第四十四話 七海、出会った頃
初めて夢呼と出会った日のことを、七海は思い出していた。
最初は、変な人だと思った、妙な人だとも思った。
どちらかというと悪い印象。
いつも、小躍りするような身の振り方を崩さない。
まぶしい笑顔、と言ってしまえば褒められてしかるべきだけど、彼女のそれは、ほくそ笑むような表情に見えたりも。
まだ何も決まっていないけれど寄り添ってメンバーのうち誰かが知っている曲を弾いてみる集まりのようなもの―――をやるにあたって、夢呼を最初から好いていたわけではない、そんなはずがない。
出会って五年経ってからも、ちゃんと夢呼について、を考えてみた。
……変な人、だ……やっぱり。
―――ネットで知り合った人と会ってはいけません。
その文章が、脳裏をよぎった。
ネットで知り合った人と実際に顔を合わせてはいけません。
理由はって……危ないからです、そんなもの。
果たして先生が言ったか言わないか……でも言いそう。
私が教職についた世界線では、言うかもね。
そんな文章。
……どこで最初に見たんだろう。
正論だとは思うけれど。
私の審美眼は大したものじゃないし、人を見る目がない、かも。
ただネットで知り合った人間は―――絶対、どこかの学校に属していた人間で。
そして同じ学校だろうと、クラスだろうと―――、危ない人なんて、どこにだっているのだった。
同じクラスでは。
目を合わせないほうがいい人、顔を合わせないほうがいい人。
……ふと思い出しそうになったけれど、まったく見なくなったことに気づく。
親の知り合いだとか親戚にだっているかもしれない……可能性はある。
なにも、私の周りに事件があったとか、そんなわけじゃあないけれど。
教科書に、いや配られたプリントのどこかに書いてあったのだろうか。
ネットで知り合った女子。
彼女が実は、同じ高校に通っている人だった場合は、どうなるだろう。
夢呼が、その場合、っていうものだった。
生きていれば、そういうこともある。
―――
「なあ、ギターとベースってどっちが難しいんだ?」
夢呼は思案なしにそんなことを言うっていうか、投げてくる。
……うっわあ一概には言えないことを。
高校生に聞かないでよ、そんな。
適当そうな人。
とにもかくにも、
「私、もうギターは
「そか。ならベースだっ。お願いな」
あ、いいんだ、そんなあっさり……。
私は、言われて落ち込むでもなく夢呼を見つめていた。
聞かないのかな。
ギターを弾かなくなった理由。
昔話、用意してあったんだけれど。
夢呼は何か考え事をしているように遠くを見ていた……ふうん、いいよーだ。
考え事があった。
生きていたら、どうなるのかな。
生きていたら、別にいいことなんてないんじゃないかな。
嬉しい出会いはあって……そりゃあ当然あります、人生だもの。
そしてそれは、離れていく。
高校生の私は。
楽器は弾けたものの、
夢呼は夢呼で、考え事はたくさんあったらしいと、すぐに知ることとなった。
……まあ、これからバンドを始めようって時だから、考えてみれば当たり前ね。
さしあたり、心配となったのは、真弓のことだったようで。
バンドに、ほぼ素人を入れるとあって、どうするかという方に力、エネルギー、持っていかれているようだった。
けれど、メンバーが揃うということ、バンドの体裁が整うということに喜びを感じてはいたから、ちいさな問題だった。
この頃を振り返るに、この田舎町でこれだけの音楽好きに囲まれるのは、嬉しい、と……まるで子供のような感想だけど、確かに感じていた。
バンドになっていることが嬉しい。
夢呼は、身を振るわせて言う―――身振り手振りは多い。
なにかを弾いているみたい。
「やっぱしギター二人じゃあさ、なーんか違うかなって思って」
それは決してルール違反ではないし、ギターが二人いるバンドはたくさんある。
(これはバンドの中期後期に考えればいい、今はそんなこと言ってる場合じゃない)
夢呼だって音楽をたくさん聴いているし、それくらいは知っている。
そう思うけれど、どうだろう。
夢呼の声とは合わないって意味?
夢呼は、バンドオタクとは違う……気がする。
知識量でいうならば、他者のほうが上だ。
クラスにも、歌い手が好きな子だったり……いつでも聴いている子はいくらでもいた。
その頃の私は、まさかバンドなんて……出来たらそれはすごいけれど。
お遊び程度になるだろうと。
そんな風につまり、構えていて。
そのうち消えてしまう、くらいに思っていた。
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