第4話 分岐点

私はアイシャ・スレイマン


ミヨシロ領ドイツに240年生まれ


父はドイツの教会で神父、母はシスターをしている


私も普段は教会の手伝いをしているわ


今日で丁度16になる


この国ではこの精霊祭の時に国民全員が一歳としをとるの


精霊祭は毎年日にちは決まっていなくて開催される二ヶ月前に神様から神託があるの


「行ってきます、パパ、ママ」


そう言って私は馬車に乗った


「寂しいのか?」


「武者震いだ!」


聞き慣れた声が聞こえてきた


ザックとウィルだ


彼らとは6歳からの腐れ縁で、いわゆる「幼なじみ」ってところかしら


ウィルは村長の息子ですごく誠実、冷静沈着で正義感のあるやつね


対照的にザックは泣き虫屁っ放り腰でよくベン達に虐められてる


本当に情けないやつだわ、そのくせ意地っ張りで意固地なの


「ここの席座っていいかしら、知った人がいなくて暇なの」


そう言って私はザックとウィルのせきに座った


いつも通りくだらないちわ話をしていると


ウィルが


「おい、ザック、お前のお父さんから届いたっていう包みは一体なんなんだ?開けてみろよ」


と言った


「えっ、あんたお父さんなんていたの?私はてっきりポックリ逝ってるのかと」


余計なことを言ってしまう


私の悪い癖だ


「なんてこというんだ、お前、成人したってのに相変わらずシツレーなやつだな」


「ごめんごめん、ほら、早く開けなさいよ、その包み」


「ったく、わかったよ、今開ける」


ザックはおもむろに手に持っていた紙袋を破って開けた


「ん?なんか指輪?みたいなのが入ってた」


ザックはその「指輪」を袋からだして私たちに見せて見せた


「本当だ、指輪みたいだ」


ウィルは物不思議そうにそう言った


指輪と言うには少し変わった形をしていた


「かなり古そうな指輪ね。大事な物なのかしら、結婚指輪とか」


「結婚?!俺が?!」


ザックは驚いたように聞き返した


「おいおい、お前にフィアンセなんていないだろ?」


ウィルがザックをチャかす


「そうよ、あんたみたいなひょろっちぃ奴のことが好きな女なんていないわ」


「言いすぎだろ、おまえら。俺だっていつかは強い「男」になって最高に美人な女の子を惚れさせてやるさ」


「「はぁ、むりむり」」


私とウィルは興味なさげに返事をした


「おい、ザック、その指輪つけてみろよ。何かすごいパワーでもあるかもしれねぇぜ」


「お、そうだな」


ザックが指輪をつけた瞬間


「わっっっっっっっっっっっっっ」


「ふあっ!?な、どうしたアイシャ!?大丈夫か??」


ウィルが心配そうに私に言った


「おいおい、もしかしてヤベー指輪なのか、これ」


ザックは少し恐ろしそうに指輪をみる


「あははは、いやー、驚くかなーと思って言ってみただけ。特になんともないわよ」


「「おい!!!!!」」


ウィルとザックは口を揃えて突っ込んだ


あー、面白い


「ちぇ、なんだよ普通の指輪かぁ期待したのにヨォ」


「まあ、せっかくお前の父さんが贈ってくれたんだ。お守りに身に付けとけよ」


「そうよ、ちょっとはお洒落に見えるわよ。ところで、ザックのお父さんってどんな人なの?私たちは見たことないわよね、ウィル?」


「あぁ、ないぜ。でもザックの父さんは昔ドイツにいて俺の父さんとザックの母さんの幼なじみだったらしい」


「あら、そうなの。幼馴染で結婚だなんてすごく仲がよかったのね、ザック」


「あぁ、でも実は俺もそのことを聞かされたのは昨日で、父さんのことなんてほとんどしらねぇんだ。母さんによると父さんは今、ティマックで研究をしてるらしい」


「「ティマック!!??」」


予想外の国名から私とウィルは思わず大きな声を出した


「ティ、ティマックって言ったら鎖国してここら辺の人間じゃ入国もできない国じゃないか」


