第14話 アイツだろ
「うわわわわぁ~~来た、来たのだぞ~! すごい群れだ!」
どんな追い立てられ方をしたのか、砂煙を上げながら突進して来る群青オオカミの群れは、見るからにいきり立っている。逃げているというより、崖の中腹に居る神成たちを目がけて突っ込んで来るようだ。
「よし、俺は真ん中に突っ込むから、前半の奴らの相手は頼むぞ」
タカルハとマメルカの返事も聞かずに、神成は勢いよく崖を蹴って飛び出した。空中で器用に魔法のカバンから呪いのサークレットを取り出してはめると、拳を下にして群青オオカミの群れの真ん中に落下する。
「う、嘘! カミナリさんが群れの真ん中に落ちてしまったのですよ!?」
「大丈夫なのだ。俺達は師匠に言われた通り、こっちに来る奴らを倒せばいいのだ!」
轟音と共に、神成が落下した辺りの地面が陥没し、土や岩が円形にささくれ立つ。巻き込まれた群青オオカミが、一瞬で何頭か核になった。
神成は追い打ちとばかりに、驚いて足を止めた群青オオカミ達に、容赦なく殴り掛かる。開けた場所で思う存分振り下ろした拳や蹴りは、一度に何匹もの群青オオカミを倒して行く。
「整列! せーいーれーつー!」
崖の上からタカルハの声が響くと、崖下で10匹程の群青オオカミが足元に整列したようだった。
「おーみず!」
気の抜けたようなタカルハの呪文で、水の粒が弾丸のように群青オオカミ達に降り注ぐ。整列しなかった群青オオカミが、崖に跳び付いた仲間の背中を踏み台にして、タカルハの足元に迫る。それに気付いたタカルハは、クソ重い杖を振り下ろして叩き落とした。
「これは…いったい…お二人は…何者なのですか!?」
驚いて二人を見つめるマメルカに、タカルハは視線を向けずに口を開く。
「役に立つ弓の名手なのであろう?」
タカルハの言葉を聞いて、マメルカは急いで矢をつがえると、崖に取り付いた群青オオカミ目がけて射て見せた。
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「腰が痛ぇ―――、面倒くせぇ―――」
「師匠が地面を壊しまくるから、核を拾うのが大変なのだ。自分のせいなのだぞ」
「ぬかるんでる所は、タカルハのせいだろうが」
「八つ当たりしていないで、さっさと拾うのだ! もう、師匠はいっつもこうなのだ。お片付けもちゃんとしなければならないのだぞ!」
「今拾おうとしてたのに~タカルハが母ちゃんみたいなこと言うから、やる気がなくなったー」
「………」
15分もすると、100頭の群青オオカミの姿はすっかり消えてしまった。後には、いつものように愚痴を言いながら核を回収する二人と、それを黙って手伝うマメルカがいるばかりだ。
回収した核を魔法のカバンに押し込み終えた所で、崖の上にぞろぞろと仲間だったはずの者達が姿を現した。
「あんたたち…」
カルメラが険しい顔で口を開いた。
「作戦は失敗だったみたいだな。俺達三人で尻拭いしてやったんだから、核は全部俺達がもらうぞ。あんたたちは、自分たちが倒した分を山分けにするといい」
「どんな手を使ったらこんなになるんだい…上級魔法使いの仲間でも連れて来ていたのかい? どこだい、姿を見せな!」
カルメラが叫んだが、当然出て来る者などいなかった。
「3人で100頭全部倒したのだぞ。ここに100頭来るなんて、もとはいったい何百頭いたのだ?」
タカルハの皮肉にカルメラは答えず、何か助言を求めるように隣にいる仮面の男に視線を向けている。
「おい、見張っていたのは誰だ! こいつらは何をしたんだ!」
仮面の男が大声を上げると、一人の男が進み出て、決まり悪そうな顔をした。
