第3話

結集。日本国某県冬実市。冬実教会に銀の星系下部組織薔薇十字団の小達人アデプタス・マイナーに昇格した二条章斗、ネオ・クラン所属の魔術師クリス・マクスウェル、カトリック総本山ヴァチカン東京司教エンリコ・フェルミ。その三名に率いられる古式めかしいローブに短剣を腰に吊るす東方聖堂騎士団50名、それぞれが自分次第な装いの薔薇十字団四名。

近代的な一般的な洋服にバックパックと着剣したM14バトルライフルで武装するネオ・クラン40名。

司祭服と短めの両刃片手剣と聖書を持つ武装神父隊60名。

それぞれの頂点、二条章斗は黒のロングコートに腰には黒一色の両刃の片手剣が吊るされその手には偽装用の演算補助デバイスCalculation Auxiliary Deviceの調整をしている。

クリスはM14を分解清掃しつつ弾薬に術式を付与する。銃剣は魔力を纏い不可思議に煌めく。

エンリコ司教はハルバードを構え、その刃には聖句が刻まれ輝くその端正な唇からは小さく聖書の一節がこぼれ、サイドアームとして5連装の454カスール神聖付与弾薬仕様のブラジル製のトーラス・レイジングブルを腰に提げている。


「章斗さん、こちらが我々が術式付与と改造したコンテンダーです。弾薬は独自の8×71ミリ弾を採用。弾種は追跡弾、破甲弾、分解弾、解析弾の4種。射程は900m。照準補助術式の刻印を刻み、素材は魔力親和性の高いT4型合金。銃身は工具なく換装できます。」


「エンリコ、ありがとう。」


章斗は、銃身を二つに折ると弾を装填する。そのまま、1発放つと素早く手を動かし、1発、もう1発。その2連射にかかった時間は僅か2秒。


「兄ちゃん、早すぎんだろ。どういう仕組みなんだ?」


ネオ・クラン部隊の実質的な指揮官であり、クリスの副官を務めるフランス系アメリカ人のジャン・ベルナドッテは茶のロングコートのポケットからマガジンを取りだしM14に装填しつつ聞く。


「ベルナドッテだったな?簡単だ魔術で銃弾を浮かせ、手の振り方で素早く排莢すると出た瞬間に銃弾をバレル内に来るよう調整し手早く戻すだけだ。後、俺を兄ちゃんと呼ぶな。これでも貴族の後裔なのでな。」


「りょーかいだぜ、旦那。俺はあんたが気に入った。直通の連絡先だ。なんかあったら言いな。」


それを見て、ベルナドッテの部下達は苦笑しつつも苦言を口にしない。クリスが手で目を覆い深々と溜め息を吐いた所からいつも通りの事と察する。


「準備は良いですか?」


エンリコ司教は問う

武装神父隊は頷く。クリスも気持ちを切り替え頷く。ベルナドッテは軽くサムズアップを決める。


「当たり前だ。作戦概要を説明しよう。エンリコからの情報で現在イスカリオテの武装シスター隊は400名と教皇派の兵を50合わせて450人。冬実市近郊には最大の250人が結集している。対してこちらは144名。だが、圧倒的な個は凡百の多勢を凌駕する。俺を含め薔薇十字団4名は武装シスター隊よりも強い。アリス・マザランは俺とエンリコとクリスの3名で仕留める。諸君らは武装シスター隊を確実に殺せ。命令はサーチアンドデストロイ。遊撃機動戦だ。但し、秘匿は神社本庁が協力するとは言え、危険性を鑑み夜間のみの作戦とし応戦以外は基本的に昼間戦闘は認めない。良いな?」


全員が話せる、魔術師の必修言語ラテン語で会話は行われる。

魔術師は基礎的にラテン語、英語、ドイツ語、日本語、フランス語、ギリシャ語を完全に駆使出来ることを求められ、更には補助言語としてロシア語や各種古代言語やアラビア語を使用出来れば上出来である。

二条章斗は基礎七言語と古代ラテン語とアラビア語、ロシア語、ケルト語、スペイン語、そして古代ギリシャ語の使用が可能であり各地の伝承や神話から術式の構築、魔術の開発に貢献している。

魔術師協会の魔術学会からは体内魔力オドと体外魔力マナの差異と効率的運用に関する諸提言という論文で魔術行使の分野でコペルニクス的転回を発生させ名誉理事の栄誉を与えられている研究家としてもそれなりには有名なのである。

基本的に二条章斗は魔術師の暗殺や各魔術組織の暗部に関する職務に携わるため戦果は公表されず研究家としての名だけしか知らず軽視する者も少なからず存在する。


「あいよ。旦那、振り分けは?」


「各隊5名から10名ほどで組んで遊撃だ。さぁ狩りの始まりだ!」


それぞれが動きだす。その中に薔薇十字団の被免達者アデプタス・イグゼンプタスたる大魔術師ライプニッツ卿が残りの2名双方とも小達人のアレクサンドル・マクネイトとアラビス・フォン・ハルベルトを引連れ現れる。


