その131 折り返し

 


 大魔王エスカラーチが消え、しばらくベルゼラが落ち着くのを待っていた僕達。


 復活に鞭打って教えてくれ、色々とわかったことがあるけど、謎も多く残ってしまったというのが正直なところだ。

 アスル公国が滅びた原因とベルゼラは本当に王女であること。大魔王はバス子達悪魔と同じく転移者であったことなどだ。

 

 ――そして一番の謎はバス子達がこの世界に来た原因に大魔王の件。さらにいずれの事象について「旅の男」が関わっている可能性が高いという。その男の足跡を追えば目的などもわかるかもしれないけど……


 「今更って感じがするなあ……」


 僕がそう呟くと、隣に座っていたエリィが同意してくれた。


 「そうね。私達にできることは、大魔王がことを起こした経緯を各国へ伝えることくらいかな。賢聖の私なら聞く耳を持ってくれると思うし、ルビアと合流したらギルド経由で謁見許可を貰いましょうか」


 「まずはハイラル王国からだね。ラーヴァに帰ればそっちも当たるか……ついでに男の行方も探してもらおう。もう五十年も前だから生きているかは微妙だけど、大魔王の遺言だしね」


 すると、横でバス子が呟く。


 「ついで、じゃあ困ります」


 「え?」


 「わたし達の悲願は元の世界へ戻ることです。男が知っているならすぐに探すべきでしょう?」


 「いや、でも……」


 「その男が人間だと決まっているわけではないでしょう。もしかしたら魔族かもしれません。だったら生きている可能性で捜査するのが解決の基本」


 刑事ドラマみたいなノリを熱弁するバス子。言いたいことは尤もだけど、


 「だからギルド経由で探してもらう案をエリィが出したじゃないか。ルビアと合流してからでも遅くはないでしょ?」


 「むう……」


 珍しくぷくっと頬を膨らませて大人しくなるバス子。この世界の人間でなく、手がかりが見つかったので気持ちはわからなくもないけどね。


 「バス。落ち着く。レオスとエリィの言う通り」


 「メディナ。もういいのかい?」

 

 「うん。この中は落ち着く。それとこの血まみれの灰を使ってもいい?」


 メディナは幾分良くなったのか、自分で歩けるくらいには回復したようだ。後は地面に落ちていた聖杯を拾い、僕にそんなことを聞いてくる。


 「別にいいと思うけど、どうするの?」


 「多分、これを使えば力が回復すると思う。レオスの血に大魔王の灰はかなり力があるはず」


 相変わらず、真面目な話の時は長話になるし、それらしいことを発言するメディナ。大魔王の話で六魔王の存在がアスル公国の主要メンバーだったのも驚きだったね。


 「へえ、それで戻るなら願ったりじゃないか。ネックレスはベルゼラに返してあげてよ? 形見なんだし」


 「わかってる」


 そう言って髪留め外し、灰の中へ埋めていく。


 「……そういえばメディナは冥王になる前、人間だったみたいだね」


 「そうみたい。ずっと人間だと思っていた」


 「覚えていないの?」


 エリィが聞くと、こくりと頷いて続ける。


 「あの馬鹿兄のことは思い出したけど、元々『どうだった』かははっきり覚えていない。21歳のぴちぴちのまま冥王になったくらい。大魔王様の言葉でベルは少しだけ思い出した。産まれて来た時、私は泣いていたかもしれない」


 馬鹿兄とはガイストのことらしく、二つあった魔法兵団のもう一つの団長をしていたらしい。冥王候補だったけど、性格に難ありということで大魔王はメディナを選んだみたいである。

 

