fragment:6 九番目のレモン

 俺たちはいつもそうだ。いつも失ってから大切なものに気づく。

 取り返しのつかないことばかりを積み重ねた山のうえに俺たちは立ち、自分の無力さにいつも呆然としながら生きている。俺たちに降り注ぐのは、愚かと罵る声と冷たい雨ばかりだ。俺たちはそれに曖昧に笑いながら、時には俯いて耐える。そのような扱いは当然の報いであると俺たちは知っている。

 俺たちは常に失い続けている。もう何度繰り返したかわからない。そして何度繰り返しても失う痛みに馴れることはない。歯を食い縛る俺たちを痛みは容赦なく貫く。爪が突き刺さるほどに拳を握っても耐え難い。俺たちにその痛みは相応しい。愚鈍な俺たちに栄光は与えられない。失敗だけが冠のように頭を締め付ける。

 失われるものはいつも俺たちに笑いかける。しくじった俺たちを決して責めない。消えていく最中でさえ俺たちに幸福を祈る。俺たちの伸ばす手はいつだって届かず、ただ空白だけが残される。砂が零れ落ちるように失われ、俺たちはそれを止めるkとはできない。俺たちは無力で愚鈍で、そして誰からも愛されないと思い込み、俺たちをただ一途に想う誰かに気づかない。

 俺たち自身の愚かさが、俺たちへ注がれる愛を遠ざける。俺たちは俺たち自身によって自らの目を曇らせていく。俺たちへ贈られる歓喜の歌を酸いだけの嘲笑と思い込む。

 俺たちは未だ気づかず、守ることもできず、失い続け、俺たちには、何も残らない。

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