第27話 草原の魔物
ポーン
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カミナリからタカルハへ
なぜだ。なぜお前は、猫耳女子にちやほやされているんだ。
移動中、魔物を倒しまくったのは俺なのに…。
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ポーン
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タカルハから師匠へ
師匠はガントレットに浮かれて、みんなが引くほど暴れまくったのが悪かったのだぞ。師匠を怒らせると、空から雷が落ちてくるという噂もあって怖がられているのだ。
ネコマンさんは可愛いのだ。撫でであげると喜ぶのだぞ。お耳とふわふわしっぽも大好きなのだ。女子にこんなに優しくされるのは初めてなのだぞ。
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ポーン
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カミナリからタカルハへ
耳もしっぽも、俺だって大好きだわ、この野郎―――!!!
ネコマン可愛いのに! 人間の女より可愛いのに! 俺もちやほやされたいのに!
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「二人とも、いい加減にして下さい! 普通にしゃべればいいでしょう!」
並んで腰かけている神成とタカルハの前で、マメルカが仁王立ちして怒鳴り付けた。
「そうなのだが…お手紙えんぴつが楽しくて便利なのだぞ。良いダンジョンの報酬なのだ。行って良かったのだぞ」
「そうですか……二人とも私をのけ者にして…ミナカタさんとダンジョンに行くなんて!」
ポーン
マメルカの目の前に画面が現れる。
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カミナリからマメルカへ
ごめーんね。
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「口で言って欲しいのですよ―――!!!」
「まぁ、良いではないか。マメ子もミナカタさんからお手紙えんぴつはもらえたのだから」
「俺は持ってるからいらねーわ、って渡された時の屈辱、解りますか!?」
「ミナカタさんは、師匠より口が悪いのだ。それに、三人限定のダンジョンだったのだから仕方ないであろう?」
お手紙えんぴつ…お友達にリアルタイムでお手紙を送ることが出来る便利な代物だ。お友達以外には送れない。
ネコマン達は、五日かけてカミナリ盆地へと大移動して来た。リュウマンのヨモツやゴリラマン、神成がいたおかげで、大荷物の移動は楽々だった。そもそも村が滅茶苦茶だったので、荷物そのものが少ない。ネコマンたちも感情を押し殺すように黙々と歩いたので、見た目には順調で問題ない旅路だったのだが、心中は穏やかでは無かっただろう。それでも、穏やかに優しくネコマンを世話し続けたタカルハは、徐々に女子に懐かれていった。
盆地に到着すると、ネコマンも少しは安心したのか、腹いっぱいご飯を食べてくつろいだ表情を見せ始めていた。
ネコマンの若い女の子に囲まれて楽しそうにしているタカルハを、神成が死んだ魚のような目で見つめている。
「何やってんだ、お前。具合でも悪ぃのか? 飯は食ったのか?」
渡りの賢者ミナカタが、全然心配はしていない様子で神成の頭をベシッと叩いた。
「ミナカタ…おかしい…ネコマンの雌は可愛いじゃないか。人間の女みたいに、ガンガン来る感じじゃない。どうなってるんだ」
「あぁ、雌が強いのはこの大陸の人間だけの特徴だ。俺の里もマン達も、基本は雄の方が強くて体もデカい」
「おおぉぉ、それは耳寄りな情報だ。ネコマンとだったら、愛が育めそうだ。耳もしっぽも可愛いし…最高だ、ネコマン!」
「良かったじゃねぇか。お前はネコマンに全然モテねーようだが」
「………」
そうなのだ。神成は、ネコマン女子に避けられている。タカルハが言う様に、確かに帰り道では魔物を鬼のように狩ったし、白バラ隊を退散させた時の雷の噂も耳にしていた。
「ミナカタ、白バラ隊は『未来永劫魔法の力の加護は受けられない』ってことになったんだよな? それってやっぱり、あの雷のせいなんだろうけど、俺が何か関係してると思うか?」
「そりゃー、してるだろう。お前が報いを受けろって言ったすぐ後に、報いをうけたんだ。お前がやったって考えるほうが自然だろうが」
「でも、俺は何もした覚えは無いぞ」
「だろうな。何にせよ、内緒にしておいた方がいい。魔法と人間の関係を断ち切るような力を持っているヤツなんぞ、危険人物として狩られることになる。どうせ覆面だったんだ。知らぬ存ぜぬで通すことだな」
危険人物。神成も薄々感じてはいたが、自分には特別な力があってそれを持て余している。デコピン一つでスライムはドベクするし、拳一つで地面はひび割れる。最近ようやく力の加減が上手くなって来たのに、更におかしな雷までぶち込めるようになったのでは、自分の許容範囲外だ。
「とにかく、カミナリはそろそろ自分のことを真剣に考えた方が良い。お前がなぜ特別なのかについては、俺にも少々心当たりがある。お前だけじゃない。タカルハもかなり特別だが…」
「何だよ、心当たりって」
「いや、俺にはウサだった期間の情報が足りないから、色々と調べてから話すことにする。お前はさっさとネコマンの土地を手に入れて来い」
「そうだった」
「得意だろ、周りに流されてお人好し具合を発揮するのは」
