せかいでいちばん、きれいなほうせき

藤尾あや

第1話 せかいでいちばん

「せかいでいちばん」が好きだった。「せかいでいちばん」と頭につけただけで、それは特別なものになる。「せかいでいちばん」はいつだって私を特別にしてくれた。「せかいでいちばん」はすばらしいもので、みんなが欲しがるもの。




電車の窓に映る真っ黒なスーツの自分をみつめて、いつかの父親のスーツに憧れた自分を思う。

本当にばかばかしいと思う。みんなで同じ服を着て、同じようなメイクをして、同じようなエントリーシートを書いて、同じようなことを「学生時代に頑張り」、同じような「強み」をアピールして。

そうして得た結果も、もしかしたら私に幸せをもたらすことはないかもしれない。嫌味な上司とか、いけ好かない同期とか、生意気な後輩とか、通勤ラッシュとか、眠い会議とか。想像すればするだけ、不安になってしまう。


これまでだってずっとそうだった。幼稚園の頃は、ランドセルに憧れて、いざ背負ってみると少しも特別なことはない。中学校の制服に憧れて、いざ着てみると、どこかださくて、やっぱり特別ではない。キラキラした高校生活に憧れて、いざJKの称号を手にしたところで、やっていることは中学生の頃と変わらない。大学生活もそうだ。


「せかいでいちばん」が好きだった。「せかいでいちばん」が頭につくものを、私はいつも欲しがった。でも、私はもう知っている。


「せかいでいちばん」なんて、あってないようなもので、そして私が「せかいでいちばん」を手にすることはきっと一生ないのだ。

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