ぼっちの亜人剣士、危機一髪?!

 


「ミシャ……今行く……」



 のノエルは、戦いのダメージを残す事無く、足を引きずりながら、身体に鞭を打つようにミシャの名前を呟く。



「どこだ? ミシャ……」



 暗くなった洞窟で、ノエルは、見当違いな方向に向かって歩を進める。



「狼って、夜目利くんじゃないの?」



 そうだ、見苦しいぞノエル。 潔く処刑台に登れ。



「……――あ。 ……くっ、さっきの魔法で目をやられるなんてっ……!」


「 “あ” ってなに?」



 必ずやって来る制裁を引き延ばし、足掻くノエル。 そんな事をしても判決は変わらないと言うのに。



「こんな真っ暗じゃいくら俺でも……ああっ! くそ、こんな所にボーンナイトが……!」



 ―――浄化しただろうが。



「そう、明かりをつけてあげる、アンタ燃やして」



 判決は、“火あぶりの刑” と決まった。

 判決が下った瞬間、被告人ノエル(17)は凄まじい速さでミシャ裁判官に詰め寄る。



「よし、とりあえずカンテラを置いた所に戻ろう」



 スキル “高速クリンチ” を繰り出すノエル。

 打たれないように懐に入る。 これもまた、弱者の知恵の一つである。



「ほら、いくぞ」


「え? ……あっ」



 罪の軽減策(ミシャ編)ステップ1、 “お姫様抱っこ” 。

 使い古された手法ではあるが、やはり有効な手段の一つ。 魔女と言っても女は女。 乙女はお姫様に憧れるものなのだ。 (どこまでを乙女と認めるかについては今回は触れないものとする)



「ははっ、あんな大魔法使った奴が、こんな軽い女の子なんてなっ」



 ステップ2、 “さり気なく褒める”

 既にご機嫌斜めの状態な為、余り分かり易い褒め言葉は逆効果の可能性もある。

 ここでのポイントは、(スタイルが良い)、そして(若い)の二つ。

 軽いからスタイルが良い、それはイコールでは無いのだが、そこは勝手に良く解釈してくれるミシャの習性を利用した作戦。

 そして女の子、ノエル自身繰り出すのを躊躇ちゅうちょしたが背に腹はかえられない。

 そう呼ばれればつい少女に戻ってしまう魔法の言葉。 勿論ノエルのMP(精神力)消費も甚大だ。



「ば、ばか……変なとこ触ったらひっぱたくわよ」



 顔を赤くしてツンとするミシャ。

 ノエルの思惑通り事は進んでいる。


 “ば、ばか……” もう殆ど許しているような角の無い口調、そして、その後の台詞は完全に罪の軽減成功を示している。


 最初の判決は “火あぶり” 、それが今や “ひっぱたくわよ” 。 つまり、 “死” → “ビンタ” これはもうほぼ無罪判決といっても過言ではない。



 元休んでいた場所に戻ると、ミシャを優しく地に降ろし、策士ノエルは仕上げに掛かる。



「言いたくなきゃいいけどよ、ここまで一緒に戦ったんだ。 少しはお前の事、教えてくれよ」



 ステップ3、 “話のすり替え”

 制裁云々をそもそも忘れろとばかりに、違う話題にすり替える。

 この穀潰しは、さも共に死線をくぐり抜けたパートナーのように振る舞い、それを気付かれない為に、 “私は貴女に興味がありますどうか教えて下さい” と言い寄って来たのだ。


 そして、



「………そうね」




 ―――作戦成功ミッションコンプリート


 この時、己しか視野の無い暗闇の中で、ノエルは口角を上げ、犬歯を剥き出しにした。 その表情は、人間でも亜人でもない、 “ノエル” という一体のモンスター誕生を物語っていたのだ。


 ノエルが、「それで、本当は何者なんだ?」と言ってランタンに火を灯し時には、既にその邪悪な顔に仮面を付け終わった後だった。


 そうとは知らずに身を横たえたまま、疲れた顔で話し出すミシャ。



「教えてあげるね……―――に」



「―――ッ!!?」




 ―――冥土・in・ノエル。



 “死の宣告” 。


 その言葉に、今回も生還を確信していたノエルの身体が硬直する。

 底冷えのする暗い洞窟の中でも、寒さに強い筈の狼人族のノエル。 だが、一度は拾ったと思った “生” が儚く消えるその恐怖に、身体の震えを抑える事は出来なかった。



「……あ、ああ……き、聞かせてくれ……」



 つまずきながら、震える声で応えるノエル。



「……私はね」



 ―――悪魔なの。



 そう言われたとしても、最早何の疑いも無い状態のノエル。


 これからミシャが話す身の上話。 それがノエルにとって、世を旅立つ子守唄となるのか。


 新感覚 “生還” 物(身内から)ファンタジー。(嘘)


 次回も乞うご期待ッ!!(笑)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る