第19話 前向きなのだぞ

「おい、タカルハ、もう盆地に到着したぞ」

「そうなのか? あっという間だったのだぞ」

神成はタカルハの満面の笑みを見て、突っ込むのをやめた。

 街からここまで、二日掛けてゆっくり戻って来たのだが、タカルハはずっと魔法石を撫でまわして上機嫌だった。杖に取り付けるでもなく、眺めたり撫でまわしたり、それはもう魔法石に夢中だったのだ。

「タカルハ…魔法石は杖に付けないのか?」

「ん? あぁ、そうなのだな…ドラマダ達に自慢してからつけるのだ」

付けてから自慢しても同じだろう、とは言えない。


「ふはははは! 二人共お帰り~カミナリ様の家出はもう終わりなの?」

「家出じゃねぇし」

「自分探しの旅?」

「恥ずかしい言い回しは止めろ…」

ちょっと馬鹿にしている感じのドラマダに、神成は顔を赤らめて下を向いた。

「ドラマダ、ちょっと見て欲しいのだ! 師匠にもらったのだぞ、すごいのだぞ! 師匠がお土産にくれたのだぞ!」

タカルハは、早速自慢を開始したようだ。魔法石を差し出されたドラマダは、感心したように石を眺めている。

「へぇー、これは、かなり良いものだね。すごいじゃないか」

「そうであろう? これは飛び切りなのだ。綺麗なのだぞ」

タカルハが興奮気味に魔法石を撫でまわす。

「タカルハ、そんなに撫でまわしてたら杖に付ける前に摩耗して無くなるぞ」

「ふふふ、無くなったら困るのだ。無くなる前に、お母様にも見せて来るのだ」

「お、俺も」

神成は、走り去るタカルハの後を追った。


「お母様―、ただいまなのだぞー!」

「お帰りなさい、タカルハ。あらまぁ、手に持っているのは魔法石? 立派な魔法石ねぇ」

「そうなのだぞ! 飛び切りの魔法石だ。師匠にもらったのだぞ! 嬉しいのだ! ふふふふ!」

はしゃいでお母様に抱き着いたタカルハは、お胸にスリスリして喜びを表現した。

「お、俺も」

お母様のお胸に伸ばした神成の手は、飛んできた何かに叩き落された。ぶつかって下に落ちたモノを確認すると、無表情のウサさんだった。

「ハニー、焼きもちか?」

ウサさんは無言で唾を吐いて見せた。


「タカルハ、これはどんな魔法石なの?」

お母様に石をつつかれて、タカルハがくすぐったそうに笑う。

「まだ説明は見ていなかったのだ。俺は嬉しくて、ずっと撫でていたのだぞ」

「まぁ、ふふふ。じゃあ、一緒に見て見ましょう~」

頷いたタカルハが、魔法石をツンッと突っついた。


ポーン

――――――――――――――――――――

タカルハは魔法石を手に入れたのだぞ!

名前 クソ硬い魔法石

   ありえない程硬いのだぞ

   効果は抜群なのだぞ

補足 因みに魔法とか色々すごくなるのだぞ

   ヒビも入らないのだぞ

――――――――――――――――――――


「いや…名前とか見なかったし…何かごめんな」

クソの呪縛を感じて、神成はタカルハに深々と頭を下げた。

「ふふふ、名前などどうでも良いのだ。硬ければ杖で戦っても安心なのだぞ。ただ、補足の方の説明を詳しくして欲しかった」

タカルハは成長していた。

「ふはははは! 早く杖に付けてよ」

いつの間にかやって来ていたドラマダが、杖の先を興味深そうに眺めている。

「そうだな、それでは付けて見るのだぞ…」

タカルハは、クソ重い杖の上部にあるクエスチョンマークのような形の空いた部分に、そっと魔法石をはめ込んだ。杖が振動して、うっすらと光を放つ。


ポーン

――――――――――――――――――――

タカルハは特別な杖を手に入れたのだぞ!

