第4話 保護者になりました
「あなたがどうやって土地を手に入れたのか知らないけれど…人間同士だって、多少手荒な手段は取れるのよ~? ちょっと痛くしちゃったり。あとは、そうね~、あなたの家族を痛くしちゃったりね~お馬鹿さん」
アリーシャ隊長の言葉に、神成の胸の内のモヤモヤとイライラが大きくなった。
「嘘つけ。そういうやり方だと、魔法の地図には反映されないし、二度とその土地を手に入れられなくなるって聞いてるぞ!」
「だ~か~ら~、多少って言ってるのよ」
「そういう加減はしらないけど、あんたら気に入らないな。何をされても盆地は譲らないぞ。帰ってくれ!」
神成が声を荒げた。
「ミーカ!」
アリーシャ隊長が神成を指差しながら鋭い声で名前を呼ぶと、ミーカ副隊長は杖をかざしながら何やら呪文を唱え始めた。察した隊員たちが後ろに下がる。
神成は、内心びびっていた。そして、ちょっとわくわくもしていた。あれは恐らく魔法攻撃だ。今まさに、自分に魔法が飛んで来ようとしている。魔法なんて防ぎようも無いし、くらってみるしかない。いや、むしろちょっとくらってみたかった。
「吹き飛ばせ! 暴風!」
ミーカ副隊長が、いかにも呪文の締めくくり的な大声を出した。
瞬間、神成へ向かって、突風が吹き荒れた。自分の体に、風の塊がぶち当たるのを感じる。すごい、こんなことが出来るなんて、これが魔法か…
「なるほど。すごいな」
「………」
何事も無かったかのようにその場で呟く神成を見て、苛烈の赤バラ隊は首をかしげる。
「貴様、何か魔法を無効にするアイテムでも持っているのか!!」
いきり立ったミーカ副隊長が、神成に詰め寄って再び襟首を掴もうとした。
「あんた、魔法使いなのにちょろちょろ前に出て来てるけど、腕っぷしも強いのかよ。それとも馬鹿なの? 偉そうだし、クネクネ気色悪い歩き方するし、美形だし腹立つわぁー」
ミーカ副隊長は、神成が苦手なタイプの美形だった。
神成は苛立たし気にミーカ副隊長の手を避けると、逆に相手の赤い制服の襟元を掴んで引き寄せた。寄せようとしたのだが…
「あふん」
ミーカ副隊長の制服の前面が勢いよく破れた。
露わになる上半身。
「何ということを―――!」
アリーシャ隊長が叫んだ。
「男の服をはぎ取るとは、破廉恥なぁぁぁ―――!」
再び叫んだ。
「あぁ―――ん!」
慌てて乳首を隠すミーカ副隊長の姿を見て、神成の中で何かが切れる音がした。
「もう帰れよ、変態! 胸糞悪いわ!!」
叫びながら地面に向かって拳を振り下ろすと、地面が大きく陥没して苛烈の赤バラ隊の足元に亀裂が走った。
赤バラ隊は沈黙した…
「取りあえず帰ってくれる? 今すぐ」
「………」
「不測の事態なんだろ? 上司にお伺いを立てた方がいいんじゃないの?」
「……、ブクシュ」
乳首を隠したミーカ副隊長のクシャミが響き渡った。
***************
「カミナリ様、どうなりました?」
神成は、不安げに尋ねるゴリイチに頷いて見せた。
「うん。変態どもは帰った」
「申し分な―――しっ!」
ボスゴリラマンが声を上げると、そこらじゅうから歓声が上がり始める。
「しかし、上手くいって良かったです。我々にとってもかなり重大な決断でしたが…」
ゴリイチが大きな溜め息をついて地面に尻餅をついた。
苛烈の赤バラ隊が到着する五分前、神成はゴリラマンたちにある提案をした。
「ボスゴリラマンよ、いっそこの盆地を俺に譲るってのはどうだろう」
「なに!?」
「いや、俺は別に土地に興味は無いし…親切にしてくれたゴリラマンたちを酷い目に遭わせるつもりは無いんだ。ずっと考えてたんだけど、ゴリラマンのボスはやっぱりゴリラマンがいいと思う…でも、それだとずっと人間に挑まれ続けるだろ?」
「まぁ、そうであろうな」
「しかも、人間に有利な条件だ。そんなのやっぱりおかしいよ。だから、俺の土地になれば、人間は簡単に手を出せなくなるだろ?」
「しかし、それでは…」
ゴリイチが不安げに口を挟んだ。
「まぁ、不安だよな。だけど、俺は絶対に他の人間にこの土地を譲ったりしないし、ゴリラマンたちを追い出したりもしない。今までと何も変わらない。それに、この場所とゴリラマンに何かあると、俺も困るんだ。戻る方法が無いにしても、ゴリラマンとこの場所が俺の世界との接点だと思うから」
ボスゴリラマンは黙って神成の顔を見つめていた。側に集まって来ていたゴリラマンたちも、黙って事の成り行きを見守っている。
「あのー、つまり、カミナリ様はボスにはならないが土地を所有するということですよね?」
ずっと不安気だったゴリイチが、おずおずと口を開いた。
「うん、そうだな」
「今まで、ゴリラマン盆地はゴリラマンのもので…それはボスが守っていたからなのですが…。土地だけ譲るようなことが出来るのかどうか解りませんよ? 前例がありません」
「そうなのか。それはまぁ、やってみるしか無いと思うけど。何にせよ、あまり時間は無いぞ。人間がボスを襲いにそこまで来てるんだから。人間をボスにするか、人間の所有する土地に住むか、どっちにするか決めてくれ」
人間が到着すれば、背骨を傷めたボスゴリラマンはただでは済まないし、倒されれば盆地は取られてしまう。
「ふんっ! 魔法の地図を広げろ!」
突然、ボスゴリラマンが荒い鼻息を吹き出した後に怒鳴り声を上げる。察した部下ゴリラマンが、魔法の地図を広げた。
「我、ゴリラマンのボスゴリンザーは、カミナリタカヒトがゴリラマンに危害を加えぬと誓うならば、ゴリラマン盆地を譲ることにする! カミナリ様、誓うか?」
ボスゴリラマンの大声にのけ反りながら、神成はしっかりと頷いた。
「誓う」
「申し分なーし!! どうせ土地を取られるならば、いっそ異世界人にかけたほうが良い」
そう言ってボスゴリラマンは豪快に笑った。
「あぁ、見て下さい。魔法の地図が…」
ゴリイチが指さした地図を覗き込むと、ゴリラマン盆地と書かれた場所が光っている。光に促されるようにゴリイチが指で触れると、何やら楽し気な音が鳴り響いて文字が現れた。
ポーン
―――――――――――――――
『カミナリ盆地』
旧ゴリラマン盆地は、カミナリタカヒトの所有になり、カミナリ盆地となった。
※補足 カミナリタカヒトは、ゴリラマンの保護者になった。土地を他の者に譲る気は無いようだ。申し分なし。
――――――――――――――――
「保護者って…響きが…。せめて守護者とかにしてくれないかな」
神成は、ゴリラマン盆地を手に入れた。そして、ゴリラマンたちの親になったようだ。
そして神成は、子供達に見送られながら、『苛烈の赤バラ隊』のもとへ向かったのだった。
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