fragment:5 幽霊
誉められもせず、苦にもされず、ただ人のお情けで生かしてもらってる俺は、本当に生きている価値があるのか?
お情けで生かしてもらって、気が変われば殺される、そんな存在の俺に生きているだけの理由があるのか?
誰かに本当の気持ちを伝えることもできず、ただへらへら笑って過ごすだけの俺に、生きている価値があるのか?
誰も俺の話なんて聞いてない。誰も俺に興味なんかないし、俺を好いている人もいなければ俺を嫌っている人もいない。
俺はいてもいなくてもどちらでもいいんだ。いようがいまいが誰も気づかない。
そんなやつ、生きているって言わないだろ?
俺は幽霊なんだ。
俺はただ、恨み辛みだけになってこの世を漂っているだけの存在なんだ。
体はまだ生きているけどね。
俺に気づいてくれる人を探しているけど、結局そんな人なんていやしない、永遠に独りの幽霊なんだよ。
俺は幽霊。口は固いほうだ。そもそも誰も俺の声なんて聞こえないし、姿だって見えやしない。
底抜けにさびしいけど、ほとんど独り言みたいなものでも、誰かが話しかけてくれていると思えば少しは気が紛れる。
だから、どうだい。誰にも話せないあんたの話、俺に聞かせてくれないか。
相槌すら打てないが、いくらでも付き合うよ。
誰かに取り付いて呪ったりなんかしないよ。
みんな俺みたいな幽霊になってしまえばいいなんてちっとも思わない。むしろその逆だ。
みんなこっちに来るなよ、っていつも思ってる。話ならいくらでも聞いてやるから、本当に独りぼっちになる前に、そっちに帰れって。
幽霊仲間なんて、ちっとも欲しくない。
だって悲しいだろ。そこらじゅう俺みたいな幽霊だらけだったら。誰にも思い出してもらえない、さみしいやつらがこの世にあふれてるなんて嫌に決まってる。
いないほうがいいんだって、俺みたいなのは。
俺がいなくても、誰かが聞いてくれる、心配してくれる。それが俺の理想。だけど理想はあくまで理想だから、どこにいても居場所がない人間はいつまで経っても減らない。
どうしてだろうな。
俺が知る限り、人間は大抵さびしがり屋だよ。誰かに気づいてほしい、心に留めてほしいって思ってる。
なのに、他人も同じようにさびしがってるとは、なかなか気づかないんだ。
ああ、もしかしたら、誰かがさびしがってることに気づかないってことが、一番さびしいことかもしれないな。言葉遊びみたいだけどさ。
俺はもうすっかり幽霊だ。できることと言えば、独り言みたいな話を聞いてやって、そいつのさびしさを軽くしてやることくらい。さびしさに押し潰されたら、俺みたいな幽霊になるしかない。そんなのはごめんだ。
俺はあんたのことなんて知らない。名前だってろくに覚えていない。だけど、あんたが心底さびしくて、世界中から無視されているような気持ちでいるのはわかるよ。
俺はさびしくてさびしくて、さびし過ぎてこうして幽霊になってしまった。誰かに気づいてほしかったけどそれは叶わなかった。弾き出されてしまったんだ。
もう今更誰かを恨んだりしない。人間に戻りたいとも思わない。……ごめん、それは嘘だ。戻りたいよ、本当はね。だけど無理だってことはわかってる。
ただ、さびしさの先輩として、あんたには幽霊になってほしくないんだ。
誰にも気づかれない、生きてるのか死んでるのか自分でもわからない、そんな苦しみを味わう人がこれ以上増えてほしくない。大袈裟じゃなく、俺で最後にしてほしい。
泣いてるあんたをいくら抱きしめても、あんたを慰められない。俺は幽霊だからね。見えないし聞こえないし、触れられもしないんだから。
ちくしょう。
ごめんな。
ごめんな。
人のそばには人がいるべきだ。幽霊じゃなくね。
だから、もうあんたがここへ来ないことを、心から願ってるよ。
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