時子さん 第8話



 俺は人が忽然と、しかも、一瞬にして消えるのを目の当たりにして、思考がしばらく停止してしまった。


 何が起こったのか。


 三宮彩音と名乗った女がどこに行ったのか。


 脳の情報処理が追いつかず、俺は動けずにいた。


 それに何よりも、


『あなたの先ほどの説明は実りました。言実という土地であなたの希望を叶えて、都市伝説の時子さんを一時的に復活させたのです』


 という台詞が気がかりで仕方がなかった。


 説明が実るとか?


 言実という土地であなたの希望を叶えて、とは一体何だ?


 都市伝説の時子さんを一時的に復活、とはどういう意味なんだ?


 一番重要な事は、


「あの女が何故俺達が都市伝説の時子さんを復活させようとしているのかを知っていたか……だ」


 今日、俺があの話を披露するまで誰にも言ってはいなかった。


 資料を作るのに使用したパソコンやスマホをハッキングされていなければ漏れていないはずの情報だ。


 それを何故あの女は知っていたんだ?


「とりあえず戻るか」


 ここにずっと突っ立っているのは意味がないと悟り、俺は六人がいる席へと戻ると、


「もう始めたのか、早いな」


 俺の顔を見るなり、桜田伊央がそんな事を言った。


「……始める? 何をだ?」


 言葉の意味がさっぱり分からないため、真意を確かめるべくそう問いかけた。


「もう始めたんだろう? フォローされたぞ」


「始める? フォロー?」


 嫌な予感で体温が下がり始める。


『あなた方の中の誰かがフォローされます』


 その言葉が脳の中で反響し始めたからだ。


「時子さんだよ。お前が席を外した後、フォローされたんだよ。時子さんに。お前がやったんだろう?」


 その言葉で頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を受けて言葉を失った。


 俺はまだアカウントさえ作ってはいない。


 当然、時子さんのアカウントだ。


 下準備さえろくに行っていないというのに……。


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