その43 次の目的地へ!
――ということで僕は世界でもトップクラスの聖職二人と大魔王の娘とよくわからないサキュバスという謎の組み合わせと旅をすることになった。
色々ツッコミどころは多いけど、実家に帰ればみんな納得して解散してくれるであろうという打算もあるからだ。特に大魔王の娘であるベルゼラが商人をやるとは思えないし、ルビアはエリィについてくるだけ。バス子も気づけばいなかったとかになりそうな子だしね。
エリィは……うん、今は考えないでおこう。問題を先送りにしておいてもいいことは無いと分かっているけど、今できることは無いかな。
それにしても――
「やれやれ、商人らしいことをしないで女の子と旅になるなんて世の中分からないよね。どうも悪神の部分ばっかりピックアップされてて商人要素がないなんてタイトル詐――」
僕がそんなことを呟いていると先に準備を済ませていたエリィが部屋に入ってきて声をかけてきた。
「準備できましたか?」
「うん。寝泊りだけだったから大丈夫だよ。それじゃチェックアウトしようか」
下に降りるとベルゼラ達が待っていた。鍵を渡す際、女性従業員が僕をケダモノを見るような眼で見ていたのが気になった。
「……はい、確かにお預かりしました。追加で四人分もこちらの方からいただいています」
「え? ルビア払ったの?」
「ええ、一部屋しか借りなかったから私達は半額以下で済んだしね。おかげでゆっくり寝られたし」
「ゆっくり寝られた……生気が戻っている……やはり絶……ありがとうございました」
「?」
何だかぶつぶつ呟いている従業員さんが気のない挨拶を背中に受けながら宿を後にする。外に出ると、すぐにベルゼラが頭を下げた。
「すみませんルビアさん、この借りは必ず返しますから」
「あー、良いわよ別に。レオスが実家に帰ったら請求するし」
「え!?」
「それより魔族にお礼を言われるのもむず痒いわね。ベルは話が通じるし、仲良くやっていけそうな雰囲気がある……大魔王は一体なにをしたかったのかしら?」
「とにかく地上を征服するんだと息巻いていましたけど、理由までは聞いていないんです」
「まあ、大魔王様にも色々あるんでしょう。さ、オークションの町へ行きましょう!」
「……ちょっと待って。その風呂敷とほっかむりは何さ?」
レッツゴーと歩き出そうとしたバス子の首を掴んで止める。明らかに怪しいほっかむりに風呂敷を背負った盗人スタイルだ。
「中を見せてもらうよ」
「あ、あ、エッチ!」
慌てるバス子を抑えて風呂敷を広げると、中には宿に備え付けてあったタオルやコップなどの雑貨が入っていた。
「セコい!? いや、そういう人が実在するとは聞いていたけど、実際に目の当たりにするととてもセコいよ!?」
「えっへっへ……お金になるかなあと……」
「それを売ったお金で返してもらっても嬉しくないんだけど……返してきなさい」
「ええ!? 文字通りリスクを背負ってきたのにそれはないですよ姐さん!」
「誰が姐さんか! いいから行く! 聖職が泥棒を連れているなんて知れたら笑いものよ!」
「ちぇー……」
ほっかむりを外してしぶしぶ歩き出すバス子。どうでもいいけどほっかむりが似合うなあ……後、突っ込んでくださいと言わんばかりの恰好はやはりネタだったのか。考えても分からないけど。
「駆け足!」
「はいいい!」
「重ね重ねすみません……」
「あ、ベルさんは悪くないですから」
エリィがベルゼラを慰め、程なくして帰ってきたバス子を連れて僕達は町の外へと向かいながら話をする。
「森を抜けるなら乗合い馬車は使えないね。徒歩だけど大丈夫?」
「私達は一緒に旅をしていましたから大丈夫ですよ。ね、ルビア」
「そうねー。ちょっと体がなまらないように魔物と戦っておきたいかも」
エリィ達は問題なし。やはり問題は――
「だ、大丈夫です。つ、付いていきます!」
「わたしも空を飛べるので大丈夫かと」
