第四章:オークション

その44 森の出来事



 <風曜日>




 どこを見ても木。


 それはそうだろう、ここはふかいふかーい森の中。僕達は何のトラブルもなく森の中へと入ることができた。

 

 草原は魔物が身を隠す場所が少ないからか、昆虫系の魔物以外と戦うことは少ないので早かったけど、森の中は格段に魔物が増えるので注意が必要だ。


 おや、早速出たかな?


 ゴブ……


 ゴブゴブ……


 ゴブゴブゴブ……


 目の前にはゴブリンが三体。剣とダガー、それに錆びた剣を持っている。三匹目は喋りづらくないかなそれ……。するとルビアがナックルをガチンと合わせながら前に出る。


 「珍しくもないゴブリンね。ちゃっちゃとあたしがやるわ」


 「あ、待って。今後の参考にベルゼラとバス子に退治してもらおうよ。別に強敵と戦うわけじゃないけど、どれくらい戦えるか知っておいた方がいいかと思って」


 「レオス君の故郷、ラーヴァ国の魔物って強いですしね」


 「そうなんだよね……山越えもあるし」


 エリィの言葉を肯定すると、ベルゼラがほほ笑んでから頷く。


 「わかりました。私も大魔王の娘、お役に立てることをお見せしましょう!」


 「あ、自分の身を守れるくらいあればいいんだけど……」


 「ふふふ、ついにこの私の実力を見せる時が来ましたね! 行きましょうお嬢様、わたし達のアルカディアへ!」


 「あ、バス子」


 どこから取り出したのか、三つ又の槍を取り出し、嬉々として突っ込んでいく。お前の理想郷は一体どこなんだとツッコミたくなるが、槍を器用に扱い、ゴブリンを翻弄。空も飛べるので多角的な攻めができていて、相当手加減しているのが見て取れる。


 そこへベルゼラが魔法を放つ。


 「ゴブリンくらいこれで! 《ウォータバレット》!」


 「あ、中級の水魔法ですね!」


 「うん。結構楽に出しているから多分上級まで使えるんじゃないかな? 頼もしいね」


 「ま、大魔王の娘だしねえ」


 見守っている僕達の前で、ゴブリンの胴体が吹き飛ぶ。おー、と僕らが歓声を上げていると……


 「と、隣のやつを狙ったのに。ええい《フレイム》!」


 「え?」


 僕達の困惑に第二射を放つ!


 「いやああ!? 熱いぃぃぃ!?」


 「ああ、バス子が!?」


 バス子が一体のゴブリンを串刺しにした直後、その背中に直撃したのだ。


 「大変!? 《キュアヒーリング》」


 ゴブゴブ!


 ゴブリンが回復しているエリィとバス子へ斬りかかっていく。ベルゼラはゴブリンの前に立ちふさがり魔法を使う。


 「《ウォータバレット》!」


 ドズン!


 ゴブ!?


 見事、ゴブリンの頭を吹き飛ばし三体とも倒した。すると回復したバス子が頭をかきながら口を開く。


 「お嬢様の魔法、強力なんですけど狙ったところにいかないという欠点があるんですよ。でも、ある程度の距離ならきちんと入るから近接魔法みたいな感じですねえ」


 「うう……」


 大きく落ち込むベルゼラに声をかける。


 「ま、まあ、そういうこともあるよ。威力は高いからいいんじゃないかな」


 「でも、今のバス子みたいに後ろから当てられるのは厳しいわね……エリィと一緒に練習した方がいいと思うわよ?」


 「そうですね。ベル、頑張って克服しましょう!」


 「ごめんなさい、お願いします……」


 ふう、とりあえずベルゼラのことはこれで良さそうだ。次にバス子へと目を向ける。


 「バス子は問題ないね。圧倒的だったし、もっと強い相手でも大丈夫なんじゃない?」


 「えっへっへ、そうでしょうそうでしょう。サキュバスはエロ担当。そう思っていた時期がわたしにもありました。だけど、時代は多様性……そこで訓練を重ねたんです!」


 へえ、考えているんだなあ。そう思っていると、ルビアが意地悪な顔をしてバス子の肩を叩く。


 「……その体じゃサキュバスの能力は活かせないからでしょ?」


 「がーん!? 姐さん、それは酷いですよ! くうう、この乳か! 乳が男を狂わせるのか! レオスさんもこれで誘惑するんでしょ!?」

 

 バス子が胸を揉みしだくと豊かな胸が揺れる。


 「あはははは! ちょ、くすぐったいって! レオスは弟みたいなものよ、ねえ?」


 「そうだね」


 「鼻血ー!?」


 「ちょっとレオス君どうしたんですか!? 《ヒール》! ああ、止まらない!?」


 「大丈夫だから」


 「凄い優しい目をしてますよレオスさん!?」

 

 エリィとベルが大騒ぎしている中、バス子が舌打ちをする。


 「チッ、やはりレオスさんも男ですね」


 謎のいら立ちを覚えていた。


 まあ、そんなこんなで時に休憩、時に魔物退治を挟みつつ、僕達は森を進んでいく。僕やエリィ、ルビアは旅をしている時にこの森に踏み入ったことは無いけど、結構大きな森らしい。場所にもよるけど、今から行く町方面へ抜けるまでに丸二日はかかる。


