第2話

今は放課後。エンリコと落ち合う為に学園から少し離れた喫茶店に来ている。何故かたまたま、クリス・マクスウェルが来ていて、そこにアリスまで加わっている。

…今日はとことん厄日らしい。

因みに喫茶マイドラーは明治から続く老舗という事だが、昔は純喫茶マイドラーと名乗っていた。明治の頃は純喫茶を除く喫茶店に行く事は後ろめたい、隠すべき事のようだった。何故なら、薄暗い店内に珈琲は出てくるが際どい女給とたまたま突発的な大人の恋愛をするというまぁ、なんと言うか。

明治から男が下半身で考える事は変わらないらしい。

と、現実逃避しつつ居ると自分のカップの珈琲が無くなっている事に気付く。

先程からかなり離れた席ばかりに確認しに行く店員を呼び、お代わりを頼む。


「エンリコ。どうしてこうなった?」


「……僕にも分からないね。本題に入りましょう。我々はネオ・クランとの不可侵を結びました。」


「成程。あの教皇はお前らが気に入らない訳だ。ネオ・クランは伝令の座天使ヘルメスの調査によってある程度は掴んでいる。化物フリークスの討滅と悪辣な魔術師を滅ぼす事を至上としている。それで、他国にも首を突っ込むから忌避されているが活動理念や魔術師協会に従順な事から排斥案が出ているわけでも無い。更には家のパトロンのオーストリア皇統派はネオ・クランに友好的だ。恐らく我々銀の星はそちらにつくだろうしお前らの嫌いな正教会や大英帝国も同様だろう。そうなればお前らヴァチカンは神社本庁くらいしか味方は居なくなるぞ?」


「そうでしょうね。実際に日本国対化物特務機関アマテラスがこちらに厳重な警告文を送付してきましたし、日本のカトリック系の教会から切実な嘆願が…」


遠い目をしているエンリコ。先程から教皇の盲信者であるアリスは口を開いてもこちらには音が伝わらない様結界を張っている。


「…ご愁傷さま。エンリコ、意外と年相応なのな。」


「…僕も一応は15歳なんですよ。日本なら中学生ですし。」


「…なんか、悪いわね。」


とボソッとクリスが謝意を示す。なんとも言えない空気が漂う。


「切り替えよう。俺は今、銀の星が我々に判断を委ねた事で黄金夜明がどちらにつくか決める権限がある。エンリコ・マクスウェル司教、こちらに支払える報酬は?」


さっと表情が変わる。


「枢機卿猊下は先ず、欧州と日本のカトリック教会の使用権とヴァチカンが銀の星に借りを作ったと宣言します。貴方のような実働隊にはそれぞれ言い値で報酬を。」


「成程。それと、ヴァチカンの禁忌図書を1度閲覧させて貰おう。」


「……分かりました。中央の封印図書館を解放します。」


「OK。それで手を打とう。ドイツ魔術師結社連盟盟主銀の星の統領たる自己自身者イプシマス代行、境界のドミナス・リミニス二条章斗はヴァチカンに対し共闘と同盟を宣し東方聖堂騎士団にも出動を命じる。」


「感謝を。ヴァチカンも市国外で動かせる武装神父隊のフランス管区から52、日本管区から18人は今すぐにでも動かせます。イタリア管区に100程動かせますが流石にそこを動かすとイスカリオテにスイス傭兵も居ますので。」


「我々は東方聖堂騎士団から45、黄金夜明極東支部から85名を出そう。」


「欧州最大の結社はやはり規模が段違いですね。クリス・マクスウェルさんでしたっけ?貴女方は?」


「一応、今日本にいるのが大体20、1週間、いえ、3日間貰えれば追加で20は硬いわ。ヴァチカンや黄金夜明には適わないけれど実力はそれなり以上には有るはずよ。」


ガシャっとガラスが割れるような音がして結界が解ける。


「…まじで自力で解きやがった。」


「二条さん!何故ですか!」


「何が?」


カトリック教会の中でも最も狂信的な者の集まりイスカリオテ。知名度で言えば魔女に与える鉄槌の著者ハインリヒ・クラマーの様な気狂いの集まりである。俺らからすればお前らの方がよっぽど異端で棄教にも等しい行いをやってると思うんだがな。

現教皇はイスカリオテの出身もうガンギマリである。


「猊下の為に立ち上がりましょう。カトリックの為に」


カトリック教会は偽イシドールス教令集と言うヴァチカンからの言説を真実と信じさせる世界規模の干渉範囲を持つ霊装が有る。

全世界12億人のカトリック信徒は物凄い力だ。


「エンリコは兎も角、俺もマクスウェルもカトリック教徒じゃ無い。従う義理はない。」


珍しく、本当に珍しく舌打ちをし走って立ち去るアリス。


「直ぐに動かすわ。明日の同時刻此処で集合できる?」


「俺らは可能だ、神社本庁には隠匿に協力するよう要請する。」


「勿論。ウチは三日後には集結してるでしょう。この春夏冬市にはそれなりに大きい教会があります。そこを拠点に動きましょう。裏口をノックして僕の名前を出して下さい。通す様にしておきます。」


「そうしよう。時間はあまり無いな。エンリコ、アリス達イスカリオテの武装シスター隊が動く迄に幾日余裕があると思う?」


「恐らくは4日程かと。狂信者で損害を気にしない面はありますが、秘匿を疎かにすることは無いです。彼女達は教皇の手足であって自分達が同じ魔術師にさえ知られることを忌避しますから。」


「異常ね。」


「同感だ。こっちの個人霊装は俺の空間収納に入ってるから何時でもやれる。」


「会計は僕が。」


「いや、俺が出しとく。お前は早くアクィナス枢機卿に連絡を取れ。後始末の用意だ。欧州の本部に掛け合う。」


「排除するのですか。次期教皇はアクィナス枢機卿ではあからさま過ぎる、ではライナー・ヴェルヒ枢機卿ではいかがでしょうか?」


「そうだな。流石にアクィナス枢機卿はな。ケルン大司教なら我々も同意する。」


直ぐにそれぞれが立ち去り俺は支払いを済ませると改造された情報通信デバイスで各所に連絡を取った。

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