fragment:24 ようこそ燈台守

 燈台守の最初の仕事を知っているかい。

 書類を書くことでも荷物を運び入れることでもない。カンテラの準備だ。

 燈台というのは厄介な場所でね。夜の海を往く船からすれば唯一の目印だ、だから紛らわしいことはしちゃいけない。陽が沈んだら余計な光はご法度、部屋の照明なんてもってのほか、朝が来るまで真っ暗闇をおとなしくやり過ごす。そんな日常なんだよ。

 けれども、ひとつだけ携えても良いと言われている光がある。それが、燈台守のカンテラだ。

 仕事のあいだはずっとこいつを持ち歩く。フレネルの軋みを慰めに行くときも、暗い螺旋階段を昇るときも、ひと息入れるための珈琲を挽くときもね。灯りの面倒を見るために灯りを持ち歩く、そういう仕事と言っても過言じゃない。

 話を戻そうか。

 このカンテラはね、中身はもちろん灯芯が入っている。燃料はオイルだ。古き良き照明器具だね。

 これを点すときに、いいかい、燐寸やましてやライターなんか使ってはいけないんだ。

 そう、ほかでもない、あの燈台。夜を照らし続ける光でもって点すんだ。

 硝子の火屋を開けて、古い上着の袖に包んだ腕をめいっぱい伸ばして、夜が訪れる瞬間を待つ。

 燈台が目を覚ますその一瞬を、真っ白な灯芯に捕まえる。

 そうして、鉱物のように煌めく、たったひとつの火が点ったら、それは燈台が新人を認めた証だ。

 燈台というのはそもそも、みんな気難しいものなんだよ。誇り高い仕事をしているという自覚があるからね、なんというか、人を選ぶんだ。

 きみの新しい職場は、そのなかでもとびきりだ。

 大抵は、ひと晩じゅうカンテラを差し出しても無視して、朝になったらさっさと消えてしまう。機嫌が悪ければあの太い柱みたいな光でもって、海へ叩き落としてしまう。怪我こそしないがみんなずぶ濡れになった。いつもそんな調子だから、誰もかれもかんかんでここを去ってしまったよ。

 だから、あそこはずっと無人だったんだ。

 いつだってああして凛と立っているけれどね、きっとさびしかったと思う。

 燈台の光はどんな船からも見えるけれど、燈台に見えるのは月と星ばかりだからね。

 言葉がなくてもひと晩を語り合う、そんな相棒が欲しかったはずだよ。

 もしかしたら、きみがその役目を果たせるかもしれない。

 なぜわかるかって?

 ふふ、いずれきみにもわかるはずだよ。だから、今は内緒だ。


 さあ、陽が沈む。もうすぐ夜が来る。

 カンテラをしっかり持っておいで。

 きみが燈台ぼくの友達になってくれることを、祈っているよ。



Special Thanks:

穀雨 / kokuu( https://kokuutokyo.com/ )


以下の投稿より着想:

https://www.instagram.com/p/C-ptIxmzNZ6/

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