第4話
索敵の為に術式を走らせる。純粋な魔力を振動として俺を起点に40キロの範囲を索敵する。
魔力はほかの魔力と衝突すると変質する。それは高位の魔術師になればどの魔力にぶつかって変質したかすら認知できる。
「見つけた。行くぞ」
今はあたり一体を見渡せ地上より障害物の少ない冬実市庁舎の屋上に立っている。
頷くと一斉にエンリコとクリスは飛び降りる。俺はそれを追うように跳び、下へと風を向けて反動を殺す。
距離は凡そ28キロさほど遠くないし充分走れる距離だ。
『ベルナドッテ隊、ジャン隊長はそちらに向かわれました。二条殿宜しくお願いします。』
俺やライプニッツ卿を起点にパスを繋ぎ、魔力を介した通信網から連絡が入る。
それに、応答し身体能力を強化し走る。
接近して見えたのはある意味想定外の現実だった。まさか、狂信者とはいえ自分らの不利益になる堂々と一般人を襲うとは思わなかった。
「バックアップは任せる。レイジングブルを貸してくれ。」
エンリコが換えの弾の入ったポシェット事投げ渡してくる。それを片手で構え、彼女達の取り囲む沙織を助ける為に裏路地に割って入った。
†
事態は急変した。怯え、震えるしかなかった2人の少女を抑え込む2人のシスターの頭が爆ぜる。虚空を裂き、飛来した3発目の銃弾はアリスの近くにいたシスター1人とその後ろにいたシスターを重ねて貫く。
「やはり来ましたか。」
アリスは呟くと防御結界を張り更なる狙撃を防ぐ。
章斗はコートにコンテンダーを仕舞うとレイジングブルを構え暗闇から姿を見せた。
「ここまで愚かとはな。流石の俺にも想像がつかなかった。」
怯えていた2人の少女に困惑の色が差す。
「我らは使徒聖ペトロの後継者たる教皇猊下に従うだけですよ。教皇猊下の命令は主のお言葉にも等しい。」
「キリスト教徒としてその発言はどうなんだ。」
1発、2発、3発。レイジングブルから対結界用の神聖弾が3連射される。核となる地点を撃つも効果は見えない。
「流石に40人分の結界は固いか。」
章斗は苦笑してレイジングブルをホルスターに戻す。
そして、2人の少女からは何も無いところから、武装シスター隊のシスター達から腰に提げた剣帯から黒一色の片手長剣を抜いた。
「えっ?」
驚きの声を上げる沙織に構わず無造作に一閃、結界を斬り捨てた。
「起きろ。」
一言章斗が呟くとそれに応えるように、まるで剣から女性の声がした。
†
『随分といきなりじゃない。せっかちな男はモテないわよ』
何なの?何が起きてるの?まるで映画か何かのように私を取り囲む兵?達から雷の槍や矢が飛ぶ。それは全て章斗君の影から現れた黒い靄の様な物にまるで食べられたかのように消える。
急に章斗君の輪郭がぼやける、と次の瞬間振り抜かれた剣とソレにまとわりつく靄に斬られたシスター3人が姿ごと消える。
「ひっ!」
小さく悲鳴を上げた薫は、力が抜けたのか壁へと倒れ込む。地面を走った雷撃が後ろから接近してきた4人を貫き、前から来た5人をハルバード事斬り伏せる。黒い靄は死体、なのだろう物を食べ、無くしてしまう。
「数が足りませんね。やはり貴方はおかしい。この程度のランクに甘んじているレベルでは無いでしょう?」
助かると思った。何故か武器を持ち人を斬った章斗君は私に何かすることは無いと素直に思えた。すると余裕が出来たのか、アリス・マザランの口調がいつもと違う事に気づく。
「それはお前も言えんだろう?結社銀の星が下部薔薇十字団所属小達人二条章斗だ。」
「カトリック、秘匿されし十三課イスカリオテ武装シスター隊司令、司祭アリス・マザラン。教皇猊下の忠実なる部下であり、神の僕。跪け、
「巫山戯てろ、淫売。」
瞬間、二人の輪郭がブレ、次には振り下ろした白い鎌を構えるアリス・マザランと黒い剣で受止める、章斗君の姿が有った。
甲高い不快な金属同士が擦れる音がしばらく響きアリス・マザランの腕が飛び、静寂が戻る。後ろからシスター達が応援に入ろうとしてたけど全て雷の槍や矢に阻まれる。
「その程度ですか、大罪の使徒。」
「抜かせ、さっさと許しを乞うたらどうだ?嗚呼、天におわします我らが父よ彼女の罪を許し給えってな。」
挑発しあい、暫く膠着が続く。その時膠着を破ったのはアリス・マザランの援軍だった。
「お姉様!助けにまいりました!」
先頭を走るの槍を構える少女が叫ぶ、それに呼応するようにスピードを上げて路地裏に突入してくるが瞬間、援軍約50名の身体中からナイフが生えた。
「麗しき姉妹愛だな?」
「よくも!五月蝿い!」
「よく聞け、アリス。教皇猊下を知った気分はどうだ?」
教皇猊下?ローマ教皇?
