時子さん 第7話


「ざっくばらんな説明だが、こんな流れでいこうかと思う」


 俺はメンバー達の顔色を窺う。


 桜田、矢田、宮佐古、それに、あまり口を開く事がない朴念仁の山下哲平やました てっぺい、金にしか興味がない湯井田幹ゆいだ もときは、言うべき事がないようで、質問を投げかけようとしている素振りさえ見せない。


 上木丈はどんな動画を撮ろうかと思案し始めたようでそわそわしていて、俺の説明など聞いてもいないし、説明画像も見ていないようだ。


「異論はない。試行錯誤していって、完璧な集金システムを作るって事でいいのか?」


 と、宮佐古。


「最初は上手く行くはずがない。だから、試行錯誤していって、システムを構築していく」


「いくらくらい稼げるんだ? ボロ儲けだといいんだがよぉ!」


 湯井田幹が金勘定をしたいようで、そんな質問とも思えない言葉を投げかけてくる。


「オレオレ詐欺よりは稼げないだろう。だが、呪いを解いてやる慈善事業をするわけだから逮捕とか詐欺とかそういったリスクは皆無だ。定期的に遊ぶ金が入りくらい稼げるようになるのが理想だ」


「犯罪じゃなく人助けで金儲けか。それも悪くはなさそうだな」


「どうやれば俺達にだけ金が転がりこんでくるのか。ようは、金の動きをSNSでコントロールできるかどうか検証していくんだ。やりかたによっては大金が転がり込んでくるはずだ。そのためにも、色々な逸話があるっていう都市伝説の時子さんを利用するんだ」


 時子さんに関しては、様々な噂話がある。


 言実町にある喫茶店『蝉時雨』で何人もの人間が猟奇的な殺され方をされていたらしいのだが、それは時子さんのしわざとの事である。


 それ以外にも何人もの人間が都市伝説の時子さんに殺されているとの話がある。


 一時期ほどの認知度はないものの、まだまだ使える都市伝説なのだと俺は思ってはいる。


「……失礼します」


 唐突に、ここに集まっている奴らとは違う、女の声がした。


 他に誰か呼んでいたのか?


 そう思いながら声がした方を見ると、メイド服の女がぽつねんと立っていた。


 無機質な瞳で、無機質な表情で俺の事をじっと見つめている。


 何かの間違いじゃないか?


 そう思いながらそのメイド服の女を見つめていると、俺の目をじいっと見つめながら、おいでおいでとばかりに手で招いてくる。


「……ちょっと待っていてくれ」


 俺にしか興味がないような様子のメイド服の女は、他の六人には目もくれない。


 俺に用があるのだと感じ取って、その女の元へと駆け寄った。


 六人が不審そうに見つめるも、俺は気にもとめずに、


「何か用か?」


 要件を……手短に訊こうとそう問うも、メイド服の女はおもむろに背中を向けて歩き始めた。


「……なんなんだ?」


 他の六人に聞かれてはまずい話なのかと思い、その女の後を追う。


 すると、居酒屋の内の死角になっている場所で女は立ち止まった。


「あなた方の中の誰かがフォローされます」


 俺に背中を向けたままメイド服の女が言う。


「はい?」


「言実町の由来を知っていますか?」


 メイド服の女がさらに言葉を続ける。


「何の話だ?」


「言葉が実るから『言実』と名付けられました。言霊が現実となりやすい土地であったからこそ、言実町と名付けられたのです」


「?」


「あなたの先ほどの説明は実りました。言実という土地であなたの希望を叶えて、都市伝説の時子さんを一時的に復活させたのです」


「は?」


 メイド服の女の妄想が垂れ流されて、俺は思わず呆気にとられた。


 何を言っているのか。


 何を言おうとしているのか。


 全くもってして意味不明だ。


「稲荷原瑠羽によって消滅させられた時子さんが復活するのですよ。あなたの願い通りに」


「何言っているんだ、お前は?」


「私は三宮彩音さんのみや あやね。この名前を調べれば、きっと今言った事が事実だと分かるはずです」


 三宮彩音と名乗った女は振り返るようにして俺を見て、そして、ふっと嘲笑した。


「三宮彩音?」


 俺がその名を確認するように呟くと、嘲笑が底知れない不気味な笑みへと代わったかと思った瞬間、三宮彩音が俺の前から煙であるかのようにふっと消えた。


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