覇王様、遭遇する③
アリスを家に連れ帰ってすぐに俺は誘拐されたチビを追った。
すぐに
ただ勘違いするなよ?
本当にチビのことを心配していたからとかじゃないからな?
つい癖で張り付けただけだからな?
内心で誰にともなく言い訳を繰り返しながら、《
それから数分とせずに辿り着いたのが、住宅街から離れた距離にある閑散とした場所であった。
本来ここは緑林に囲まれた自然豊かで清涼溢れる所だったのだろうが、そこに立つ今にも何かが這い出てくるかのような不吉さ漂う洋館のせいで、逆に魔女などが出現しする暗き不気味な森のような印象を与えてくる。
張り付けてある目からはどこか倉庫のような様相が映し出されていた。
中には車やバイクなどが格納されており、どうやらガレージのようだということが分かる。
そんな風に観察を続けていると、
やばい!暢気にしている場合ではなかった!
早く救出に向かわなければ!
俺はすぐさま上空からガレージに向かって、急降下する。
そして、そのままガレージの天井部を豪快に突き破り、男とチビの間に割って入るように降り立つのだった。
◇
「――ッ!なんだお前!?」
男は突如現場に乱入してきた俺を見て、驚きの声を上げる。
だが、俺はその声を丸っと無視して、縛られて地面に転がるチビに話しかけた。
「随分と面白い恰好をしているな、チビ。なかなかお似合いじゃないか」
腕と足と口を拘束されて、なんとも無様な恰好だった。
いつも強気なくせに、今は涙目を浮かべて怯えながら俺を見上げている姿も笑えて来る。
「んん!?(どうしてここにいるの!?)」
「どうしてって、貴様を助けに来たと言ったではないか」
「ん……(な、なんで……)」
「理由だと?そんなの決まっている」
フッ!貴様が求めている答えなど俺には百も承知さ!
「んん……(も、もしかしてボクを心配……)」
「貴様が消えてしまうと、俺の優越感を満たす相手が居なくなるからな。俺の平穏をより豊かにするためにも、貴様には俺の隣に居てもらわなくては困るのだよ」
「ん!んん!!んんん!!!(こ、こいつッ!一瞬前までのボクの感動を返せ!!絶対いつかその憎たらしい顔を一発ぶんなぐってやるからな!!!)」
うむ、まさかここまで喜んでくれるとは、俺の見立て通りか。
あんな毎日負けるために俺に挑みに来るのだから、おそらくそうなのではないかと思っていたが、やはりこ奴は真正のドMだったようだ。
こ奴もこ奴で業が深いな。
だが、寛大な俺はそれすらも受け入れようではないか。
そんな風に俺とチビが横で会話を交わしている時である。
「僕を無視してんじゃねぇ!ガキィ!!」
「んッ!」
突然の背後からの衝撃とチビの悲鳴はほぼ同時だった。
バチバチバチッ!とガレージ内に強烈な感電音と光が炸裂する。
「けひひひ!どうだ!手から直接高圧電流を流す僕の
「んんッ!(上終ロア!)」
一瞬何が起きたのか理解できなかったが、男の説明を聞く限り、高圧電流を受けたらしい。
体からぷすぷすと焦げるような匂いと共に白い煙が上がっているところを見ると本当なのだろう。
ただ――
「……ふむ、なんだこれは?まさかこれが電気マッサージというやつか?気持ちよくて、思わず感じ入ってしまったぞ」
「はっ?」
肩のコリが解れて、かなりすっきりした。
こ奴、もしかしてマッサージ師か?