「…五月蝿い!私は!私は!」
急に頭を抱え蹲るアリス・マザラン。
「旦那、ほかは全部殺ったぜ。後はそいつらだけだ。」
「ご苦労、アリス・マザランを拘束しろ。」
先程から黒い靄に包まれていたアリス・マザランは意識を失ったかのようにふらっと倒れ、いきなり現れ、章斗君を旦那と呼ぶ長身の男の人は縄のような物を召喚して縛った。
そのまま引きずって消えて行った。
「大丈夫か沙織?」
ナイフを取りだした章斗君は私たちが縛られていた荒縄を切り落とす。
「章斗君、何なの?」
「説明は後にしよう。クリス、着いてきてくれ。」
裏路地に血に濡れた銃剣が取り付けられた自動小銃を構えて入ってきた。
「了解よ。」
スマホを取り出した章斗は何処かに連絡をとると暫くすると明らかに静粛性の異常な高級車が路地の入口に止まる。
「立てるか?」
首を降る。腰が抜けて立てそうもない。薫も同様、首を横に振る。すると軽く起こされ、背負われる。薫も同様にクリスさんにおんぶされる。
「え、あの!」
「黙って背負われてろ。」
大きく暖かった背中は幼い頃から時が経った事を感じた。
†
無口な運転手は俺たちを乗せて俺の家へと向かう。疲れて眠る沙織を知り目に、もう1人、確か沙織の友人だとかいう少女に声をかける。
「小枝、だったか?」
「ねぇ、アンタ何者なの。」
気丈な小娘だ。虚勢は認めるが足の震えをどうにかして欲しい物だな。
「俺は魔術師だ。」
魔術師、現代社会では魔術はファンタジーが妄想の産物とされる。
小枝薫は確か、電子数学の研究家の娘だった筈である。
「な、何よ、魔術師って」
「世界の真理を解き明かし、神々の神秘を再現しこの世の全てを解き明かせし飽くなき探究者。」
「そして、全てを焼き払い、文明を滅ぼせし破壊の根源。それが魔術師だ。」
クリスと、俺は魔術師協会の憲章序文を諳んじる。
「魔術を行使する物と考えればいい。科学でこの世の謎を解き明かすか、魔術でこの世の謎を解き明かすかそのアプローチが違うだけだ。」
「それは納得する事にする。アイツらは何なの?」
「一応、その説明をするのに保護者を読んで欲しい。その頃にはこっちの上役も来る。」
俺は面倒事解決の為のそれなりに権威のある人物に見える、人間を呼んである。
「スマホ壊れたの。貸して貰えない?」
「構わない。」
ロックを解除し放る様に投げ渡す。
電話をかけ、二言三言話すとこちらに返してきた。
「小枝薫の母の治子と申します。娘を助けて頂いた様で、ありがとうございます。」
「いえいえ、同級生ですので見てもいられず。それにこちらの事情へと巻き込んでしまいましたから。お願いがありまして、薫さんの御両親お2人にお越しいただきたいのですこちらとしても娘さんに何が起きたのか御事情を説明申し上げたいと考えておりますので。車を送ります。ご同行願えれば幸いに存じます。」
態度の硬化が感じられる。巻き込んだと、娘が危険な目に有った原因は俺だと言ったからな。
「済まない、僕は父親の遥輝だ。分かったすぐに向かおう。必ず説明はして貰うぞ。」
急に電話相手が変わり、父親の声になる。
「分かりました。ご住所をお教え願いたいのですが?」
伝えられた住所に車を送る。それを待機している間に沙織の両親を呼びに行き、後は待つだけだ
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