fragment:20 一人の生徒より

 先生、お誕生日おめでとうございます。


 百二十七歳になられましたね。お変わりないでしょうか。もうおれは肺の心配をしなくても良いのだと笑っていたお顔を今も思い出します。

 ハーナムキヤでは、まもなく稲刈りの準備が始まると伺っております。今頃先生もせわしく田を見て回っていらっしゃることでしょう。


 今年の実りはいかがでしょうか。

 誰もが飢えず、悲しまず、冬を暖かく暮らすだけの実りを、私たちは得られるでしょうか。

 この世界という名の稲穂を、先生はその手で、撫でてくださいますか。

 理想とは、現実から遠いほどに輝く星です。

 それを追いかける姿に人は憧れ、またはそう在れない自身を恥じる痛みに耐え兼ねて嘲りもします。

 遠く遠く、届かない。一生を賭けても。

 それでも私たちは、生きている限り、自らの星を追わずにはいられないのです。


 先生。あなたがそうであったように。


 今夜見上げる星の、そのすべてに先生の魂が宿っているのが見えます。

 ひとつひとつ、明るさに関わりなく。それらすべてが誰かの燈火になりますように。

 私たち皆が、このちからの限り、自身の星を追いかけていけますように。

 そしていつか、泣いている誰かのための星になれますように。

 どうか、見守っていてください。


 敬愛する賢治先生へ。一人の生徒より。


二〇二三年八月二十七日



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