「俺が見ていましたが…確かに三人で全部倒してしまいました。カミナリの拳が地面を割って…タカルハも妙な術と魔法で…次々に群青オオカミが減っていきました」
「そんな…そんなことが…」
仮面の男は、怒りを堪えているように肩を震わせている。
「おい、仮面男! お前、あいつだろ…何だっけな…」
神成が眉間に皺を寄せて記憶を手繰り寄せる。
「えーと…そうだ! 加熱の赤バラ隊の副隊長!」
「苛烈の赤バラ隊だ!」
「そう、そんな感じ」
副隊長は自ら正体を明かしてしまった。
「師匠の知り合いか? 苛烈の赤バラ隊と言えば、魔法都市イシュバラの女王直属部隊の一つであろう? 仮面の男がそれの副隊長だと言うのか?」
タカルハの言葉に、その場にいた全員がどよめいた。どうやら、仲間達も仮面の男の正体を知らなかったようだ。
「なぜ解った…」
男が仮面を取ると、確かに神成とひと騒動起こした美形が現れる。
「うーん、俺に特別恨みがありそうだったからなぁ。俺の顔見知りで恨みを買ったようなやつはお前ぐらいしかいないから。それに、腰をくねらすような気持ち悪い歩き方をする知り合いはお前ぐらいだ、ミーコ」
「ミーカだ! ミーカ副隊長だ! この、破廉恥男め」
「お前、破廉恥だからって殺そうとしていいのかよ。しかも、陰険な方法使いやがって。お前の国の印象は最悪だ! 何があろうとも、お前の国にだけは盆地は渡さないからな」
「何だと!」
睨み合う神成とミーカ副隊長に、カルメラが慌てた様子で割って入る。
「ちょっとお待ちよ! 私たちは何も命まで取ろうなんて思っちゃいないよ。この仮面の男に、大漁組は最近調子に乗っているから、ちょっと怖い目に遭わせて笑ってやろうと持ち掛けられて…金で雇われたんだよ」
「何を言っているのだ! 師匠が事前に足場を作っていなかったら、命だって危なかったのだぞ!」
タカルハの怒鳴り声に、カルメラと仲間たちは黙って顔を伏せた。
不毛な睨み合いに飽きた神成は、一つため息を吐いてから口を開く。
「帰るぞ、タカルハ」
歩き出した神成の後を、タカルハが追う。
「師匠…」
途中で立ち止まって神成を呼んだタカルハは、何かを訴えるように振り返ってマメルカを見た。
「あぁ…マメ子、俺達と一緒に来るか? 大漁組は弓の名手を募集中だ」
神成とタカルハに見つめられたマメルカは、崖の上のカルメラに目をやってから真っ直ぐに前を向いた。
「私は、みんなの計画を途中でばらすような裏切者なのです。もう一緒にはいられないし、こんな酷いことは二度としたくないのです。だから、カミナリさん達と一緒に行くのです!」
そう言うと、カルメラ達へ頭を下げてからタカルハに駆け寄った。
「マメ子、師匠の隣には寝かせないのだぞ!」
「カミナリさんだって、男の隣よりもあたしの隣の方がいいに決まっているのです」
「いや、俺は襲われるのはごめんだ。ちっちゃい野獣は隅で寝てくれ」
「ちっちゃい野獣…あたしのことですか!」
マメルカを加えた帰り道は、いつもよりも騒々しかった。
神成は、大人しいタカルハがマメルカと大声で怒鳴り合うのを見て、皆に笑われて黙って顔を伏せていたタカルハよりずっと良いと思った。マメルカは女としては小柄なので、きっとタカルハと同じような目に遭って来たはずだ。ずっと自分達にくっついていたのも、仲間たちと居づらいものがあったのかもしれない。
「まぁ、二人とも仲良くしろよ」
「無理なのです!」
「無理なのだ!」
同族嫌悪なのか…二人は同時に拒絶を表明した。
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