fragment:23 特別と凡俗、焼け野原、空腹

 自分が特別でないことを思い知る衝撃のは、おそらく空襲に似ている。


 「お前は特別ではない」「お前は選ばれなかった」「お前は凡俗な、一般の、取るに足らない存在だ」などと書かれた爆弾が雨のように降り注ぐ。自分の頭上に直撃はしない。ただ周囲が、心象の風景が焼き尽くされる。

 やがて爆弾の雨は止む。様々な名前を持つ(たとえば「現実」)爆撃機は銀の翼を翻して去っていく。炎は弱まって消え、煙の立つ焼け野原だけが残る。


 私はそこに座り込んで、辺り一面の煙くさい景色をぼんやりと見回す。


 自分は平凡ではなく、選ばれた、非凡な、特別な、唯一無二の存在である。それがただの、完全な思い過ごしであったことにようやく気づく。なぎ倒された自尊心が炭になってそこらへんに転がっている。

 悲しいとも、辛いとも思わない。すべてをかき消す爆音が一周回って静寂になるように、心が痺れて何も浮かばない。


 どれくらいそうしていたろうか。不意に腹の虫がぎゅうと鳴く。その間抜けな音に苦笑すると、たしかに腹が減っていたことに気づく。

 私はのっそりと立ち上がる。たとえ特別でなくても、選ばれなくても、凡俗な一般人でも、それは生きるのを止める理由にはならない。そして、生きていれば必ず、腹が減る。

 今日はカップラーメンではなく、おにぎりが食べたい。自分の手で強すぎず弱すぎず握った、炊き立ての米と塩だけのおにぎりが。


 私の視界から焼け野原が溶け去り、自宅の天井が現れる。昨夜から開けたままのカーテンから昼の陽射しが入ってくる。

 私は毛布から這い出て、米を炊くために台所へ向かう。

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