「それにミヨシロ出身のザックのお父さんがどうしてティマックなんて非信仰国に行ったの??」


「いや、俺にもワカンねぇんだけど、研究をティマックに評価されて、それが向こうでもやってたことだから協力して欲しいとかこうとかで俺が生まれた時に行ったらしい」


「そうなんだな、すごい人なんだな、お前の父さんは」


「おい、父さん「は」は余計だ」


ティマック、昔パパに聞いたことがある


現在ある国で唯一信仰を捨てた国で


その国の人たちは教会にはほとんど足を運ばないだとか


その代わり恩寵も受けられなくなった、まるで「堕天」したような国だって


どうしてそんな国にザックのお父さんが?


「あんた、お父さんに会いに行って見たくないの?」


「そりゃぁ、会いたいさ。でもすごく不安なんだ。理由はわからないけど「ココロ」がそう感じてる」


「まぁティマックって言ったら鎖国だし、なかなか入るのも難しいんだとおもうぜ」


ウィルが付け足す


「あんたが行きたいってなら、私連れてってあげられるかもよ、ティマックに」


「えっ、どういうことだよ、からかってるのか?」


「うち、教会じゃない、月に一度ティマック人に教会に来た人数と同意がある人の信仰告白の内容を提供してるの、だから、その人に頼めば連れて行ってくれるかもしれないわ、でも期待はしないでね、鎖国だし。ミヨシロとは多少の外交はしてるみたいだけど同盟って訳じゃあないし。」


「そんなことができるのか!?で、でも、もし行けたとして、子供だけで外国に行くなんて危ないこときっとできねぇぜ」


「おい、ザック、忘れたのか?俺たちは成人したんだぜ、まさに今日」


「そうよ、それに今から精霊の儀があるわ、自分の身は守れるようになるはずよ、だってティマックの人には恩寵がないんだもの、きっと大丈夫よ」


「お、お前達もついてくるのか??」


「「あったり前だろ」」


「お前一人でなんて、お使いも冷や冷やして頼めねぇぜ」


「そうよ、何自己評価高くなってるのよ、この弱虫ザック」


「本当に嫌味な奴らだな、でも、ありがとう。すごくココロ強いぜ」


何よ、普段なら絶対文句行って一人で行くとかいうくせに、今日はやけに素直じゃない、いけすかないわね


「でも、いいのか、本当に、危険な旅になるかもしれねぇし、父さんに会えるかどうかもわからねぇ、俺はお前達に迷惑をかけるかもしれねぇ、それでもいいのか?」


「なぁに、今更いってんだよ」


「そうよ、あんたの迷惑なんてもう散々受けてきて慣れっこよ」


そんなこんなで何やら大事なことが決まったさなか、馬車が止まって声が聞こえ始めた


「エェーーー、アルタミラ、アルタミラ、お降りの方は杖や剣などお忘れ物のないようお降りください。精霊式会場はこちらとなります。少年少女よ、おめでとう、きみたちの健闘を「ココロ」より祈ろう」


「ついについたな」


ウィルがそう言って荷物をからう


「あぁ」


ザックは指輪を撫でてそう返事をする


「ザック、あんたはぐれるんじゃないわよ、私とウィルにちゃんとついてくるのよ」


「ったく、はぐれねぇよ、大人だらな、お と な」


ザックは子供っぽく口を尖らせてそう言う


「さぁ、降りよう、アルタミラだ」


ウィルが言った


これからどんな「運命」が待っているのか




この頃の私たちは知る由もなかった


ただ一つ言えることは、この物語は「悲劇」である、ただそれだけ


私はあの時ティマックに行こうと提案したことを酷く後悔することになる


でもそれは、少し先のお話








                         「アイシャの記憶」より


                               *一部抜粋




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