時子さん 第12話



 時子さんに関する都市伝説をもう一度目を通して、俺は妙に納得した気分になっていた。


「そういう事だったのか」


 そういう呟きが自然と漏れ出た。


 どうしてすぐ気づかなかったのか。


 最初から関連性を疑うべきではなかったか。


「時子さんで繋がっていたのか」


 奇妙な一致ではない。


 偶然でも、たまたまでもない。


 これは必然ではなかろうか。


『言実町にある喫茶店『蝉時雨』で何人もの人間が猟奇的な殺され方をされていたらしいのだが、それは時子さんのしわざとの事である』


 都市伝説の時子さんについての噂話をまとめた項目の最後で記載されていたのだから、俺の記憶の隅にはり付いていても何ら不思議ではなかった。


 蝉時雨という名前の喫茶店を。


 その関連性に気づいたのはいい。


「つまり……どういう事なんだ?」


 だが、俺はその先へと進めなかった。


 三宮彩音を検索した事で繋がった蝉時雨での事件。


 そして、時子さんの都市伝説を調べた時に知った蝉時雨での事件。


 どうして一致するのか。


 三宮彩音とこの事件には、何かしらの繋がりがあるのだろうか。


 それが全く分からないままなのだ。


「蝉時雨での事件が起こる数日前に白骨化していた三宮彩音……か」


 もう一度、蝉時雨で起こった惨劇のニュース記事に目を通す。


 さらにもう一度読み返してみるも、三宮彩音との繋がりは見えてはこない。


「……あれ?」


 何かがおかしい。


 唐突に何か重大な事柄を見落としているような気がしてきた。


 俺の脳が何かを語りかけてくる。


 とある点に気づけとばかりに。


「なんだ? 俺はなにを見落としている?」


 蝉時雨のニュースを隅から隅まで目を通した後、時子さんの都市伝説の記述の方も読み返してみた。


「……おかしいよな、これは」


 双方を読み比べてみると、奇怪な事が書かれている事に行き当たった。


「こ、これは……」


 どちらかが間違っているのだろうか?


 それとも、どちらも事実ではなく、フェイクなのだろうか?


『2009年7月25日、言実町の喫茶店『蝉時雨』で男女六人の変死体が発見された。亡くなったのは、地井篤、竜宮院鳳香、海部百合香、九条音々、春日部保奈美、桐生美月の六名』


 蝉時雨でのニュース記事にはこう書かれている。


 時子さんの都市伝説に関する記載ではどうだろうか。


『沖沼志津馬は、管理人である私こと春日部保奈美の知り合いであり、オフ会などで面識があり、本当に亡くなった事も確認済みである』


 こういう記述がなされているのだ。


 蝉時雨の事件で死んだはずの春日部保奈美。


 その春日部保奈美が、時子さんの都市伝説について書いているのだ。


 最後には『最後に、言実町にある喫茶店『蝉時雨』で何人もの人間が猟奇的な殺され方をされていたらしいのだが、それは時子さんのしわざとの事である』と結んでいる。


 春日部保奈美が同一人物であるのとするのならば、死んだはずの人物が時子さんの都市伝説に関する記述をした事になるではないか。


 おかしいだろ?


 こんな事があるはずがない。


 春日部保奈美は自分が死ぬ事を予感していてあらかじめ書いていたのか?


 でも、それはそれでおかしい。


 自分が死ぬ場所さえ予見していたことになり、春日部保奈美が予言者か何かの類いの人物であるということになる。


 どうすれば死者が自分が死んだ事件の事を記載できるというのだ。


「ワケがわかんない! なんなんだよ、これは!!」


 壁に拳を叩き付けるも、俺は頭を抱える事しかできなかった。


 時子さんに、三宮彩音に、喫茶店『蝉時雨』、そして、春日部保奈美。


 点と線で結べそうなのだが、結ぶべき線が見つからず、いくら考えに考え抜いても、答えを導き出す事ができそうにない。


「もしかして俺って……」


 目を背けたくなるような事実を目の当たりにして、目の前が真っ白になった。


「俺はとんでもない都市伝説に手を出してしまったのか?」


 全身からすっと力が抜けていき、何かに抗う気力も、SNSを使って金儲けをしようと企てていたやる気も、すっかりと衰退していくのを感じ取っていた。


 それはまるで出口のない迷路に迷い込んでしまったような絶望感であった……。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る