こんな素晴らしい腕を持っているのだから、きっと有名に違いない。
ピンピンしている俺を見て、男は心底吃驚したような声を上げた。
「なッ!?なんで意識がある!?なんで死んでない!?百万ボルトだぞ!?人間が、それもお前のようなガキが耐えられるはずないだろ!?」
「バカか、貴様は?そんなちんけな電気が体に流れた程度で俺が死ぬはずないだろ」
どこをどう見たら俺が百万ボルトの電気程度で死ぬような貧弱な人間に見えるんだか。
「ち、ちんけ!?百万ボルトがちんけ!?只人なら一発で感電死する威力だぞ!?お、お前一体なんだよ!?」
「見て分からないのか?普通の小学生だ」
「お前みたいな普通の小学生が居て堪るかッ!!」
はぁ、ダメだな、この男。
絶望的に見る目がない。
まぁ、所詮は犯罪者。
そもそもの話、人が会話しているところに割って入ってくる時点で常識がない奴なのだ。
かまってちゃんなのか、はたまた我慢ができない性格なのか、どちらにしろ幼児のような男である。
きっとあそこのサイズも幼児級であり、加えて早漏なのだろう。
そう考えると、人生に絶望して犯罪に走るのも分かる気がするな。
しかし、俺の目に留まった時点で許す気はないが。
「さて、少し話してて時間を食ったが、そろそろ帰宅のチャイムが流れる時間だ。俺やそこのチビは帰らないといけないから、さっさと出て行かせてもらうぞ」
「な、何を言ってる!?そんなこと許す訳ないだろ!?」
「貴様こそ何を言っている?誰が許可など求めた?」
俺はそう言うと、
「邪魔だ、下郎」
目にも止まらぬ速さで男の懐に潜り、その腹に蹴りをお見舞いした。
「ぐほッ!?!?」
全く反応ができなかった男は地面と平行を保ちながら、尋常ではないスピードで後方に吹き飛ぶ。
そして、そのまま壁にめり込むほどの衝突をしたと同時に男は肺の空気をすべて吐き出し――糸が切れたようにずるずると床に滑り落ちた。
「……勝手に出て行かせてもらうに決まってるだろ、阿呆が」
聞こえていないだろうが、最後に白目を向けて気絶した男に言葉を送って、俺は倒れ込むチビの元へ戻る。
戻って早々にチビの腕や足や口を縛る縄やタオルをすべて取り去った。
すると、チビは俺の顔を凝視しながら、言葉を投げかけてくる。
「上終ロア……君は一体何者なんだ?」
「何言ってんだ、チビ。俺は俺だろ」
「ボクはチビじゃない!……ってそういうことじゃなくて!異能者を身体能力だけで倒すなんて……もしかして君も……ッ!?」
チビは俺に対し何かを問いかけようとした――その時!
ズンッ!
強烈な揺れがこのガレージを、いや、周囲一帯を襲った。
俺にとってはこの程度の振動など苦にもならないが、天霧には耐えられないようで、壁を支えにしてどうにか立っているのがやっとという状態になっている。
数秒ほど地震が続いた後、次に訪れたのは何かを引き裂くような音。
まるで黒板を爪で引掻いたかのような不快な音響に俺は眉を顰め、チビはしゃがんで耳を塞ぐ。
しばらくして全てが終わった後、少ししてから回復したチビはすぐに何かに気が付いた様子で顔を真っ青にして立ち上がり、何も言わず外に向かって飛び出した。
そのいきなりの行動に驚きつつも、俺もすぐに後を追う。
一難去って、また一難。
外に出て最初に見えたのは、俺の身の丈の約二倍以上はあろうかという一体の生物であった。
顔は口以外のパーツがなくほぼ能面のようであり、腕と足がそれぞれ人間のように二本ずつ、背中には鳥の羽のような翼が一対、また尻からは巨大な尾と、まるでおとぎ話の中から飛び出してきたいかにもな化け物が存在していた。
どことなく前世にいた魔物に雰囲気が似ていなくもないが、あまりにもシルエットが違い過ぎる。
あんな姿をした魔物は前世でも見たことがない。
空中に浮遊するように立つその化け物を見て、チビは茫然と呟いた。
「う、嘘でしょ……なんでこいつが……」
その日、俺は初めてこの世界に蔓延る現実を目の当たりにした。
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