その95 こっちとあっち

 外堀を埋めていくスタイル。


 チェイシャの勘違いはルビアが飲み込んでくれたおかげで大事にならず、むしろ何故か喜んでいるエリィ。それはさておきと、僕はチェイシャに質問を投げかけることにした。


 「それで精霊のチェイシャだったら知っているかもと思って聞くんだけど、僕達は大魔王の復活をしようと思っているんだ。ベルゼラの話だとこの世界には儀式で復活をさせることができるらしいね? 方法とかもし知っていたら教えてもらえないかな」


 <大魔王を復活、か。そのメリットがあるとは思えんが……>


 「この子、ベルゼラは大魔王の娘なんだ。それに大魔王自身のことも本人の口から聞きたいんだ、どうして魔族を使って世界を混乱に陥れたのとかさ」


 <魔王の娘……>


 「は、はい。ベルゼラと言います!」


 <お主、母親のことは知っておるか?>


 「え? いえ、お父様から私を産んでからすぐ亡くなったと聞いているわ」


 <なるほど。あい分かった、そういう事情なら教えてやろう>


 目を細めてからベルゼラの顔を見た後、僕に言う。やっぱりこういう時はこういう人が知っているよね。でも、ベルゼラの顔を見る顔がちょっと気になる。


 <お主たちはラーヴァ国へ行くのじゃろう? なら、このまま山を越えてハイラル王国に入り、『黄泉の丘』と呼ばれる場所を目指すんじゃ>


 「そこで儀式を行えば復活すると?」


 <確実ではないと思うがな。その場所は霊的なモノを集めやすいところらしくてな、風のやつがそんなことを語っていたのを思い出したのじゃ>


 風のやつっていうのは風の精霊かな?


 それはともかく、実家へ戻る途中にあるなら僥倖だ。


 「早速出発しようか? ハイラル王国まではまだまだあるしね」


 「でも山越えはどうするんです? この雨だと進めませんよ」


 バス子が肩を竦め、それもそうかと頭を抱える。


 <確かに降りすぎではあるのう。特に悪意を感じぬので、本当に降りすぎているだけのようじゃがな。そうじゃ、お主空を飛べるのではなかったか?>


 「うん、僕は飛べるよ。ベルゼラとバス子も飛べるよね」


 「ええ」


 「まあ、一応この羽は飾りではありませんよ。偉い人には分からないみたいですけど」


 「でもそれが何か?」


 <なあに話は簡単じゃ。ちょっと雲を蹴散らして来ればよかろうと思ってな?>


 なるほど、風の魔法とかで吹き飛ばせばいいってことか。それは確かにできなくはないので、その案を使うことに決める。


 「ベルゼラは火しか使えないんだっけ?」


 「一応中級は使えるわ」


 「バス子は?」


 「いやあ、えっへっへ!」


 手をひらひらさせて愛想笑いをするバス子に肩を竦めて、


 「使えないんだね……」


 と、戦力外通告をする。


 「それじゃ僕とベルゼラで雲を吹き飛ばす方向で! で、明後日まで待てばセブン・デイズの風技も使えるから明日はゆっくり休もうか」


 「いいですね。私もお手伝いしたいんですけど……」


 「レビテーションが使えればねえ……エリィは使えそうだけどね賢聖だし」


 「それじゃあ明日教えてください! うふふ」


 前世の世界で使っていた魔法だから微妙なところだけど、どうせ暇だし試すのはいいかもしれない。話が決まったところでチェイシャがあくびをして喋り出す。


 <ではそろそろ眠りにつくぞ>


 「そういえばこの後はもう起きてこないの? ちょっと寂しいわね」


 <絶対に起きんわけではないがな。他の精霊が近くに居れば感覚で目が覚めることもあろう>


 「オッケー。あなたの力使わせてもらうわね」


 <うむ。それではな>


 シュルルルル……


 チェイシャはそれだけ言うと、炎に姿を変え、指輪の中に吸い込まれるように消え去った。


 「じゃ、戻ろうか」


 「結局この村の滞在期間が長くなりそうですねえ。村長さんまたご馳走してくれないですかね」


 温泉は悪くないのか、女性陣(バス子除く)はそれほど気にしていないのが助かる。そろそろ冥王あたりがちょっかいを出してきそうだったんだけど、この調子なら大魔王復活まで一気に行けそうかな? 大魔王が復活したら冥王もなんとかできるだろうし。