 となるともちろん野営になるのは必然だ。


 ほー……ほー……



 「月が出てきたね、そろそろ休もうか」


 「ふう……」


 「大丈夫ベル?」


 僕が提案すると、ベルが近くの石に腰掛けため息を吐き、心配そうにエリィが訪ねていた。


 「お嬢様は箱入りでしたからこういう旅はしたことないんですよ。わたしと二人なら飛んで移動するから体力はないんです」


 「バス子!」


 「いいじゃないですか。知っておいてもらった方が。えっへっへ」


 「それじゃ、ゆっくり休めた方がいいかな? 女の子ばかりだし、安全面も考慮してっと<クリエイトアース>」


 ぼこぼこぼこ……ずずずず……


 僕のイメージした形に土が動き、それなりの広さの家屋が出来上がった。窓とドアは無いけど。


 「うん、強度もいいね。あとは硬いけどベッドを四つを」


 ぽこんと簡素なベッドを作り僕は満足して振り返る。


 「みんなここで寝ていいよ。窓は布とかを使ってふさいでおくと――うわ!? ど、どうしたのさ」


 振り返ると、四人とも目を丸くして呆然と立ち尽くしていた。


 「いや、何これ? 今の、魔法?」


 「こんな魔法聞いたことありませんよ……」


 「あ!?」


 ルビアがかすれた声を出し、エリィが大きく首を振る。しまった、無意識に安全をと思って一人の時と同じノリで作ってしまった!?


 「あ、これは……ギルドの試験で魔法が使えるってなった時にやってみたらできたんだ……」


 我ながら苦しい!


 「そ、そうなんですね! オリジナル魔法だなんてレオス君、もしかしたら私より凄いかもしれません! さ、みなさん、折角作ってくれたんですからちょっと入りましょう!」


 「そ、そうですね……これを維持する魔力って……」


 「あー……大魔王様を倒したってのがちょっと納得できましたわ……」


 みんな気を使ってくれた。


 「じゃ、じゃあ、僕は枯れ木を拾ってくるからゆっくりね!」



 ◆ ◇ ◆



 「……行ったわね」


 「はい……レオス君、凄いですね。私達の魔法も元々は創った人がいてそれを伝承されていますから、魔法を創ること自体はできないことはないんですけど、ここまではっきりと具現できる人はお師匠様でも無理ですよ……」


 「うーん……あの子本当にどうしちゃったのかしら。大魔王を倒した後からよね、おかしくなったのって」


 「そうですね。お城で国王様とのやりとりも堂々としていましたし」


 そこへベルゼラが手を挙げて声を出す。


 「私はあのレオスさんしか知らないんですけど、そんなに違うんですか? お父様を倒した時は容赦なく灰にしてましたけど」


 「そもそもレオスが魔法を使うこと自体知らないわよ……」


 「まあまあ、いいじゃないですか。レオスさんはレオスさんですよ! えっへっへ……皆さんが要らないならわたしがレオスさんを貰っちゃいましょうかね」


 「な!? あ、あなたそんな素振り全然なかったじゃない!」


 「半信半疑でしたが、大魔王様を倒す強さにこのオリジナル魔法にお昼ご飯で食べた料理の腕……これだけで結婚すれば将来は安泰でしょ? 商人としてはどうか分かりませんが、この魔法がお金になる提案をすれば遊んで暮らせる……!」


 バス子の目はお金のマークに変わっていた。


 「それはいけません! レオス君はお金の道具ではありませんよ! 断固阻止します!」


 「えっへっへ、決めるのはレオスさんですからね!」


 「……三つ下か……」


 「ルビアさん!? あなたさっき弟みたいなもんだって言ってたじゃありませんか!?」


 「へ!? あ、ああ、何でもないのよ!?」


 「ルビアまで……これは油断できません……」



 レオスが夕飯の声をかけるまで女性陣はぎゃーぎゃーと騒いでいた。



 ◆ ◇ ◆



 パチパチパチ……


 「たきぎを拾いにいって、ロックバードを倒せるとは思わなかったなあ。鶏肉に似ているから照り焼きが美味しいんだよね」


 四人は夕飯時になにやらギスギスしていたけど何かあったのだろうか。エリィとルビアが話さないのは珍しいなと思った。

 僕はロックバードの胸肉と、取りおいていたトルミノスボアのバラ肉をいつでも食べられるように焼いて保存し眠りにつく。何かあった時のため、僕は焚火のそばで長椅子を作って寝転がった。




 そして深夜――




 「美味しい!」


 「にいちゃ、これ美味しいねえ」


 おっと、寝ちゃってた……。ん? 子供声……?


 「これも美味しい。にいちゃ、あーん」


 「あーん。ボア肉だ!」


 まさか……!?


 「こら、誰だ!」


 「「!?」」


 毛布をがばっと取り払って声のする方へ顔を向けると、


 「が、がおー!」


 「がおー!」


 「じゅ、獣人……?」


 灰色の犬耳をした子供が二人、僕が焚火であぶっていた肉を口の周りをべたべたにして咥えていた。

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