fragment:22 灯台の人

 灯台のような人だ、と思う。



 主に言葉で、ときに写真や音楽で、その人は光を放ち続けている。おそらくは常に、絶えることなく。

 けれど、光がどんな色をしているのか、どんな温度を持っているのか、それを私が知ることはない。

 永遠みたいな夜の岬で、暗く遠い海の果てへ、その人が絶えず投げかける光の、本当の姿を知るのはこの世に一人しかいない。


 ただ一人のためだけに、何度でも放たれる光。


 実にうつくしい話だ。

 その光が届くことは永遠にないかもしれない、という絶望も含めて。


 潮に打たれた壁はひび割れ、力尽きたレンズが砕け落ち、かつては白亜だった姿が黒くくすんで朽ち果てても。

 意識が途絶える瞬間まで、灯台のようなその人は光を手渡そうとするだろう。

 迷わないように、凍えないように。


 それでもきっといつか、が叶うのはおとぎ話のなかだけだ。これは小説だが、小説という概念は必ずしも希望を守護するためのかたちをしていない。


 つまり残るのはひとつの祈り。


 灯台であるその人も、光を受け取ることのないたった一人も、今夜は佳い夢を見られますように。

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