第17話 リュウマンです
「ゴリラマンよりもでかい…」
神成一行は、念願のリュウマンと対峙していた。上半身裸の2メートル以上あろうかという長身に、トカゲっぽい面長の顔と目、太くて長いしっぽ。うっすら青光りしている皮膚も、トカゲのようにひび割れて硬そうだった。意外にも頭には青い毛が生えていて、それがマンらしさを醸し出している。
「あなたは、人間では無く、魔物でも無く?」
神成は先手を取った。
「リュウマンです」
「こんにちはー」
「こんにちは」
三度目のマンへの挨拶に抜かりはなかった。
「勝負だ! 勝負を申し込む! 私と相棒が勝ったら、魔法石をもらう。負けたら持っている核を全部やろう」
フランシアが、一瞬で神成の挨拶をぶち壊した。しかも勝手に手持ちの核をかける暴挙に、ロクと神成は呆れ顔を見合わせる。
「……いいだろう。退屈していたところだ」
リュウマンは静かな調子で答えた。
「よーしっ、お師匠さんは手出し無用だ!」
「了解」
急展開だが、神成は素直に頷いた。リュウマンが承知しているようだから、勝負を見届けるしかないだろう。
リュウマンと向かい合ったフランシアに、ロクが魔法をかける。ロクは支援魔法が得意で、フランシアの速度や体の強度などを魔法で次々と上げて行く。薄っすらと黄色い光を纏ったフランシアは、大剣を後ろに振り上げてリュウマンの元へ走り込んだ。
「大薙ぎ!」
技の名前らしきものを口走ると、大剣をリュウマンの横から叩きつけた。
神成は、リュウマンの胴体が真っ二つになったのではないかと血の気が引いたが、大剣はリュウマンの所で止まっているし、血も吹き出してはいなかった。立ち位置を変えて覗き込むと、フランシアの大剣はリュウマンの肘と膝に挟まれて止まっている。とんでもない破壊力があるように見えたが、それを肘と膝で挟んで止めるとは、とんでもない化け物だ。
「これは…想像の遥かに上を行くな!」
大技を止められたフランシアは楽し気に笑うと、リュウマンに蹴りを入れて距離を取った。
フランシアは大剣を軽々と振り回して切りかかるが、全てリュウマンの手で防がれてしまう。ロクも補助魔法を掛けなおしたり回復の魔法をかけたりと、忙しそうにしている。タカルハと違って、ロクは長い呪文を唱えているから口を閉じる暇が無さそうだ。
リュウマンが隙だらけのロクを狙う気配は無い。フランシアもロクも感じているだろうが、まるっきりリュウマンに遊ばれているようだった。
「ロク!」
距離を取ったフランシアが、ロクに目配せをする。頷いたロクを見て、フランシアが体勢を大きく沈みこませた。
「照光」
ロクのつぶやきと同時に、フランシアが地面を蹴って飛び出した。
瞬間、フランシアの後ろにまばゆい大きな光が現れる。目を閉じた神成同様、リュウマンも光に目がくらんだことだろう。
「一突き!」
フランシアの声が聞こえたが、どこを突いたのか解らない。
神成が目を開けると、光は消えていた。残像でチカチカする目を瞬いて様子を探ると、フランシアがリュウマンに大剣を突き立てている…ように見えたが、剣は刺さっておらず、しっかりとリュウマンの手に握られて止められている。
「悪く無かった」
リュウマンはそう言って剣を離すと、ぐるりと一回転してフランシアに尻尾を叩きつけた。
ただの打撃では無かったようで、風を纏ったような一撃をまともにくらったフランシが吹っ飛んでロクにぶち当たる。
フランシアとロクは立ち上がらなかった。神成が近づいて確認すると、どうやら気絶しているらしい。
「うーん。フランシアは強かったけど、リュウマンはけた違いのようだな」
腕を組んで前に歩み出た神成を見て、リュウマンが欠伸をする。
「お前も勝負したいのか? 我はもう飽きてしまった」
神成の目の前でリュウマンが体をよじる。飽きてしまったリュウマンは、神成に尻尾の一撃を叩き込むことにしたようだ。