名前 前向きな杖

   タカルハは最近前向きになったのだぞ

   効果は抜群なのだぞ

補足 因みにクソ重くてクソ硬いのだぞ

   ヒビも入らないのだぞ

   殴っても良しの魔法武器なのだぞ

――――――――――――――――――――


「ふはははは! 語尾がウザいね」

ドラマダの感想は最もだった。

「いや、相変わらず突っ込みどころが多すぎて、語尾とかどうでも良くなるな。しかし、魔法武器って何かかっこいいな…俺も欲しい」

神成の言葉に、タカルハが嬉し気に頷いて見せる。

「かっこいいのだ。魔法武器なんて、噂でしか聞いたことがないのだ。すごいのだ! 師匠も欲しいのなら、俺も一緒に探すのだぞ。絶対見つけるのだぞ!」

「そうか、頼りにしてるぞ」


はしゃぐタカルハを見て、お母様はそっと神成に頭を下げた。


「カミナリ様―! 大変です! すごいお客さんが来ましたよ!」

息を切らせて駆け込んできたゴリイチが、大声でまくし立てる。早く早くと背中を押されて外に出ると、神成には遠目でも客人が誰だか理解出来た。

「よぅ! 今来たのか? 先に着いていると思ってたんだけど」

「あぁ、お前がいないときに来たら皆が驚くと思って、日を置いて訪ねたんだ」

長身のリュウマンの姿を見て、タカルハもドラマダも口を開けて呆けている。

「タカルハの魔法石を貰ったリュウマンだ。代わりにこの盆地に住んでもらおうと思ってるんだ。随分みんな驚いてるんだな…リュウマンはゴリラマンは食べないと言っていたぞ」

「いえ、食われる心配はしていませんが…リュウマンに会えるのは大変貴重なので、驚いているのです。一緒に居れば金運が上がると言う情報もあります」

ゴリイチが、財布に入れるヘビの抜け殻のような情報を繰り出した。


 申し分なくカミナリ盆地の住人になったリュウマンは、興味津々なタカルハとゴリイチ、ドラマダに取り囲まれていた。黙ってリュウマンを眺めている面々に居たたまれなくなった神成が、呆れたように口を開いた。

「えっと、こいつが弟子のタカルハで、こっちは友達のゴリイチとドラマダだ。リュウマンは名前があるのか?」

「あぁ、我はヨモツだ。弟子の杖は大したものだな。その魔法石に見合った杖だ」

名前からしてクソベストマッチだったが、タカルハはそこはあえて流して頭を下げる。

「そうなのだ、とても気に入っているのだ。ヨモツさんありがとう、なのだぞ」

少し笑って見せたヨモツは、そこはかとなくかっこよかった。トカゲっぽい面影があるものの、切れ長の鋭い目は、男前なオーラを醸し出している。


「ふはははは! いやー、まさかリュウマンが来るとはね。何だろう、カミナリ様はマンコレクターなの?」

「ちょっとあやうい響きの言葉を使うなよ。それに、緑マンのお前は勝手に居座ってるだけだろうが」

「大切なお友達なくせにー、ふはははは!」

馴れ馴れしく肩に手を回してきたドラマダに、神成はヘッドロックをかけた。


「しかし、驚いたな。カミナリに盆地に誘われた時には半信半疑だったが、本当にゴリラマンと一緒に盆地にいるとはな…緑マンなんて珍しいものとも親しげにしている。お前はいったい何者なんだ」


 リュウマンの最もな疑問に、神成は自分の正体を明かしてしまおうと考えた。ヨモツは、一方的に戦いを吹っ掛けたフランシア達を痛めつけなかったし、神成との約束もきちんと守ってくれた。信用出来るし、頼りになりそうだ。

 タカルハ、ゴリイチ、ドラマダ…そして、盆地のゴリラマン達。見回せば、友達の楽しそうな笑顔が見える。自分だって笑っている。リュウマンのヨモツも、きっと新しい友達として仲良くなれるだろう。


 居心地の良い場所だ。きっと、天国のじいちゃんも喜んでいるに違いない。心からそう思えた。

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