fragment:3 はしご
昔むかしあるところに、神さまと人間たちがおりました。
天に住んでいた神さまは自分の子どもとして人間たちを作り、楽しく愉快に生きなさいと地上へ送り出しました。
人間たちは地上を駆け回り、新しいものを見つけては暮らしに取り入れ、仲間たちと楽しく愉快に生きていました。
人間たちは天に住む神さまのことを忘れず、いつも空へ向かって手を振り、楽しいときも悲しいときも空へ向かって語りかけました。
神さまも地上に住む人間たちのことを忘れず、地上へ向かって手を振り返し、人間たちの語る言葉に耳を傾けておりました。
人間たちはどんどん賢くなり、やがて様々な材料を組み合わせて、大きな建物を作れるようになりました。
人間たちは神さまに言いました。あなたの元へ登っていけるほどの、高い高いはしごを作りたいのです。
神さまは人間たちに言いました。それはすてきだね。みんなで力を合わせて、やってごらん。
人間たちは張り切って工事を始めました。実は人間たちは、神さまの元を離れてからずっとさみしかったのです。
神さまのところまで自由に行けるようになれば、いつでも神さまに会いに行ける。
そして神さまも、自由に自分たちのところへ来られるようになる。地上で見つけた森や湖や広い砂地を案内してあげられる。
人間たちはそんなことを思っていたのです。
神さまはもちろん、人間たちがそう思っていたことを知っていました。
そして神さまも、人間たちが地上で楽しく愉快に暮らすのを眺めながら、本当はさみしかったのです。
ときどきは地上に降りて、人間たちの暮らしを近くで眺めたい、散歩しながら語り合いたいと思っていたのです。
人間たちはどんどんはしごを作っていきました。せっせと木を運び、石を切り、積み上げていきました。
神さまは人間たちが懸命に働くのを、嬉しそうに笑いながら天から眺めておりました。
しかし、もうすぐはしごが完成するというときに、事故が起きてしまいました。
はしごがあまりに高いので、土台が重さに耐えられず、倒れてしまったのです。
人間たちは嘆き悲しみました。あともう少しで、天に届くところだったのに。
神さまも嘆き悲しみました。人間たちが、あんなに頑張ったのに。
人間たちはしばらく落ち込んだ様子でしたが、やがておもむろにはしごの残骸に近づいて言いました。もう一度やり直そう。
人間たちは諦めてなどいませんでした。もう一度、今度はもっと頑丈な、倒れないはしごを作ろうと決意しました。
神さまは人間たちの勇敢さに心打たれ、天から大きく手を振って頑張れと叫びました。
人間たちは再びはしごを作りましたが、今度は土台に材料を使い過ぎてしまい、高さが足りなくなってしまいました。
人間たちは今度は土台はそのままにして、はしごそのものに使う材料を少なくしてみましたが、登るにはあまりに細過ぎました。
人間たちはそうして何度も何度も、はしごを作っては失敗してしまいました。
神さまは人間たちが何度失敗しても、人間たちを見捨てることなく、天から励まし続けました。
しかし、とうとう人間たちは疲れ切ってしまいました。
人間たちは神さまに言いました。私たちは諦めません。いつか必ず天へ届くはしごを作ります。しかし今は、私たちの知恵も力も足りないのです。
神さまは人間たちに言いました。私はお前たちを信じているよ。いつか必ず天へ届くはしごを作っておくれ。
そうして、人間たちのはしご作りは長いあいだ、お休みすることになりました。
人間たちは今でも、作りかけのはしごへ出向いては、いつか天へ届く日を夢見て語りかけます。
いつか必ず、このはしごであなたの元へ参ります。
神さまは今でも、その声に頷いて答えます。
いつか必ず、このはしごで登っておいで。
はしごが出来上がるのは、きっとずっとずっと先のことでしょう。
その日が来るまで、神さまと人間たちは、天と地上に離れて暮らします。
静かに言葉を交わしながら。
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