り移ってるの」
「な、何言ってんだ? そんな訳ねーだろ?」
何の脈絡も無くそんな人物が降臨する筈がない。 信じられないのも無理はないが。
「自分のあみ出した魔法を私の方が上手く使ったから嫉妬したんでしょうね。 つまり、私の才能と美貌に過去の天才が惹かれ降りてきたってことよ、罪な女だわ」
「な、何言ってんだ? そんな訳ねーだろ?」
恐らくは『美貌』に反応したノエルが、二度全く同じ台詞を言うと、金髪の長い髪を闘気に揺らしたミシャが横目で死線を送る。
「この勘違い魔導士を片付けたら、次はあんただからね………荒れ果てたこの森の肥やしになるといいわ……」
―――荒らしたのは誰だ?
処刑の順番待ちとなった
無駄とは思いながらも震えた声で許しを乞う。
「
その時、大魔法の準備が整ったストレイシープは、残酷な笑みを浮かべて愉しそうに口を開いた。
「別れの言葉は交わしたか? 安心しろ、仲良くあの世に送ってやるっ!」
「ええ、死の宣告は済ませたわっ!」
「いやまだ交渉中だッ!!」
ミシャとストレイシープ、二人の魔力が必殺の呪文を放つ瞬間―――
( が、頑張れ昔の世界一……ッ!! )
―――とノエルが祈ったのは流石に気のせいだろう。
「ぬはははっ! 喰らえ!
あどけないリンダの顔を邪悪に変え、巨大な竜を象った雷が夜の闇を照らす。
「――あ、これやべぇって! 頑張れミシャーーッ!!」
身の危険を感じ、ローブを被ったアンジェを庇いながら手の平返しのイタチ野郎が叫ぶ。
「聞いてなかったの? 所詮コイツは―― “過去” なのよっ! 味わえ現存する女神の雷ッ! 「死神だろ」――
合間に
「――なっ!? お前打てないのでは……っ!」
確かに『私も無理』、そうミシャは言っていた。
そのミシャの放った雷竜と、この魔法の生みの親とがぶつかり合う。
「がぁッ……! な、なんも見えねぇっ!」
弾ける発光が
「同じものはねっ! 言ったでしょ? あんたの魔法は退屈なのよっ! 私の雷竜は――― “双頭” なの♡」
過去を平らげようと襲い来る進化した雷竜。
現世に戻ってまで悪い夢を見させられたストレイシープ先生は戦慄し―――
「は……ぁ……ぅ……そだ……僕の―――僕が創ったんだぞおぉぉぉッ!!」
「おいッ! リンダを殺すなよぉーーっ!!」
「
「こ、こんな
雷に呑み込まれる寸前、ミシャの放った丸い防御壁がリンダを包む。 激しい雷撃を光の繭が払い、リンダの身体を守っている。
魔女の力を防げるのは魔女だけなのか……その繭の中でストレイシープは絶望の表情をリンダから解き、倒れる少女の身体は本人に戻されたようだ。
――時代が合わなかった過去の天才は空に還り、雷竜は離散して消えた。
「……フンっ。 記録は塗り替えられるものよ……更なる天才にね」
シルバークラスの派遣社員は、世界一の大魔導士を屠り
……その傍に、アンジェを抱えて立つ男が一人。
「昔の世界一だかなんだか知らねぇが、俺の大天使相手じゃ分が悪かったな」
白々しく遠くを見つめるノエル。
打たれる前に懐に飛び込み打点を変える。 彼のスキル『クリンチ』を繰り出す。
「なっ……なに仲間ぶってんのょ……私は……あくまで派遣社員なんだから……」
―――悪魔でな……。
その悪魔が破壊した見通しの良くなった森で、また一つ
「仲間……か。 一人で戦っていた俺にも、やっとそう呼べる相手が出来たな……」
―――そして、何もしなくなったな。
鋭い牙を持つ狼人族の少年は、日に日にその牙の先・端・を研ぎ丸くしていく。
「……バカなこと言ってないで、アンジェとリンダ担いで来なさいよっ……! 私は疲れてるんだからっ」
「……ああ」
照れ臭そうに吐いて頬を染めるチョロ魔導士。
またも生還を果たしたノエルは、こっそりと震えていた足を見られずに済んだようだ。
悪戯ピクシーは討伐された。
だが、村の大事な収入源だった全ての妖精達も……
―――いや、こうなる事は必然だったのかも知れない。
村長が、魔女の使い魔である狼に依頼した時から…………。
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