「頑張ってくれるのはありがたいけど、無理はしないようにね。とりあえず魔物と出会ったら、二人の強さを見たいかな」
僕がそういうとベルゼラはこくこくと頷いた。
「戦闘ならお任せください。攻撃魔法から転移魔法までいろいろと使えます!」
「まあ、魔法は得意ですからね、お嬢様。魔法は」
「トゲがあるけど……バス子は何ができるの?」
「よくぞ聞いてくれました! 魅了に――」
「あ、門ですよ」
どや顔で説明をしようとしたのをエリィが遮り、バス子は前のめりに滑った。体張ってるなあ。
「それじゃ通ろうか」
「あ、私達は空から入ったので一緒には出られません。バス子外で待つわよ」
「いてて……はいはーい! それでは皆さん後程~♪」
外壁を伝って飛んでいく二人を見送り、僕たちは門をくぐる。門番さんへカードを見せて歩き出すと、不意にエリィが口を開いた。
「そういえば私、ベルさんの目的をよく知らないんですけど、どうしてレオス君についてくるんですか? 朝惚れたとかそういうことを言っていたような……バタバタしていたからスルーしましたけど、」
「え? ……あ!? そうか、エリィはずっと寝てたから聞いてないのか……そりゃよくわからない話になるよね」
「そういえば途中で目を覚ましかけたけどレオスが寝かせていたわね。えっと――」
ルビアが掻い摘んで説明をすると……
「けけけけ結婚!? ベルはそんなことを言ってたんですか!?」
エリィが目に見えて取り乱していた。
「ああ、言わなきゃよかったかな」
「でもずっと疑問を持ったままよりはいいと、お姉さん思うの」
「そうですか……ベルが……」
「大丈夫?」
「あ、はい! びっくりしましたけど、レオス君の良さが分かってくれる人なら旅は安心ですね!」
「お子様……」
「はい?」
「何でもないわ。いいわねえレオス君、モテモテで」
修羅場を期待していたのかがっかりするルビアが口を尖らせて僕に言う。アレンのことをいつかネタにしてやろうと心に決めた瞬間だった。
「皮肉にしか聞こえないよ……」
「早く行きましょう!」
なぜかにこにこ顔のエリィが先に走り、僕たちは町を後にした。あ、ちなみにこの町の名前は『チョイス』という名前でした。
「あ、来ましたよお嬢様」
「こっちですー」
「とお!」
「わぷ!? どうしましたか賢聖さん!?」
「そんな他人行儀な呼び方は止めてください。エリィでいいですよ! 頑張ってレオス君を故郷へ送りましょうね!」
「え、ええ……」
「急に距離感が近くなりましたねえ。えっへっへ、これは面白くなりそう……」
「えっと、こっちでいいんだっけ?」
「ナチュラルにスルー!? はいはい、こちらですよーご案内しますー」
やる気のなくなったバス子が道を外れて草原に足を踏み入れる。顔を上げると、遠くに深そうな森が目に入った。
「あれだね」
「そうです。あそこを抜けると近道なんですよ。ただ、森には魔物も多いのでご注意……する必要がありませんね。お父様を倒せる人ですし」
「それは違うわよベル」
「え? どういうことですかルビアさん」
「達人といえども油断をしていたら負け……下手をすると死ぬわ。大魔王だって私達を余裕で倒せると思った結果、死んでしまったわけでしょ? 『今回勝てたから次も大丈夫とは限らない』。師匠の言葉だけど」
ルビアが珍しく拳聖っぽいことを言い、ベルゼラがごくりと喉を鳴らす。
そう、誰だってそういうことはある。絶対なんてないのだ。
最強だと思っていた僕でも、倒されたのだから。
「気を付けるにこしたことはないよね。戦闘になったらエリィとベルゼラは僕たちの後ろで援護をお願い」
こくりと頷く二人。
「はいはーい! わたし! わたしは?」
「その辺で草でもむしってて」
「草だけに雑!?」
そんなこんなで僕たちは森へ足を踏み入れたのだった。
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