派遣白魔導士、ダイアモンド
「がッ、らあぁぁぁッ!」
長く、重量感のある両手剣を真横に振り抜き、迫るボーンナイトを二、三体まとめて屠ほふるノエル。
前衛の面目躍如、やっとそれらしい活躍の場が彼にも与えられたようだ。
ミシャはというと、武器の性質上まとめてとはいかず、ノエルが倒し漏れた敵を仕留める、といった具合に止まっている。
「コイツら、強かねーけど多すぎるっ!」
「文句言わないっ! こっちはタダ働きなのよ!」
それはそうなのだが、このクエストの発生した原因は……いや、最早何も言うまい。
「そりゃこっちもだッ!」
不満を撒き散らしながらも休まず武器を振るうノエル。
もうこの
いつ終わるとも知れないその群れに焦りを感じ始めたノエル。
その焦燥感を追い打ちするように、今までとは全く異なる、強烈な存在感を放つモンスターの気配が近付いて来る。
「おいミシャ! な、なんかヤベーのが来るっ!」
「知ってるっ!」
「あそう!!」
それは、戦いが始まる前からミシャが危惧していた存在。 この群れの “頭” だ。
(お願い、神様仏様美の神様。 頼むから
神々に願いをかけるミシャ。
最後の神様に愛されているかはコメント出来ないが、その他の神も、願いを叶えてくれるかは日頃の行い次第、という噂だ。
洞窟の奥からぞろぞろとやって来るボーンナイト、その流れが止まり、遂にその “頭 ” が姿を現わす。
「おい、冗談だろ……こんなヤツ――」
「伯爵アールかいッ!!」
一体のボーンナイトを斬り捨てながら怒声を上げるミシャ。 怯えた声で話す途中を遮られたノエルは、「おぉうッ?!」と尻尾を立てて身を竦めている。
「やってくれたわね、神様方……」
金色の長い髪を闘志で揺らし、期待外れの神々に向けてか、まさに神をも殺す目でアールを見据える
その視線を受けるアールは、まさに戦場に赴く貴族といった出で立ちだが、生前は美しかっただろう鎧は
大きさこそ2m半程度だが、禍々しく危険なオーラが身体全体を覆い、身体の強度、そしてその折れそうな剣も同様に、簡単に破壊するのは難しいだろう。
先程まで何の統率もなく襲い掛かって来ていたボーンナイト達も、今はアールの指示を待つように動きを止めている。
「……もういい、諦めた………」
小さな声で呟き、突然闘志を無くし、短剣を下ろすミシャ。 その言葉を聞いたノエルは、
「そ、そんなにヤベーのかよアイツ……いや、ヤベーよな、さすがに俺でもわかるわ、勝てる気がしねぇ………」
あの
「……俺が、時間を稼ぐ。 お前は逃げ――……ってぇ!」
短剣の平で頭を小突かれたノエルの悲鳴が洞窟に響く。
「なにそれ? 仲間が出来たら一度言ってみたかったやつ?」
「そ、そんなんじゃねぇ!」
顔を真っ赤にして小突かれた頭を押さえるノエル。
「他には?」
「そ、そりゃやっぱよ、 “俺に構わず先に行け” 、とかよ」
「うぇっ! 私ならそれでパーティ辞めるわ」
ぼっちの亜人剣士が秘かに憧れていた台詞を打ち砕く
この二人、どうしても張り詰めた緊張の戦闘シーンは作ってくれないらしい。
「じゃどーすんだよっ! こんな化けもんどーやって倒すってんだ?!」
「大体シルバークラスのアンタに稼げる時間て何秒よ? このボンクラ伯爵倒すならゴールドクラスの中位ぐらいじゃないと無理ねっ!」
さあ、アーク事ボンクラ伯爵が言葉の意味を理解しているかは疑問だが、いつまでも敵は待ってくれない。
アークがその腕を上げると、それを合図に待機していたボーンナイト達が一斉に襲い掛かって来た。
「来たぞおいっ! どーすんだよっ!」
「こーすんのよっ!