「痛い所を突く嫁だな。可愛くないぞ?」
ミナカタに拳骨をくらった神成は、そそくさとタカルハの元へ向かった。
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カミナリ盆地より南、迷いの森の奥の海岸近く。
神成、タカルハ、マメルカの三人は、ネコマンたちが集落を作りたいと望んでいる海沿いの平原にやって来ていた。
「うーん、勝手にここに住んじゃ駄目なのか?」
テンションの上がらない神成に比べて、ネコマン女子に可愛く激励されたタカルハはやる気満々だ。
「駄目なのだ! ここには、十年くらい前から、正体不明の危険な魔物が住み着いているらしいのだ。それを排除しなければ、ネコマンさんたちは移ってこられないのだぞ! 頑張って倒すのだ!」
「へぇー。でも、移れないほうがいいじゃないか。カミナリ盆地に居た方が、いつでも可愛いネコマンに会える。いなくなったら、タカルハだって寂しいだろ」
「大丈夫なのだ。皆、カミナリ盆地に遊びに来ると言っていたのだぞ。怖そうだけど、本当は頼りになる師匠とも仲良くなりたいと言っていたのだぞ」
「よし! 頑張って魔物を倒すぞ!」
神成にやる気がみなぎった。
マメルカは…可愛いネコマン女子と対極にいるちっちゃな野獣は、猫耳に色めき立つ神成に舌打ちしまくっていた。今もさっさと一人で草原に分け入ってしまったようで、遠くにぽつんと一人で立ち尽くしている。
「マメ子、魔物がいるんだぞ。一人で先行するな」
神成とタカルハが駆け寄ると、意外な方向からマメルカの声が聞こえて来た。
「何ですか~? ちょっと、置いて行かないで欲しいのです。用を足すからちょっと待っててって言ったではないですか」
声に振り向くと、後ろからマメルカが駆け寄って来ていた。
前を向いてもマメルカがいる。
「師匠! マメ子が二人いるのだ!」
「そのようだな」
「どういうことなのだ!?」
「どっちかは、魔物が化けた偽物なんじゃないのか?」
「流石は師匠、理解が早いのだ」
褒められるまでもない、定石だ。しかも神成が見た所、区別はそれ程難しくは無かった。草原に立っていたマメルカは、背中に弓を背負っていない。バレバレだ。
「そっちが偽物なのですよ!」
神成たちに追いついたマメルカが、胸を張って偽物を指差した。
「うん、解ってる。あっちは弓を背負ってないからな」
「流石はカミナリさん、洞察が早いのです」
「うん。お前らに褒められても、あんまり嬉しくないな」
マメルカとタカルハは顔を見合わせて、不愉快そうに顔を逸らせた。同族嫌悪の二人は、頭の出来も似通っているようだ。
「おい、来るぞ!」
神成の叫びと共に、偽マメ子が駆け寄って来てタカルハにナイフを突き出した。
「は、速いのだ。本物よりも強いのだぞ!」
「何言ってるんですか! あたしと同じくらいですよ。ナイフの使い方も、そっくりです!」
杖でナイフをさばくタカルハの横から、神成が蹴りを繰り出した。避けた偽マメ子は、そのまま飛び退いて距離を取る。
「本物より素早いな」
「カミナリさんまで酷いです! 同じですってば。身体能力までそっくりになってますよ」
神成とタカルハは顔を見合わせた。声には出さなかったが、マメ子ってこんなに強かったんだな…という見解で一致しているようだ。
「二人とも、何を考えているか丸解りなのですよ…ふぬぅ…偽物めっ!」
マメルカが弓を射ると、偽物がナイフで矢を叩き落した。
「俺に任せるのだ――、おーみず!」
偽マメ子に水の刃が襲い掛かるが、身軽に飛び退いてかわしてしまう。タカルハはそれを見越していたようで、魔法と同時にダッシュを決めて上手く間合いを詰めていた。
「くらえっ! マメ子めっ!!」
タカルハは偽マメ子の脳天に、クソ重い杖を振り下ろした。くるりと地面を転がって避けられてしまい、舌打ちが響く。
「タカルハさんっ! 何だか感情がこもっていたのですよっ」
「当然なのだ。敵は倒さねばならんのだぞ。一番弱いマメ子に化けているうちに、退治するのだっ!」
「なんですってぇ―――!!!」
睨み合うマメルカとタカルハ。跳びかかって来る偽マメ子を、神成が石を投げつけてけん制する。
偽マメ子が距離を取って、地面に膝をついた。途端に体が白っぽい靄に包まれて、姿が見えなくなったかと思うと、靄を晴らすように立ち上がった時にはタカルハの姿になっていた。
「おい、ケンカは後にしろ。今度はタカルハに変身したぞ」
神成の言葉を聞いて、マメルカが前に躍り出た。
「任せて下さい――四手連射!」
早業で射ち込まれた四本の矢が、偽タカルハの顔に吸い込まれて行く。
「くらえっ、タカルハさん、天誅っ!」
余裕でかわす偽タカルハを見て、マメルカが舌打ちをする。
「マメ子! なぜわざわざ的の小さい顔を狙うのだ。四本全部顔を狙いおって、馬鹿なのだぞ!」
「当たったら気持ちが良い場所を狙ったのですよっ」
「な、何だとう!」
走り込んで来る偽タカルハに、神成が石を投げてけん制する…。
「うーん、お前らが任せろ任せろ言うから、俺は石しか投げてないんだけど。そっちの魔物も、もう俺に変身してくれよ。この中じゃ、俺が一番強いんだ。頼むよ、飽きた」
石投げに飽きた神成が懇願すると、偽タカルハが動きを止めた。
「ちょ、師匠に変身されたら、俺達では歯が立たないのだぞ!」
「いやー、カミナリさんに攻撃されたら、一撃でミンチになるのですよ!」
いがみ合っていた二人が、シンクロしたように手を体の前で振りながら焦っている。
神成は溜め息を吐きながら地面に腰掛けた。
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