 僕達はササっと下山することにした――




 ◆ ◇ ◆



 一方そのころ



 「うう、さみぃ……おい冥王! いつになったら来るんだよお前のターゲットはよぅ!」


 「サブナックの言う通りです。アガレス殿に言われて着いてきたものの、全然ターゲットが来ないじゃないですかあ」


 大剣を携えた大男が体の水滴を払いながらお店の軒下で体を震わせ、隣に立つ金髪ショートカットで少々たれ目の女性が両手を上げて抗議する。


 「もうすぐ来る。森で探すより、必ず立ち寄るここで待った方が確実に仕留められる」


 と、黒髪ショートの女の子が町の入口をじっと見ながら口を開く。服装は真っ黒なワンピースに、髑髏のヘアピンをつけ、目にはハイライトが無い……冥王だった。


 「いやはや……面倒なことになったねえ……」


 茶髪の男が頬を掻きながら呟く。


 冥王と行動するのはアガレスの指名があった、サブナック、ヴィネ、オリアスの三人で、つい三日ほど前からこの町でソレイユ……レオス達が来るのを待ち構えているのだった。


 「文句を言う、良くない。私がリーダーだから従うべき」


 「それはいいんだけど、僕達は君と違って眠くもなるしお腹も減る。寒かったら体調も悪くするんだよ? せめて喫茶店の中とかさあ……可愛い女の子もいるし」


 すると冥王は町の入口から目を離さないまま少し考えた後で口を開く。


 「分かった。でも私が呼んだらすぐ集まる。いいか?」


 「! おお、おお! もちろんだ! なあヴィネ!」


 「そうそう! 絶対来るから!」


 「ならこれを持て」


 そういってポケットからウサギの顔をしたかわいらしいメモ紙を取り出し二人に渡す。


 「これは?」


 「転移するための紙。それがあれば私が召喚できる」


 「へえ、この世界にも便利なものがあるのね。これは持っていればいいの?」


 冥王は無言で頷く。


 「おっけーおっけー! いくぞヴィネ! あっちに美味そうな飯屋があった!」


 「マジ! 行く行くぅ! サブナックはどうするの?」


 「……俺はもう少しいる」


 「そう? それじゃあね!」


 オリアスとヴィネはやれ急げとばかりにその場を後にする。サブナックは頭を掻きながら見送り、冥王へ向き直る。


 「なあ、本当に来――」


 「お嬢ちゃん可愛いねえ、ちょっとあっちのカフェでお茶しない?」


 「うるさい殺すぞ」


 「ええ!?」


 「あー、待て待て。すまんなおっさん。こいつは俺の連れだ、あっちへいってくんな」


 「で、でけぇ……わ、分かったよ……」


 男はサブナックを見てすごすごと立ち去り、すぐ町の入口に目を移した冥王に声をかける。


 「はあ……出会ったら分かるんだろうな?」


 「間違いなく分かる。それに聖職も二人いるからサブナックも退屈はしない」


 「へえ……初耳じゃねぇかそれ。そりゃ楽しそうだ、俺も待たせてもらうかね。でもこんなところに突っ立ていたら怪しまれる。町の入口が見える店を探そうぜ」


 「分かった。人を殺すのはアガレスに止められているから提案にのる」


 さっきみたいなのが来てもうっとおしいと、冥王はスタスタと歩き出した。

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