第37話 勝利
帰りは国王軍とともに行動し、壮大な行軍となった。来た時と同じ山道を通り抜け、その後二手に分かれて進んだ。どこに盗賊一味に協力する輩が潜んでいて、密告されるかもしれない。裏手の林から公爵邸へ攻め込む集団と、前方から攻め込む集団に分かれた。メローネ王国へ入ってからは、二人は兵の中に入りできるだけ目立たないように行動し、後方部隊に加わった。グレーシア公爵邸ではいつも通りに人々が生活をしていた。王宮から国王一家を追い出し、誰にも入れないように警備の兵士を置いていた。グレーシア公爵は、いずれ王宮へ移り住み、新国王を名乗るつもりだった。そのために逃げだした王と王子の行方を血眼になって探していた。見つかったら最後命を奪われてしまうだろう。戦わなければ、王家は滅ぼされるのを待つだけだ。
公爵邸の裏手に、すでに辿り着いたようだ。裏手には警備の兵が控えていたが、強大な国王軍の前には全く歯が立たなかった。兵士たちは、隊列を組みやすやすと敷地内に入ることができた。それに気づいて、屋敷から侯爵家に雇われた兵士が外へ出てきた。やはりそこにいた兵士たちでは全く歯が立たなかった。抵抗する間もなく、制圧されてしまった。ドアを開けるように命じると、パイン王国軍に取り囲まれた兵士は、抵抗することなくドアを開けた。中からは怒号が聞こえてきた。
「何だお前たちは! どこの兵士だ!」
「グレーシア公爵様の屋敷と心得ての蛮行か!」「出て行け!」
男たちの叫び声がしたが、人数の多さを見て彼らは目を剥いた。盗賊一味たちも武装した兵士たちの集団を目の当たりにしては、抵抗のしようがなかった。彼らは完全に降参し、武器を置き両手を上げた。
「グレーシア公爵と、プルーナお嬢様にお会いしたいのだが、こちらへお呼びください!」
言葉は丁寧だが、有無を言わさぬ口調で軍の指揮官が言った。あまりの数の多さで、皆抵抗することをあきらめてしまっていた。二人は、沈痛な面持ちで階段を下りてきた。
「今回のメローネ王国での暴挙、許しがたい! こちらでお話を伺いたいので我々と一緒に来てもらいましょう」
「私どもは、そのようなこととは一切関係はございません。プルーナも巻き込まれたのでございます。どうか寛容な御計らいをお願いします」
グレーシア公爵が答えたが、その場に盗賊たちがいるので、理由がつけようがない。
「この屋敷に盗賊たちがいることが明らかな証拠だ! こやつらにも話を聞く。おい! 正直に話したら、命だけは助けてやる! 連行しろ!」
指揮官の命令で、捕らえられた盗賊たちは後ろ手に縛られ外へ連れていかれた。
「どうか私の命だけはお助け下さい! プルーナは差し出しますので」
「酷いわ。お父様、私だけを犠牲にするおつもりなの! どうか私だけはお助け下さい。すべて父の指図でやったこと、お許しください!」
「もうよい! 醜い親子喧嘩など見たくもない。二人とも連行して、事の顛末を訊こう。パイン王国までお供してもらいます! 者ども、こいつらも縛り上げて、連行するぞ!」
兵士たちは一家全員を後ろ手に縛り外へ引っ張りだした。軍に加わっていたウォルナー王子はその様子を見守っていたが、馬に乗せられるときに視線が合い悔しそうな顔を向けた。
ヘーゼルはウォルナー王子に言った。
「街の人々や貴族たちに、謀反を働いた賊と、盗賊たちは捕らえられたと触れ回ってくる。国王陛下と王妃様が生きておられたら、きっと御安心なさるはず。どこかにお隠れになっていたとしたら、出てきてくださるだろう」
「では、ヘーゼルさんはそうしてください。僕は、こいつらとともにパイン王国まで行き、国王陛下にお礼を申し上げてから、国へ戻ります。あっ、それからミラベルさんにも伝えてください」
「わかってます、王子様! それでは、しばし別々になりますが、御気を付けて!」
「ヘーゼルさんも、気を付けてください。感謝しています」
指揮官は満足げに二人の会話を聞き、兵士数人に命を出した。
「お前たちは、前方へ回った兵に計画は成功したから撤退するよう伝え、その者たちと一緒に国へ戻るのだ」
彼らは、意気揚々と馬にまたがり去っていった。その後をヘーゼルがやはり軽やかに去っていった。
パイン王国への復路は、往路とは全く違った雰囲気となった。途中出会う農民たちは、好奇の目で縛られた者たちを見ていた。兵士たちはみな安心しきった状態で帰りの行軍をしていた。王宮では、国王が首を長くして兵士たちの帰還を待ちわびていた。行軍がみな無事で、盗賊と公爵一家を捕らえてきたのを見て安堵していた。彼らは城内の牢へ入れられてから、処遇を検討されることになった。ウォルナー王子は、国王に丁重にお礼の言葉を述べた。
「例には及ばない。殿下は一刻も早く国へお帰りになり、国王陛下とお妃様を探し出してください。それから王宮の立て直しが急務でしょうから、人質たちは私共にお任せいただき、すぐにお帰り下さい。落ち着きましたら、またこちらへお越しくださいますよう是非お待ち申し上げております」
「有難きお言葉にございます。国王陛下のお陰で、国を立て直すことが出来そうです。今後は私も精進し、このようなことでお願いすることがないよう十分気を付けてまいる所存です」
「それでは、幸運を祈るぞ、ウォルナー王子!」
「お世話になりました。これにて一旦失礼いたします」
ウォルナー王子は、お礼の挨拶を国王に済ませ、傭兵と共にメローネ王国を目指した。
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