時子さん 第10話



『三宮彩音』


 その名前で検索して出て来たのは、2009年7月22日に死後一ヶ月以上経過したとみられる三宮彩音の白骨死体が東京都北区言実町のとある公園で発見された、という古いニュース記事であった。


 その記事を発見した俺はしばらくぽかんとしてしまった。


 脳の思考が追いつかないというべきか、脳が停止してしまった……そんなところだ。


「さっき俺が会ったのは誰なんだ?」


 俺の目の前で消えた、あの女は何者だったのだろうか?


 もしあの女が三宮彩音であるのならば、幽霊か幻という事になる。


 もう一つの可能性として、この三宮彩音と、さっき消えた三宮彩音が全くの別人というものだ。


 それならば、納得ができるような気がしたが、


「……いや、それじゃ正解とは言えない」


 さきほど俺が会った三宮彩音と、この記事で死亡したとされる三宮彩音が同一人物であるという可能性も捨てきれない。


 それは、2009年に三宮彩音は死んでいて、その三宮彩音の幽霊にさっき俺が会ったという可能性だ。


 そう仮定すると、俺の前であの女が消えた理由も、この記事で死亡したとされている事も納得できるのではないか。


「幽霊だから消えられる……か。それが正解のような気がする。いや、正解だと思い込む事にしようか。幽霊が出た……それを信じろと言われれば無理だが……」


 今の俺をとりあえず納得させるには十分な答えだ。


「……ん?」


 その記事に追記がある事に気づいた。


「この事件、何か続きがあるのか?」


 その追記は、とある事件の記事への誘導であった。


 2009年7月25日、言実町の喫茶店『蝉時雨』で男女六人の変死体が発見された。


 亡くなったのは、地井篤、竜宮院鳳香、海部百合香、九条音々、春日部保奈美、桐生美月の六名。


 控え室に置かれていたロッカーの中に、その六人がみっしりと押し込まれている、という奇妙な姿で発見された。


 六人もの人間が小さなロッカーに押し込まれているという状況はありえないとし、オーナーの竜宮院鳳香さんと従業員五名が何かしらの事件に巻き込まれたものとして、警察が捜査を開始した。


『六人もの人を小さなロッカーの中に圧縮するように押し込むのは考えられない』


 そう捜査官は一様に口にしている。


 何かしらの道具を使って押し込めたのではないかとも言われており、事件の究明が早急に求められている。


「この事件と三宮彩音の死は何か関係があるのか?」


 何かあるのかと思い、もう一度その記事を読み直す。


「喫茶店『蝉時雨』? 最近、どこかで聞いたような名前だな」


 三宮彩音ではなかったが、何故かその名称がひっかかった。


 記憶の片隅にその名称があるような気がしてならないのだ。


 しかも、最近聞いた覚えがある。


「なんだ? どこで聞いた? 気になる。気になって仕方がないんだが、思い出せ、俺……」


 今思い出さなければならない事だと思い、俺は腕を組んで熟考し始める。


 たぶんここ数日で見聞きしたからこそ覚えているのではないか。


「あっ……」


 記憶の線と線が一致した瞬間、寒気が全身を駆け抜けた。


 俺はその線と線とが正しいかどうか確かめるために、記憶を辿りにスマホを操作し、2009年で更新が止まっていた都市伝説について検証していたとあるホームページにアクセスをした。


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