第3話 出発

夜があけた


鳥の囀りが心地よく響く


ついに俺は16になったんだ


そう思うと、不思議と少しだけ「強い」男になれた気がした


部屋から出て階段を降りると母さんが朝食を用意してくれていた


「おはよう、ザック。昨日はよく寝れた?」


母さんは普段どうり優しい口調だった


「あぁ、そこそこね。でもすごく不安だ、実のところさ」


「大丈夫よ、あなたならきっと。私の自慢の子だもの」


そういうと母さんはコップにミルクを注ぎ俺に手渡した。


ミルクを一気に飲み干し、テーブルにあるパンをかじる


この街に来て15年。いろいろあったなぁ。


ベン達にこっ酷く虐められた。


今思えば、豚小屋に放り込まれるなんて屁でもないようなことをあいつらは平然とやってのけた


中でもあれは酷かった、俺のことを全裸にさせて股間に蜂蜜を塗りたくって、犬に舐めさせやがったんだ。


最低な奴らだ。何より情けないのは俺はそれでイっちまったってことだ。思い出すだけで気分が悪くなるぜ。いつか絶対にやり返してやるんだ。


そう沸沸と今までの思い出を思い出していると


「ザックーー、ウィルが迎えに来てるわよ。早く支度しなさい」


まったく、ウィルってやつはお節介焼きだぜ、全く。思い出していた嫌な思い出が吹っ飛んだ気がした。


「あぁ、今行くって伝えてくれ。今行くってさ」


急いで噛んでいたパンを新しくコップに注いだミルクで流し込んだ


いつもの服に着替え玄関に行った


「よう、ザック、何眠そうな顔してんだ?今日は精霊の儀だぜ?もっとシャキッとしろよな」


ったく、生意気なやろーだぜ


「ウルセェ、眠くなんかねぇし、不安だって一ミリもねぇぜ」


ウィルはニヤニヤして聞き返してきた


「おいおい、俺は不安そうだなんて一言も言ってないぜ、まさか怖くて寝不足だったのか??」


本当に勘のいいやつだぜ


「おい、ウィル、そんなお前もやたらと目の下のくまが目立つぜ、まさかお前もってことはないだろ?」


「あぁ、まあな、緊張するぜ、本当はよ。」


あーーー、最高だ、なんて誠実な野郎だ。自分が情けなくてしょうがねぇぜ。


「全く、あんた達、朝から元気がいいわねぇ。ウィル、ザックを頼むわよ」


「はい、おばさん、俺が守ってやりますよ」


「おい、ウィル!!俺はそんなに弱虫じゃねぇ!!」


「ふふふ、本当にあなた達はお父さん似ね」


「え、おばさんは俺のお父さんのことを知っているんですか?」


ウィルは驚いたように質問した


「あら、お父さんからは聞いてないの?私と私の夫、つまりザックの父とあなたのお父さんはこのドイツ出身の幼なじみなのよ?」


「えぇ!?そうだったんですか!?初めて聞きました。」


ウィルは複雑そうな顔をした


「ところで母さんはどんな精霊をいただいたの?僕、母さんが精霊を使っているところ見たことないよ」


素朴な疑問だった


「母さんの精霊はね、あなたが生まれたときにいなくなってしまったの。だから今は祈ることしかできないわ」


精霊がいなくなる??母さんのように信仰に厚い人がそんな風になるなんて聞いたことがない。


「精霊がいなくて辛くないの?」


俺は思わず聞いてしまった


「全然辛くないわよ、だってあなたがいるんだもの」」


ずるいぜ全く。母さんてやつは。


「おい、ザック、馬車がきたぞ、覚悟はいいか?」


「あぁ、昨日の夜に不安は置いてきたぜ」


俺たちは馬車に歩き出した


「あっ、まってザック!!これ!」お父さんからあなたへって今朝届いたの!きっとお父さんがあなたを守ってくれるわ!」


母さんはそう言って俺に小さな紙の袋を手渡した


「あなたの無事を祈っているわ。頑張ってきなさい、ザック、ウィル」


「あぁ、行ってきます、母さん」


馬車のドアが閉まり、馬は走り出した


馬車には数人の精霊式にいくであろう男女が座っていた


母さんの影がどんどん小さくなっていく


「おいおい、寂しいのかザック?」


「そんなわけないだろ、ウィル。これは武者震いだぜ」


そんなくだらない冗談を言い合い俺たちは後ろから二列目の席に座った


ガヤガヤと声が響く


「あら、ウィルとザックじゃない、あなた達もこの馬車だったのね」


振り向くとそこには、身長は160前後、セミロングのピンク色の髪を揺らした女の子がいた。胸はお世辞でも大きいとは言えない。


「やぁ、アイシャ、偶然だね、おはよう」


爽やかにウィルは彼女に挨拶をした


「私もそこに座っていいかししら?知った人がいなくて暇だったのよ」


アイシャは俺の前に座って荷物を下ろした


「アイシャは寝れた?」


ウィルが聞く


「えぇ、いつも通りね。そこの泣き虫さんは寝れてないようだけど」


泣き虫って俺のことか、言われた瞬間にそう思ってしまうあたりが、またなんとも情けない


「ウルセェ!!全くもって快眠だぜ!なぁ、ウィル!?」


ウィルは苦笑いして窓の外に視線をやった


この野郎!!!!




目的地まであと40分




まだ道のりは長い
















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