第23話 野営所
外が静かになったのを聞きつけたのでしょう。それまで馬車の中で震えていた人達が顔を見せ始めました。あれだけたくさんいたゴブリンがいなくなったことに誰もが喜び護衛の人達を称えます。そのたびに護衛の方たちは苦虫を噛み潰したような顔をしています。時折こちらへ視線を向ける人もいましたが、まあ相手にしないでおきましょう。
「マイルちゃんっ アルク君無事?」
馬車から飛び出してきたエメアが私達を探しております。少ししますと私の姿をとらえたのかこちらへと走ってきました。
「よかったぁ…心配したんだよ~」
「余裕じゃったのう」
すぐそばに立っていた彼女にエメアが抱き着きました。これは軽くイラっときますね。きやすく抱擁とか…いけません。私は二人を引きはがすと早くここを離れたほうがいいことを提案します。
「ここは血の匂いが強くなってるから早く出発したほうがいいです」
「ああそうね…伝えてくるわ」
馬車へ向かってエメアが走っていきます。その間に私と彼女は自分たちが元々乗っていた馬車へと戻っておきますかね。
さて…エメアさんもまだ戻らないし馬車もまだ動き出しません。そういえば修繕がやりかけだったことを思い出しました。残りも進めていましょうかね。私が再び修繕作業へと戻りますと彼女が退屈そうにすぐ隣で欠伸をしています。まあ…馬車は動いていないですし、やることもないのでその気持ちはわからないでもないです。
「少し寝たらどうですか?」
「ぬっ? だがもう少しで馬車が動き出すかもしれぬからのう」
どうやら彼女は少しづつ変化する景色を気に入ったようですね。馬車が動き出したらまた御者台に座っていたいようです。
私が数着修繕が終わるころエメアが戻って来て馬車が動き出しました。軽く船をこぎだした彼女は慌てて飛び起き御者台へ移動します。
それから3時間ほど過ぎた頃でしょうか。再び馬車が止まります。何かあったわけではないようですね。周りへ意識を向けてみますが魔物が襲ってきているわけでもないようです。エメアが立ち上がり外を確認しています。
「野営所についたわ」
ファスティアからセカンタの街道の途中にある野営所についたようです。馬車でも1日以上かかってしまう距離のために途中に作られたもののようです。このままセカンタへ向かっても夜中につきますが、夜になると野獣が活発に活動を始めて危ないんだそうです。まあ私達にはそんなものどうでもいいのですが一般の方たちはそうもないようで、こういった場所が各地につくれれていると聞きました。
なるほど…野獣や魔物は近づけないようですね。何か嫌がる匂いがまかれているのでしょうね。魔法的な気配はしませんので。
「おーい、そっちの二人もこっち来てくれっ」
おや、最初この馬車に乗るときに声をかけた男性が呼んでいます。指をさして確認しましたがどうやら私と彼女のことのようですね…なんでしょう? まあわかりませんけど呼ばれているのでとりあえず行ってみましょうか。
「よしきたな。ではこの6人で見張りを交代でやるぞ。希望の時間帯あるかー?」
「あの、私達は雑用の依頼を受けたはずなのですが…」
「あぁん? あんだけ戦えるんだ追加報酬だすから見張りもやっとけっ」
「はあ…それとなぜ見張りがいるのでしょうか?」
私は首を傾げ訊ねます。魔物などは基本近づけない場所なのです。まあ…強すぎるとわかりませんけど、流石にそんな魔物はまだできていないと思います。
「ああ…あれだ。盗賊対策だ。めったにないことだがみんな寝ちまってて襲われたらまずいからな」
「盗賊…わかりました」
おやおや…盗賊いるんですねぇ。といいますが…盗賊は職業ではなかった気がするんですがね。
魔王様は退屈過ぎて勇者へと転職する れのひと @renohito
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