「ほう…」
フランシアが吹き飛んだ一撃をくらった神成は、微動だにせずリュウマンの尻尾を掴んで立っていた。リュウマンが感心したような声を上げる。
「お前は何者だ。かなり強そうだが…白マンか?」
「白マンじゃないけど、結構強いよ」
「勝負するか?」
「うーん…いや…勝負はしたくないな。でも、魔法石は欲しい。何かと交換出来ないかな?」
「負けるのが怖いのか?」
つまらなそうに鼻を鳴らしたリュウマンに、神成は溜め息を吐いて見せた。
「いや、負けても別に構わないよ。ただ、話が通じる相手に拳を叩き込むのは嫌なんだ。俺は力の加減が苦手だし…決してあんたを馬鹿にしてるわけじゃないけど、本気で殴るとすごい破壊力があるから、そういうものをあんたに向けたくない」
「おかしなヤツだ。だが、魔法石は欲しいのだろう? 強いのなら奪えば良いではないか」
「ちょっとなぁ、そういうことはしたくないんだ」
神成の頭には、ゴリラマンやドラマダの顔が浮かんでいた。マンたちと交流してしまっただけに、奪うような真似はしたくない。
「お前は魔法使いではないようだから、魔法石を金に換えたいのか?」
「いや、俺の弟子が魔法使いなんだけど、そいつにあげようと思って。ちょっと喧嘩して困らせちゃったし。あんたの言う通り、俺は魔法使いじゃないから、あいつに譲ってやれる魔法石は持っていない。だから、出来れば手に入れたい」
「ただ弟子にくれてやるのか? 魔法使いでもないのに、なぜ魔法使いの弟子を持っているんだ?」
リュウマンは不可解そうに眉間に皺を寄せたが、その答えは神成にとっても難問だ。
「それは難しい質問なんだけど、弟子が…タカルハが俺を師匠にしたいと望んだから、そういうことになったんだ…まぁ、俺もそれでいいかなって思えて来たところでさ。折角だから、ちょっと師匠らしいことをしてやりたくて。魔法石と何かを交換して欲しい。金や核だったら集めて来るし、労働力だって提供できるぞ」
腕を振り回して力をアピールすると、リュウマンが少し笑ったように見えた。
「訳の解らんやつだ。では、安全な住み家でも提供してもらおうか。つがいを探す旅にも飽きてきたところでな」
そう言って意地の悪い笑みを浮かべたリュウマンを見て、神成はほっとしたように息を吐いた。
「それなら任せてくれ」
「何? 人間に煩わされない住み家を、お前が提供できるというのか?」
「出来る! カミナリ盆地に住めば良い」
「どこだ、それは…聞いたことが無い」
「旧ゴリラマン盆地だ。今は俺が所有者で、カミナリ盆地に名前が変わったんだ。あぁ、あんた、ゴリラマンを食ったりしないよな?」
「食わないよ」
「じゃあ、大丈夫だ。俺の留守中に着いたら、ゴリラマン達にカミナリタカヒトの紹介で来たと言えば良い」
「俺をからかっているのか…?」
荒唐無稽な話だったのだろう。リュウマンは険しい顔で神成を睨んでいる。慌てた神成がステータスを出して見せると、驚いた顔をして首を傾げる。
「驚いたな…でたらめを言った訳ではなさそうだ。ふむ…自分で切り出した手前、約束通り、お前に魔法石をやるしかなさそうだ。我はカミナリ盆地とやらに向かってみよう。面白そうだ」
そう言うとリュウマンは、後ろの茂みから小さな袋を持って来て、神成へ放って寄越した。
「飛び切りの魔法石だ。盆地で会おう。しばらく退屈しないですみそうだ」
「あぁ、待った待った。フランシア達から核を回収しないと」
「いらん。食料は足りているし、荷物になるからな」
そう言ってリュウマンは走り去ってしまう。
「食料って…核を食うのか。マンも色々だな…」
神成は、魔法石と新しい盆地の住人を手に入れた。
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