「お、おおおっ?!」
連続して補助魔法をノエルに唱えるミシャ。
回避、防御、そして今回は攻撃力上昇のおまけ付きだ。
(補助魔法ってやつか……今度は力も溢れてきやがる……白魔導士ってこんなん使えんのか? しゃーねぇ、やるだけやってやるかっ!)
ノエルが疑問を持つのも当然、ミシャの扱う魔法は、白魔導士の範囲では無いのだから。
「私にかかればどんなポンコツ剣士だってそれなりになんのよ!」
「それ俺じゃねーよなっ!?」
―――このパーティに剣士は一人。
「これで少しはやれるでしょ、行けワンちゃんッ!」
「ワンちゃん言うなッ! おぉらああああ!!」
先程とは比べ物ならない鋭さと破壊力で両手剣を振り回すノエル。 次々とボーンナイトをただの骨に変えていく。
そのノエルを狙い、ボーンナイト達を飛び越え、凄まじい跳躍でアールが飛び掛かる。
「ノエル上ッ!」
「おおッ!?」
ノエルの「おおッ!?」が「ワンッ!?」と聞こえた気がしたのはさて置き、
「――ぬぁッ?! あぁぁぁ………」
アールの闇を纏った剣の威力に振り切られ、無残にも吹き飛ぶノエル。 それでも途中、野生の身のこなしで転倒は免れたのは流石と言ったところか。
「うーん、所詮それなり……か」
「あんまりだっ! お前さっきからサボってねーか!?」
「ちょっとは持たせなさいよね、なんの為に補助魔法かけてんのよっ! 雑魚はいいからアールに集中しなさい!」
ミシャ先生の厳しい愛の
「んなこと言ってもこんなウジャウジャいちゃーよ!」
「だから、今からきれいにしてあげるって言ってんのよ……」
「はぁ?」
含んだ声色で、意味深な言葉を零すミシャ。 無理解を示すノエルを置き去りに、得意の調子で語り始める。
「さぁ待たせたわね可哀想なアンデッド達、この救いの無い世界に舞い降りた大天使ミシャ様が……」
―――堕天使どこいった。
「唯一の希望として、迷う事なく全員まとめて逝かせてあげるわっ!」
「長ぇっ! なんかやるならとっととやれよッ!」
ボーンナイトに囲まれながら、アールと必死の
「滅多に見れないからよーく目に焼き付けて逝きなさい! 一斉浄化っ!
命無く現世を彷徨う憐れな者達を誘いざなう聖なる光。
その光を浴びた残り数十体のボーンナイト達が、まさに一斉の断末魔を上げ、包まれるように消え去って行く。
「こ、こんなの……普通じゃねーよな……」
奇跡のような光景を目の当たりにして、茫然と呟くノエル。 そして、その威力はアールに対しても例外では無い。
「ウオォォォォ………」
旗色の悪い鍔迫り合いをしていたノエルは、呻きを上げるアールの隙をつき蹴り上げ距離を取る。
聖なる光が天に還った時、洞窟にはミシャとノエル、そしてアールを残すのみとなった。
「見たかワンワン! だーれがサボりかっ!」
全開の得意顔で言い放つミシャ。 これだけの大魔法を放って尚疲れを見せないその姿は、やはり “魔女” のそれを感じさせる。
「……わ、ワンワン言うな……」
突っ込みも弱々しく、自分の雇った派遣白魔導士の底の見えない実力に、恐れすら感じるノエル。
「おめぇ、なにもんだ? 現役全盛は、プラチナクラス……か?」
そう感じるのも無理はない、それだけの事を目の前の魔導士はやってのけたのだから。
ノエルの評価を受け止めて、現在絶好調の得意気大天使様は言い放つ、
「そうね、あえて言うなら――― “ダイアモンド” っ!! それが私には相応しい……」
―――その傲慢さを浄化しろ。
恥ずかし気もなく、満面の笑みで答えたミシャに呆れ顔のノエルは、
(………んなもんねーだろ)
声にするのも馬鹿馬鹿しいと、心の中で残念な初めての仲間にげんなりとしていた。
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