第七章:動き出す予兆

その132 ハイラル王国


 <明曜の日>




 「大魔王の復活って……大丈夫なんですか? 賢聖のエリィさんがいるとは言え」


 「ああ、その辺はまったく心配していないわよ? エリィよりもレオス一人で何とかなるし」


 「レオスさんって強いんですか? のほほんとした顔をしてたし、商人さんですよね」


 「それを言ってあげたらレオス、喜ぶわよ。で、クロウへの回答だけどレオスは強いわ。私なんかじゃとてもじゃないけど勝てる見込みはないわね」


 「う、嘘だ……僕と同じくらいの歳なのに、拳聖にそこまで言わせるのか……!?」



 ――レオス達と別れてから半日、あたし達は城下町を目指し、徒歩で街道を歩いていた。まったくの逆方向というわけではないけど、黄泉の丘が東なら、城下町は西にあるのだから仕方がない。


 それはさておき、極秘だというギルドで預かった書状。


 クロウ達が聞いていたように、聖職であるあたし達を使おうという魂胆があることを考えるとロクでもないことに巻き込まれるのは間違いないと思う。

 一応、届けました、はいさようなら、と、立ち去る予定だけど、上手くいかないであろうことも承知している。問題は『あたし達になにをさせようとしているか』の一点である。


 「そういえば、彼らは聖職を欲していたみたいですけど、エリィさんはいなくて大丈夫ですか?」


 「……エリィと別れてあたし一人だったらどう出るかを見極めるためでもあるから心配ないわ。なんせ二人一緒にハイラルのギルドへ行ってくれとは言われてないもの」


 「はー、そんなことまで考えているんですねぇ」


 アニスがポカンと口を開けてあたしにそんなことを言う。懸念点としてはこの二人も完全に信用しているわけではないんだけどね。まあ、アニスは可愛いので、ちょっとくらいならあたし達を騙していてもお姉さん許してしまいそうだ。


 そんな感じでのんびりと歩きながら他愛ない話をしていると、やがて遠くに城下町の壁が見えてきた。そこでクロウが周囲を目だけで見て呟く。


 「刺客も無かったか。本当に極秘の書状なんですかね?」

 

 「ま、そもそもあたし達を城下町へ誘い込むだけのもので、白紙かもしれないわよ? それじゃ、罠か否か、確かめに行きましょう」



 あたしは不敵に笑いながらそう言い、町の入口まで真っすぐ向かう。すると門番が目を丸くしてあたし達に声をかけてきた。


 「珍しいな、町へ入るのかい?」


 「珍しい、ってどういうこと? スヴェン公国からここまであまり長いせず来たんだけど?」


 国から人が出て行っている状況を知らないわけではないけど、ここは事情を知っていそうな人に話させるのが良さそうね。


 「ああ、この国の人間じゃないなら知らないのも無理はないか……この国はゴタゴタしていてな。……ついひと月ほど前に……国王様が倒れられたんだ」


 「ええ!?」


 アニスは驚いて飛び上がったけど、これくらい嫌な予感はあった。正直、やっぱりかって話ね。

 となれば国から人が出て行くという発端はこれで間違いないとして『国王に持っていって欲しい』という書状をあたしに渡した意図が気になるわね。


 「後継ぎは? それと王妃もいるでしょう、ゴタゴタになりにくいと思うんだけど」


 「確かにその通りなんだが、まだ王子は年若い。国を継ぐには早すぎるんだ。今は国王の従弟であるキラール様が城の内部を指揮している」


 「なるほど。その従弟が国民や領民にとって最悪な手腕を施しているってところかしら? ひと月で逃げ出すなんてどんな恐怖政治かしら?」


 「ば、馬鹿、そういうことを言うな!? 牢にぶち込まれるぞ! それにあんた、美人だからなにされるかわかったもんじゃない」


 「ありがと。だいたい話はわかったわ。これで通してもらえる? クライルの町で依頼を頼まれたのよ」


 あたしがギルドカードを渡すと、門番はさらに目を大きく開けて言葉に詰まっていた。


 「聖職……!? しょ、承知した。通っていいぞ。お前達も冒険者か……Cランクなら、まあ……」


 「? それ、国境でも言われたんだけど、どういう意味?」


 「お、俺、今何か言ったか?」


 「ううん、大丈夫よおじさん! いこ、クロウ」


 「……うん」


 尋ねても答えは返ってこないでしょうね。町、いえ、国そのものがスヴェン公国並みに不穏な空気を醸し出している気がする。ギルドの場所を聞いて、城下町へと足を運ぶあたし達。


 スヴェン公国と似たような趣ではあるけど、公園のような自然が少なく、レンガや石造りの家屋やお店が目立つ。

 周囲の状況を把握しながら歩いていると、クロウが声をかけてきた。 


 「ルビア様、レオス達を待った方がいいのでは?」


 「『様』、だなんて言わなくていいわよ。ルビアさんか、お姉さんとでも呼んで?」


 「わーい! お姉ちゃんだ!」


 「ふふ、アニスは素直でいいわね!」


 あたしと手を繋いで前を歩き始めると、クロウが慌てて付いてくる。そこであたしは真顔になって、二人へ告げる。


 「でも、二人ともここまででいいわよ。元々関係ないんだし、ギルドへは一人で行くから」


 「そんな……! 僕達も行きますよ。それにルビア様……さん、は言っていたじゃありませんか、経験不足だって。足手まといにはなりません、どうかお供を……!」


 「わたしからもお願い、お姉ちゃん! 補助魔法と弱いけど回復魔法が使えるから、役に立つよ?」


 うーん、一人の方がやりやすいけど……勝手についてこられても困るか……


 「わかったわ。でも無茶はダメよ?」


 「はーい!」


 「わかりました!」


 いざとなればあたしが何とかするか、メディナを呼び寄せればいいかと、ポケットのメモ帳を触る。


 そして、依頼を達成するため、ハイラル王国城下町のギルドへと到着するのだった。


 さて、何が出てくるかしらね……? 

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