派遣白魔導士、コンサートを開く

 


 崖下に落下し負傷するも、何とか生還を果たした二人。


 しかし天候は悪化し、雪は吹雪となって襲いかかって来た。


 こんな事は当然想定内ではあるが、それはあくまで正規ルートならばの話だ。

 本来ならある程度の区間に、こういった自然現象から身を守る小屋が用意されている。


 だが、今回は完全に想定外の事態。

 とりあえず二人は、この吹雪を凌げる場所を探し歩いていた。



「まったく、なんで私がこんな目に……」



 早速全開でスキル、 “痛い女” を発動するミシャ。

 その原因が自分だと気付かない以上、まだ彼女の独身生活は続くのだろう。


 そんな愚痴を零す後ろは気付かぬふりで、先頭を行くノエルは淡々と歩を進める。



「――おっ? あれは……」



 吹雪の中目を細めるノエル、何かを発見したようだ。



「ミシャ、見つけたぞ! 洞窟だっ!」


「はぁ、これでなんとか凌げるわね」



 絶壁の脇に大きく口を開ける救いの入り口、二人は急場を凌ごうとその洞窟の中に逃げ込んで行った。





 真っ暗な洞窟を、カンテラに火を灯し、僅かな明かりを頼りに進んで行く。



「少し奥に行った方が寒さも和らぐよな」


「そうね、結構広い洞窟みたいだし」



 音の反響からその広さを感じ取ったミシャが、ノエルの言葉に同意を示す。

 暫く歩いた後、ある程度進んだ所で二人は腰を下ろす事にした。



「ふぅ、とにかく少し休まなきゃよ、こりゃ帰りは日が出てからだな」



 確かにこの吹雪ではそれが懸命だろう。

 それにもう大分遅い時間だ、わざわざ暗闇の中で危険を冒す必要も無い。



「そうね、今日は―――はっ……!」



 当然ミシャもそのつもり、の筈だと思うが。

 何故か不安そうな顔で俯き、両手を胸に当てている。



(てことは、このギラギラの十代と一夜を共に過ごすって事……?)



 そう、ノエルはこの相手に飢えた二十代の女と一夜を過ごす事になったのだ。



(そりゃパーティ組んでた時はこんな事いくらでもあったけど……二人きりなんてないし、私相手にこんな若い男の子が理性を保てる……?)



 まさに貞操の危機、戦闘力で上回るイカついお姉様を相手に、果たしてノエルは身を守る事が出来るのか。



(な、なんとかこの妖艶な魅力を抑えないと、彼が自分を抑え切れなくなっちゃう……! それは彼の責任じゃないの、そうさせてしまう私の責任なんだから……)



 ………もう、この独白に抵抗するのは諦めるとしよう。



 それにしても、抑える心配よりも、心配をするのが先決だと思うのは私だけだろうか……。



「なんか出てくるかも知んねーから、交代で寝よーぜ」


「えっ?」


「俺見てるからよ、先寝ろよ」



 内容はどうあれ、連れは女性に違いない。

 一応、仕方なく、女であろうその仲間に気を遣い先の就寝を勧めるノエル。


 だが、



(ちょっ……わ、私を眠らせて何するつもり?!)



 ―――逃げるんだよ?



(み、見てるって……そんなに見られて眠れる訳ないじゃない!)



 ―――もっと自分を見つめなさい。



 モンスターが出るかも知れないから見ている。 そんな当たり前の内容を曲解する異次元の住人、ミシャ。



「わ、私は平気だから、ノエル寝なさいよ」


「あ? そうか? でも俺、結構寝たからな」



 確かに、今日はもう二度気絶寝た


 契約も終わり、死ぬ思いを共有したのもあってか、いつの間にかミシャは “ノエルさん” から “ノエル” と呼んでいる。



「しっかし、魔法ってすげーな」



 感心したように話し出すノエル。

 今までソロでやってきた彼は、今日自らが受けた補助魔法や治癒魔法の効果が新鮮なのだろう。



「まぁね、私の魔力が強いのもあるけど」



 当然だろう、 “魔女” なのだから。

 お姉様得意の自画自賛を聞き、「そうかよ」と呆れた顔をするノエル。


 その時、



「――この音……なんだ? 一体二体の話じゃねーぞ……!」



 突然表情を変えるノエル。

 狼人族の鋭い聴覚が、ミシャよりも先に近付いてくる複数の足音を捉えた。


 恐らくは敵、モンスターが向かって来ているのを理解したミシャは立ち上がり、両手を上にかざす。



明るい夜ルミノクスっ!」



 天井に向けてかざした両の掌から、打ち上げ花火のように光が上がり、それが弾ける。

 すると、真っ暗だった洞窟の広範囲を包み込み、その全貌が明らかになった。


 予想通り大分広い、その奥もまだまだ先がありそうだ。



「来るぜっ!」



 両手剣を構え、戦闘態勢に入るノエル。



「ほんと、ツイてない時はトコトンね……」



 うんざりとした顔で短剣を抜く、前衛顔負けの白魔導士。



 そして、現れたのは―――。



「だ、団体様のお着きだ……!」



 険しい声色で呟き、剣を握り締めるノエル。


 姿を現したのは、その数、数十体にも及ぶ『骨の騎士ボーンナイト』の群れだった。



「まったく、骨になった戦士まで魅了してしまう自分が憎いわっ!」



 ―――頭の治癒魔法は無いのか。



「おいおい、奥から次々ご来場だぞ!」


「握手会を開くつもりはないわ、行けノエル警備員っ!」


「おめーもやんだよっ!」



 これが本当の地下アイドル。


 土から目覚めしアンデッド達を迎え、間も無くライブは始まる。



 相変わらず余裕を見せるミシャだったが、その表情は珍しく緊張感が漂っていた。



(問題はコイツらじゃない、この数……必ず頭がいる筈……)



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