第38話 帰還
ウォルナー王子は、メローネ王国へ戻ると真っ先にヘーゼルのもとを訪ねた。ブランディ伯爵家では、王家ゆかりの人が訪問するのが初めてという事もあり、緊張の中でも一家全員で暖かく王子を迎えた。
「王子様がおいでになった!」
王国を奪還し、無事に帰ってきたことを共に喜びあった。
「この度は、王位奪還されたことを、一家で喜んでおりました」
ブランディ伯爵も相好を崩した。今回大活躍したヘーゼルも笑顔で出迎えた。
「街へ行き、平和が戻ってきたと人々に伝えました。近隣の貴族たちにも伝えてまいりました。ご安心ください!」
「この度は、ヘーゼル様の命がけの行動のおかげで、国に平安が戻ってまいりました。王宮が元通りになりました暁には、ぜひヘーゼル様を王宮にお招きしますので、皆様でいらしてください。いつになるかはわかりませんが、必ず元に戻します。それからヘーゼルさん……」
「一番気にされているミラベルさんの事でしょう?」
「はっ、はい……ここまでピスタさんを送ってきて、そのあとはどこへ行ったのでしょうか?」
「おばあさんの小屋へ寄っていくと言っていましたが……道なりにまっすぐ行くと雑木林がありますが……」
「えっ、ええ……存じております。一度送って行ったことがありますので」
「おお、そうでしたか。そこに行くと言っていました。一人でいるのは怖いからと……早く行ってあげてください。」
「皆さん、ありがとうございます。素晴らしいご一家ですね」
ウォルナー王子は、はやる気持ちを押さえて、雑木林の中の小屋へ向かった。真っ先にこの作戦の成功を伝えたかった相手がいる。そして何よりも、自分の無事を祈って待っていてくれている人が。
雑木林の前に着くと、馬を太い樹木につなぎ林の中へ分け入っていった。そこは人ひとりが歩けるような道になっていて、以前ミラベルが入って行った道だった。道は曲がりくねっていて、まるで隠れ家のようになっている。本当にこの先に家があるのだろうかと、不安になりながらもさらに進んでいく。
「……ああ、良かった。やはりここだった」
その小さな小屋は、風雨にさらされ黒く変色し、人が住んでいることが不思議なぐらいの建物だった。忍び足で近くにより、ドアをたたいた。中から、小さな声がした。
「どなたですか?」
ウォルナー王子は、名前を名乗ることを躊躇した。まだどこかに敵がいるかもしれないと、警戒心が解けなかった。
「ミラベルさんはいらっしゃいますか?」
「はい、その声は?」
「そうです、僕です。無事に戻ってきました。開けてくださいますか?」
「ああ、ああ、ウォルナー王子様! 本当に王子様がお帰りになったのですねっ!!」
「本当です、ウォルナーです!! 嘘なんかじゃありません!」
「わあ、どんなに心配していたか!」
二人はお互いの顔を見ると信じられないというような表情をした。
「夢じゃないんですね!! 良かった……」
手をしっかりと握り肩を抱き合った。そこにレーズンおばあさんがいることなどすっかり忘れて……おばあさんは、にこにこしてウォルナー王子の顔を見つめていた。
「王子様、すっかり成長されて、たくましく成られて、ばあやは、ばあやは……」
「あっ、おばあさんって……レーズンばあやの事だったんですか」
「ええ、レーズンおばあさんのうちで居候していたんですが、以前にもお話ししましたが……なにか?」
「ミラベルさん、レーズンばあやは以前、僕が子供の頃でしたが、家でメイド頭をしていたんだ! ここでミラベルさんと暮らしているとは思わなかった」
「王子様がもっとずっとお若い頃でしたね。ばあやはもう年ですからお屋敷の仕事を引退して、人里離れたところに土地をもらいました。それがここでございます。林は越してきたときのまんま、雑木林になっております」
「わあ、懐かしいなあ」
「王子様もすっかり立派になられて……うっ、うっ、ばあやは嬉しゅうございます」
レーズンおばあさんは、涙をぽろぽろこぼし、しわだらけの手でぬぐった
「おばあさん! 領主さまのお屋敷って、王宮の事だったのですか! だから侯爵家へ行くときのメイドの推薦状も書いてくださったのね!」
「まあ、まあ、お前が聞かなかったから、言う必要もないと思ってね」
「もう、意地悪ですねっ!」
「まあ、まあ、二人で手を握り合って、仲がいいんだねえ。とっても楽しそう!」
「おばあさんと出会えて、私本当によかったんだわ」
「本当に、どうしてこんな雑木林の中へ入り込んできたのか……ああ、そうそう。ウォルナー様、何か御用があったんじゃないんですか?」
ウォルナー王子は、ようやくミラベルの手を放していった。
「計画はうまくいきました。ブランディ伯爵家の皆さんの決死の行動のおかげで、パイン王国の国王陛下も大切な兵士たちを出兵させてくださいました。協力を要請するために、ヘーゼルさんにも頼みに行ってくれました。危険を顧みず国境越えまで手伝ってくれました。ミラベルさんにどれだけ勇気付けられたことか……」
「私のしたことなんてほんのわずかなことです。ウォルナー様の人望に、みんなが付き従ったのです」
その話を聞いていたレーズンおばあさんが間髪入れずに行った。
「まあ、まあ、仲がよろしいのはよくわかりましたよ! さあさあ、日が暮れないうちに家へ帰った方がいいよ」
「ばあや、僕はここに泊めてもらえないのかい」
「何を言ってるんだ。ここは三人も泊まれないんだよ。さあさあ、ミラベルのうちへ帰っておくれよ」
二人は、レーズンおばあさんに早々に返され、ミラベルの荷馬車に並んで座った。今日一日で大きく運命が動き出した。夕焼けを見ながらに馬車に揺られる二人に、ミラベルの知り合いの農夫が手を振っていた。
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