第14話お兄ちゃん一人でも大丈夫だよね?

試練の塔に到着した。高さは5階建てくらいだろうか。

「よし、トビラをあけるぞ。」

兄がそう言うと塔のトビラに手をかける。するとトビラが開いた。兄が塔に入るとすぐにトビラが閉まる。

「えっ!?まだお兄ちゃんしか入ってませんよっ?」

「どうやら塔の中に入れるのも勇者だけみたいね。」

「そんな、私お兄ちゃんのチカラになりたいのに。ここで待ってることしかできないなんて…。」

「大丈夫、お兄ちゃんならすぐリアたちのとこに帰ってくるよっ!」

そして私達は兄の帰りをじっと待つことにした。

一方そのころ、塔の内部では

「なんだっ!勝手にトビラがしまったぞ!?俺だけで来いってことか…。」

しばらく進むとひとつの部屋にたどり着いた。

中に入ると、頭の中に声が聞こえてきた。

『魔王を倒す勇者よ、よくぞきました。この試練の塔の最上階にてそなたを待つ。試練を乗り越えて最上階にたどり着いてみせよ。』

すると部屋の中に敵があらわれた。鎧をまとった兵士だった。

「こいつを倒せってことか?」

すると兵士が剣を抜き斬りかかってきた。

俺も刀で応戦する。

(く、なかなか強いな!)

部屋の中にカチン、カチンと剣がぶつかり合う音が鳴り響く。

しばらく切り合いが続く。どちらも中々スキがない。そしてついに一瞬兵士の剣を弾いてパリィする。

「今だっ!」

俺はチカラいっぱい一撃を入れる。しかし鎧にはなんとか切れたが貫通はしなかった。

「く、ダメか…。ならっ!身体強化っ、電光關火っ!」

さっきまでの数倍のスピードで兵士を攻撃する。兵士は俺の攻撃について行けずにいる。

「よし、このまま切り続ければ…。」

俺は兵士の身体の同じ箇所に狙いをさだめて何度も斬撃を入れる。そしてついに鎧を破壊して中の身体を切断することができた。

「やったっ!」

兵士の胴体を真っ二つにしたが、血などは出ずに全体が消えていく。

すると入り口とは反対側のトビラが開いた。

「やっと先へ進めるか…。しかし、身体強化は中々身体に負担がかかるな。長時間の使用は避けたほうがよさそうだ。」

トビラの向こうには階段があった。階段をのぼり、2階に着くとそこはひとつの大きなフロアになっており、中心部の床がなかった。無い床の幅は約20mといったところだろうか。身体強化を使っても飛び越えるのは不可能だ。まわりを見回しても他に道はない。とりあえず穴に近寄ってみる。下を見るとさっきまでいた1階が見える。落ちても死ぬことはない高さだがケガはするだろう。

「いったいどうすればいいんだっ!くそっ!」

そう言うとその辺に落ちていた小石を蹴飛ばす。

すると蹴飛ばした小石は床の無いとこに飛んでいく。なんと小石が落ちることなくその場で止まっている。

「どうなってるんだ!?」

近寄って見てみる。小石の止まっているとこに触れてみる。そこには目に見えない床が存在した。触って確かめると幅は30センチくらいだが見えない床は続いている。

「ここを通れば渡れるってことか…。」

そして見えない床を慎重に進んでみる。

「よし、このまま真っ直ぐに…。」

まるで平均台を渡るようにゆっくりと足元の感触を確かめながら進んでいく。一歩でも踏み外したら真っ逆さまだ。

落ちる不安に打ち勝ちながらやっと半分くらいにきた。すると突然足元に突風が吹いた。なんとか持ちこたえたが下手したら持って行かれそうだ。両わきのカベを見ると何箇所かに下の方に小さな穴があいている。通るときにその穴から風が吹くようだ。