 「よくわからないけど、ベルゼラを助けたのはメディナのおかげってのはわかったよ。凄かったんだね」


 「おそらくだけど、当時の賢聖だったのかもしれないわね。淡々と喋るのは変わってないの?」


 「覚えていない」


 ふるふると首を振りながら灰の中に手を突っ込み、ニタリと笑いながらこねくり回すメディナはどう見ても賢聖の器ではない。


 「ま、まあ、今が大事だから過去のことはおいとこうか」


 ドクン――


 ……? 一瞬、胸に違和感を感じ、手を当てていると荷台に戻っていたベルゼラがストーンサークルへ入ってくる。


 「ごめん、もう大丈夫よ」


 「ベル」


 エリィが立ち上がって駆け寄り、声をかける。泣きあとが痛々しいけど、顔は笑顔だった。しかし、アスル公国の姫だったことが発覚した今、ベルゼラはどうするのだろう……


 「お父様と最期に会えてよかったわ。ありがとうレオスさん」


 「会った当初の僕にはそのつもりが無かったけど、結果的に良かったね」


 「ええ。それで、私決めたわ」


 「何を?」


 決意のまなざしで僕を見てくるベルゼラの目を見返して尋ねると、ベルゼラは僕の手を取って言う。


 「私、アスル公国を再建するわ! やっぱり最初の予定通り、レオスさんを王にして私と結婚よ!」


 「ええ!? そういえばそんなことを言ってたっけ……。でも、僕にはエリィがいるから!」


 「あら、記憶が戻った途端に彼氏だって認めてくれるの? 『エリィ』が散々言っていた時には離そうとしていたのにね?」


 エリィが頬を膨らませて手厳しいことを言う。けど、すぐにプッと噴き出しながら、


 「なんて、ね。レオスは商人を目指してるけど、いいんじゃない? 国王様になるのも。ほら、それこそ何人妻を取ってもいい法律でも作れば? 私達はかなり待ったからね、誰か一人なんてのはダメかなあ?」


 楽し気にそんなことを言いだした。エリーって確かにこういうことを言う子だったけど、私達って――


 「いい案。さすがは賢聖」


 「うわ!? 手を洗ってきてよ!?」


 ふと、何かを思い出しかけた矢先、ぬかで手をべたべたにしたみたいなメディナが僕の腕を掴もうとして慌てて離れる。ベルゼラは満足したように頷き、馬車を指さして叫んだ。


 「というわけで決まり! 商人に満足したら再建よ! レオスさんのお父様とお母様にも言わないとね! それじゃ、ルビアさんの元へ戻りましょう!」


 「メディナはもう大丈夫?」


 「この聖杯は持っていくから平気。二、三日すれば完全体になるはず」


 「そっか。バス子もいいよね?」


 「はい……」


 珍しく口数の少ないバス子に違和感を覚えつつ、僕達はストーンサークル。黄泉の丘を後にすることにした。途中、花を摘み、トゥーンの村でアイム達のお墓をアースクリエイトで建ててから冥福を祈る。陽も暮れてきたので、そのまま村で休むことにした。



 ◆ ◇ ◆



 「……さて、行きますか」


 「バス」


 クリエイトアースで建てられた家からバス子が抜け出し、月の夜へ舞い上がろうとしたその時、メディナから声をかけられてギクリと身をこわばらせた。


 「なんだあんたですか。止めないでくださいよ? 大魔王様の情報はわたしにとってかなり有益でした。元の世界に帰れる可能性をほおっておくわけにはいきません」


 「あそこへいくのか」


 「ええ、あんたが連れてきていたサブナックさん達がいる仲間の元へ。少なくともアガレス様には伝えて、悪魔達総員で探す必要はあるでしょう? それに『黄泉の丘』では一時的にしか復活できないことがわかりましたから、バアル様の件も考えないといけないんですよねえ。……あんたもそんな体にされた一旦は件の男のせいですよ。懲らしめてやりたいと思わないんですかい?」


 「いい。あまり覚えていないし、おかげでお前達に会えたから」


 「へえへえ、お優しいことですね! ……ま、そういうことなんで止めないでくださいよ」


 「止めない。バスにはこれを」


 メディナはそう言ってウサギ型のメモ帳を渡す。


 「これは……転移するやつですか?」


 「そう。こっちは拠点の私の部屋に通じている。破れば一瞬で戻れる。こっちは私のポケットに入っているから破ればここに戻ってこれる」


 「……!?」


 「本当は離れたくない。違う?」


 「え、えっへっへ……ま、まあ、そこまで言うなら貰ってあげますよ! ……すぐ、戻りますから」


 「待ってる」


 「決着をつけに戻るだけですからね! 首を洗って待っていてくださいよ! あ、お嬢様のお世話がかかりでもありますしね!」


 こくりと首だけ頷いて返事をすると、顔を赤くしたバス子がメモ帳を破る。


 「ったく、おせっかいなやつですよ――」


 ぶつぶつ言いながらバス子の姿はスッと消えていった。




 ――旅の目的は実家へ帰ること。その目的が達せされるのはまだ先の話で、さらなる困難がレオス達を襲うのだった。


 旅の男。


 それが判明した時、レオス達は――となる。





 そして、別行動をしているルビアはというと――

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