「お久しぶりです。ディム・ライプニッツ。」


ライプニッツ卿はゴットフリート・ライプニッツ卿の子孫にあたる女性魔術師であり御歳29となる。魔術師として頭角を表したのは10才の頃。そこから確認戦果魔術師45名、フリークス457体、未確認戦果魔術師172名、フリークス4785体という戦果を誇る。未確認戦果が多いのは跡形も残らなかったか原型を留めておらずどれがどれか分からなかった為である。


「堅苦しい口調は結構よ。章斗、いえショート・フォン・ベルンバッハ=クロイツェン公」


「成程、それではそうしようか。マリア・アントニヌス・フォン・ライプニッツ伯」


同時にオーストリアの旧皇室、ハプスブルク家の為の結社である銀の星は貢献等によって爵位があたえられる。

俺は祖母がオーストリア=ハンガリー帝国の魔術師の家系たる秘匿された13家と呼ばれる貴族家のひとつ、ベルンバッハ公爵家の後嗣であり、母の家系であるドイツ帝国の秘匿されし魔術師貴族クロイツェン伯爵家の相続人。現ベルンバッハ公爵は父だが、銀の星からの離反を理由に爵位は俺へと継承された扱いになっている。理由は不明だし、失踪して早6年既に諦めてもいる。

二条家は日本の朝廷に仕える陰陽師の家系であり第一次世界大戦中にベルンバッハ女公爵と恋に落ちそれから父が生まれた為に父は藍染・二条=ベルンバッハを名乗り、母はサーシャ・フォン・クロイツェン女伯爵、よってフルネームは章斗・フォン・二条=ベルンバッハ=クロイツェン公爵兼伯爵になる。表では二条章斗で通りしているしヨーロッパではショート・ベルンバッハで通している。


「作戦終了後に我らが盟主様より本部への出頭が命じられているわ。恐らくゴールデンウィーク中にオーストリア、シェーンブルン宮殿に向かわなくてはならないでしょうね。」


章斗は謝意を伝えると待っていたエンリコとクリスを連れ身につけた黒いロングコートは夜の闇に解けるように消えた。


周りとの空気を遮断する結界を張り銃声を外に漏らさないようにする。


「これでワンダウン。楽勝だな。」


「隊長、左から敵は4名。戦斧持ちです。」


「よーし、お前ら構えろ。人間様の狩りをケダモノに教えてやれ。」


俺は旦那の依頼で部下6人を連れて女子修道院周辺で遊撃戦をしている。


「あまりにもヘナチョコだぜ。戦力の逐次投入とはひでぇな。」


施術され貫通力と対魔術師用にカスタマイズされた術式弾をセミオートに回したライフルで叩き込む。


「お花が咲きましたとな。お前らあとは終わりか?」


ライフル弾は頭部を抉り、花が咲いたように頭蓋が開く。


「OKです。そろそろ集合時間ですかね。」


ふーん。現在時刻は真夜中午前二時。作戦開始から三日目の今日までの累計戦果は46人。アリス・マザランを追っかけてる旦那達は既に累計150、伯爵ライプニッツ卿は累計112、


『ベルナドッテ、敵本隊を視認した。結集しろ。座標は送る。』


旦那からのオーダーだ。


「ねえ沙織。あんた、章斗君とはどうなのよ。家近いんでしょ?」


「…別に章斗君と何かある訳じゃないし」


都心から電車で1時間程度。冬実市の私立学校に通う私は今は高校一年生。生まれながらに美少女だった事と、家がそれなりにお金持ちであって学内のカーストでは上位を占めると自認はしている。


「好きなんでしょ?」


親友の小枝薫さえぐさかおるは私の目を覗き込みじっと見つめて問うてくる。それに目を逸らしてしまう。


「…まぁ、好きだけど。でも、別に彼氏とかじゃないし。」


ニヤニヤと少しイラッとする笑みを浮かべて何も言わない。少し、腹を立てる。


「そう言えば、章斗君ってさどこに住んでるの?近くなんでしょ?」


少し話題が逸れたのに乗り、答える。


「ウチのマンションの最上階から5階分。」


「え?あの億ション?」


「マンション自体が章斗君の持ち物なの。下から10階までは賃貸で、それより上は分譲なのよ。」


「うっそー。超優良物件じゃん。早くプッシュしないと取られるよ?章斗君、イケメンだし優しいし。この前、プレゼント貰ったし。」


聞き捨てならない事が聞こえた。


「…プレゼント?」


「そ、漫画読んでたら栞くれた。」


その時、黒い身体全体を隠すような服装に身を包んだ人間に囲まれた。


「だ、誰!」


私は頬が強ばるのを感じていたし、ふと隣を見ると薫も表情に怯えが走るのも見てわかる。

裏路地に連れ込まれると1人がフードをとる。


「お久しぶりですね、貴女は確か北郷沙織ほんごうさおりでしたよね?」


そう、私にとって最近1番気にかかっていた少女。


「貴女はクリス・マザラン…」

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