第二章 探索(4)
平太は一人で戻ってきた。
「呼んできたよー」
平太はそれだけ言うと、自分に課せられた仕事は終わったとばかりに、片桐から猫を回収した。猫が安心したように顔の表情を緩めるのが見えた。
「片桐曹長ー」
反対に表情を固くしたのは
一呼吸ほど遅れて
男は三原屋の店主で平太の父親だ。
店主は片桐に気づくと表情を明るくした。
「片桐さん。ご無事だったんですね。長いこと戻ってこられないので、皆、心配しておりました」
「先週戻りました。残念ながら、戻ったのは私一人ですが…」
「それは…」店主はそこまで言うと、一呼吸置いてから、「皆さん、さぞ立派な最後だったのでしょう」と言って肩を落とした。
返したいこと言葉はあったが、外国人の客の手前ということもあり、片桐は用件にとりかかる。
「早速で申し訳ないが、少し力を貸してもらえないだろうか」
「それは、私で役に立つのであれば、是非にと思いますが…」
店主はそう言うと、片桐の隣に立つ
暖簾の裾をまくって、玄関へと導く。
「ここでは何ですから、良かったら中へどうぞ」
「助かる。どうぞ、少佐」
「ありがとうございます。…
しかし、和泉小槙は、遠野橘の呼び掛けに応じない。彼女は、平太の傍らに立ったまま、不自然に腕を伸ばし、猫を撫でる機会をうかがっている。
遠野橘が催促する。
「和泉小槙大尉?」
「任せたぞ、少佐」
和泉小槙は振り返りもせず、そう言った。
遠野橘は一瞬、表情を曇らせた後、嘆息して「失礼します」と暖簾をくぐった。
片桐も後を追う。
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