「く、今の強さの突風が何度もきたら持ちこたえられないな。よし、風がくるタイミングに合わせてジャンプするしかないか。」

そして進むと穴からふたたび突風がきた。きたタイミングに合わせて真上にジャンプするとかわすことができた。目に見えない狭い床でジャンプするのは至難の技だ。

そして何とか向こうの床にたどり着いた。トビラをあけると階段が現れる。

「敵がいなかったってことは、2階は俺の勇気を試す部屋だったってことか…。」

そして階段を上がる。

3階に着くと、足元に魔法陣があらわれる。

とっさに魔法陣から飛び出すと、魔法陣からは上昇気流が吹き出した。そのままあそこにいたら天井にたたきつけられていただろう。

すると目の前に敵があらわれた。杖を持った魔術師のようだ。魔術師が杖をかざすとエアカッターが飛んできた。

「マジックブレイカーっ!」

俺はとっさに魔法を打ち消す。

そして刀を構える。

「天駆ける龍の息吹!!」

魔術師に炎の刀で斬りかかり、当たる寸前で魔術師の姿が消え、後ろからエアカッターが飛んできた。不意打ちだったためかわすことができず背中に攻撃を受けた。

「クソ、まさかテレポを使うなんて…。」

幸い攻撃は軽く、重傷にはならなかった。体制を立て直し、ふたたび刀を構える。

そして魔術師に向かって走り出すと今度は無数の火の玉を飛ばしてきた。マジックブレイカーでかき消していくが1つは左肩に命中した。

「あつっ!この魔術師、威力は小さいがほのかと同じで全属性魔法を使えるのか…。どうすればいい?間合いに入るとテレポで逃げられるし、遠距離攻撃でもできれば…、よしっ!これなら!」

そして俺は刀を鞘(さや)に収め、鞘をにぎったまま魔術師に向かう。

魔術師はファイヤボールとエアカッターを交互に飛ばしてくる。マジックブレイカーで消しながら魔術師に近づき、間合いに入る前に遠距離攻撃をしかける。鞘の先を握ったまま、刀が抜けるように振りかざし、刀に炎をまとわせて魔術師に飛ばす。

「これでもくらえっ!飛龍閃(ひりゅうせん)っ!」炎をまとった刃が魔術師に飛んでいき、魔術師をひとつきにした。

そして魔術師は倒れ、消えていく。

「やったようだな…。魔術師と戦うのがこんなに大変だったなんて。でも魔力はあっても身体は弱いから一撃さえいれられたら倒せるってことがわかったな。」

奥のトビラをあけるとやはり階段が現れる。階段をあがり4階にたどり着いた。

そこには人工的に作られた泉のようなものがあった。そこへ近づくとふたたび頭の中に声が聞こえてきた。

『さぁ、その泉の水を飲みなさい。キズと体力が回復したら最上階に上がるのです。』

「なるほど、最終決戦の前に回復してくれるってことか…。」

正直助かった。ここまでで疲労はピークになり、身体中キズだらけだ。

そして水を手ですくい飲むとみるみる回復していく。万全とまではいかないが体力も戻った。

そして奥のトビラをあけると階段が現れる。

「いよいよ最後か。いったい何がでてくるのか。」

階段を上がり、最上階にたどり着いた。

そこには巨大な鏡があった。

鏡に近づく…。そこには自分の姿が映っている。

そしてふたたび頭の中に声を聞こえてきた。

『よくぞここまでたどり着いた。勇者よ。そなたに私の力をさずけよう。』

すると身体に力がみなぎってくる。そして持っていた刀が光かがやく姿にかえていく。日本刀という形はそのままだが、黒かった鞘は白くなり、柄の部分も装飾がほどこされる。

ただの日本刀は「でんせつの刀」に姿を変えた。

『さあ、過去の自分と決別するのです。今までの自分を克服しなければ聖なる力もそなたを受け入れらません。打ち勝つのです。自分自身に!!』

すると鏡の中からさっきまでの日本刀を持ったユウタが現れた。

「自分との戦いってことかっ。」

そして斬りかかってきた。攻撃をなんとか防御する。刀を抜いて、攻撃してみる。刀は右肩に当たる。

「痛っ!なんだ、攻撃したら自分までキズついたぞ。防御するしかないってことか…。」

しばらく攻撃がつづき、かすりながらもひたすら防御に徹する。

かなり体中に切り傷を受けてきたころ、頭の中に声が聞こえてきた。

『正義よりも、正しいことよりも、だいじなことがあります。いつかわかるときがくるでしょう。さぁ、行きなさい。』

するとさっきまで攻撃してきた自分の姿が消えていく。

『よくやりました。これから私の意識を光の力にかえてそなたにさずけよう。受け取るがいいでしょう…。わたしの…さいごの光を。勇者ユウタよ、魔王をとめるのです。』

「待ってくれっ!」呼びかけるが返事はない。

そして身体中に力が溢れてくる感触を感じた。

ユウタは聖勇者になったのだった。

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