第21話 デカいだけで怖い

「師匠、ちょっと発想の転換をしてみてはどうだろう」

「どういうことだ?」

「師匠は力持ちなのだから、砂の中でも泳げるのではないか?」

「なるほどな…」

 神成は砂漠に飛び込んだ。


 手足をバタつかせて、砂ツクシを倒しながら進んでいるようなもがいているような。やがて大ジャンプをかましてよそに移動しても、着地した先でのたうちまわる。それを何度か繰り返した挙句、砂ツクシの頭を足場にして崖に戻って来た。

「うん、無理だな」

「師匠~、陸に打ち上げられた魚の様だったのだぞ」

タカルハの言葉に、マメルカが吹き出した。


「兎に角、俺は何とか砂ツクシの頭を使って進めるにしても、お前達はここから動けそうもないな。もの探しなんか出来るのか?」

「師匠、そこら辺は対策して来たのだぞ。真実の水鏡はお母様の持ち物なのだ。お母様に、お水で在処が解るような魔法を教えてもらって来たのだぞ」

「…お前、俺を泳がせる前に言えよ」

「ごめんなのだぞ。ちょっと師匠が砂漠で泳ぐところを見て見たかったのだ、ふふふ」

神成は、可愛らしく笑って誤魔化すタカルハの耳を引っ張った。

「いだだだだだだだ、ちぎれるぅのだぅ」

笑って許されるのは、麗しのお母様だけだった。


「おーみず!」

タカルハが万能な呪文を唱えたが、何も起こらなかった。

「おい、どういうことだ」

「砂漠のどこかで、真実の水鏡がある場所に雨が降っているはずなのだぞ?」

タカルハの言葉を聞いて、三人で砂漠に目を凝らしていると、マメルカが小さく声を上げる。

「あっ、あそこ、水が降っているのです! ほらほら、砂煙が上がっている辺り」

マメルカの指の先に目を向けると、大きな砂山の陰辺りに雨が降っていた。

「本当だ。砂山の陰か…遠いな。しかし、あの砂煙は何だ?」

「師匠…雨がちょっとずつ近づいて来ているような気がするのだが」

目を凝らすと、雨が降っている砂山の稜線の辺りで何か動いている。


 突然、山の陰から丸い物が現れた。ズズズッと持ち上がったそれは、人型の何かの頭部分だった。稜線で動いていたものは人型の手だったようで、手を掛けてよっこいしょとばかりに伸びあがって乗り越えて来るつもりらしい。


「う…おぉぉ…あれ、こっちに来たら相当でかいよな」

「あたし、そろそろ帰るのですよ」

「…二人共、どうやら雨は、あの魔物に降っているようなのだぞ? 師匠がジタバタ暴れたから、あいつを引き寄せてしまったのだ!」

「おい、俺のせいみたいに言うなよ。タカルハが魔法を使ったから反応したんじゃないのか?」

「魔法と言ったって、俺は攻撃したわけではないし…そもそもあいつに雨が降っているということは、真実の水鏡はあいつが持っているということになるのだぞ」


 人型の何かは砂煙を上げて三人に近づいて来ている。動きはそれほど早くないようだが、ここにやってくれば崖に手が届くだろうし、悠長に眺めて鏡を探す余裕は無い。

「あれ…倒すしかないのか?」

「そうは言っても、どこに鏡があるかも解らんし…師匠が殴ったら鏡など粉砕してしまうのだぞ?」

「そうだよな。解った…取りあえず、近くで見たら鏡がどこにあるか解るかもしれないし、ちょっと一周して見て来るか」

神成はそう言うと、マメルカを背中に背負った。

「え? どういうことなのですか?」

「俺は足場の確保で忙しいから、目の良いお前がデカブツを観察してくれ」

マメルカの返事も待たずに、神成は砂漠へとジャンプした。


「ふわぁぁぁぁぁぁぁあ」

砂漠を飛び跳ねる神成の背中で、マメルカは既に吐き気をもよおしていた。

「おい、良く見ろ、近いぞ!」

「ふわぁ…っぷ」

デカブツの周りを、上手く距離を取りつつ飛び跳ねて一周する。やはり雨はデカブツに降り注いでいて、砂で出来ているように見える体は、水を吸って一部色が変わっている。距離を取ってうろちょろする神成達に向かって来る様子は無く、ゆっくりと腕を大きく振って、タカルハがいる崖の方向へ進んでいるようだ。

 詳しい観察はマメルカに任せて、神成はデカブツに近付きすぎないように注意しながら砂ツクシを渡り歩き、速やかに崖へと跳ね戻った。


「マメ子、どうだったのだ? 何か見えたのか?」

「うぅ…気持ち悪いのです」

マメルカは完全に、神成酔いしているようだ。

「駄目だったか…」

神成がマメルカの背中をさすりながら溜め息を吐く。

「いえ…魔物の…頭に…光るものが…あたよ…おうぇ」

マメルカの必死の報告を聞いて怪物の頭を見ると、確かに何かが銀色に光っている。

「マメ子、よくやったのだ! 師匠、ここからならもう魔法が届くのだぞ。俺が水の刃で首を切り落とすから、師匠は鏡を回収して来てほしいのだ」

「解った」

「おーみず!」

タカルハの気の抜けた呪文に反して、回転する大きな水の刃が現れて、勢いよく飛んで行きデカブツの首を直撃した。

「よしっ。すごい威力だ」


デカブツの頭が、ドスンッと下に落ちる。

それを見た神成は砂の上に飛び降りた。

デカブツは手を伸ばして頭を拾うと、もう一度首にくっつけた。

それを見た神成は大人しく崖に戻った。


「どういうことだよっ!」

「わ、解らないのだ…何か他に弱点があるとか…」

二人が取り乱しているうちに、デカブツはすぐそこまでやって来ていた。

「あぁー、もう、どうしたらいいのだー、真実の水鏡は師匠が離婚するために必要なものなのだぞ!!!」

タカルハの恐怖とイライラが頂点に達する。

「寄越せ! よーこーせー!」

タカルハの叫び声と共に、目の前で歩みを止めたデカブツは、自分の頭から鏡を掴んでタカルハへと差し出した。

「こ、これはまさか…」

神成には覚えがある感覚だ。


ポーン

――――――――――――――――――――

タカルハは『寄越せ』を覚えたのだぞ!

整列 特殊技能

   自分より弱い魔物から物を奪うことが出来る

補足 師匠と一緒に居る時は師匠より弱い魔物だったら有効なのだぞ

   師匠と一緒だと得なのだ ふはははは!

――――――――――――――――――――


 タカルハは、デカブツから真実の水鏡を受け取った。

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