第四十二話 選択肢 2
驚いたな。
オレは防毒マスクの下で、その光景に目を奪われていた。
現場で演奏をしているバンドがある―――という情報を聞いた時から、驚きはあったが。
なぜか喜んでいた気も、する。
複雑な心境となったまま突入した。
だがそんな奇跡も、長くは続かないらしい。
音響機器の故障。
壊れるのは何も、人間だけに限らない。
この部隊がこの会場を制圧するのには時間がかかると見るや、自力で走ることにしたか。
上の意向は、出入り口を塞いでしまうこと、奴らを外に出さないことに重きを置いていた。
つまりは、中の連中を救出できるかはわからない……最優先にそれをすると、脇が甘くなる。
一般人はまだ残っているようだ―――わかりやすくステージの上、高い位置にいる。
正常な―――一般人。あそこに溜まっているだけか?
そしてバンドの四人。
会場内にどこか、身をひそめる生存者はいるだろうか……期待はできない。
とにかく確認した生存者たち。
闇に紛れる服装、女が四人か。
暴動者の頭や肩の合間から、走っている様子がちらちらと見える。
この部隊のマスク、お世辞にも、遠くを見やすい装備とは言えない。
だが出口は開いている状態で維持してある。
封鎖なら完全に出入り口を閉じることが基本だが、上の意向がある。
そこを強行突破するつもりか。
不器用な走り方に笑いが漏れる……いやいや、音をたてないようにしているとそうなるんだろうが、な。
オレは隣を見る。
暴動者が襲い掛かっていた―――全力で襲う、その先には血まみれの人間。
暴動者同士の、争い―――組織が対策で用意していた、ゴムネットをかぶせた者が、何も見えないままに動く気配をつかんで押し倒す。
これなら予定よりも早いペースで、事態を無効化できている。
あるいは、より混沌としてきた。
オレは走る。
「あれだ!あれを追え」
腕を伸ばし、四人が走っている方を―――指差して。
近場にいた奴に呼びかける―――顔はわからんが、とにかく援護だ。
突入した部隊は一部だ。
ならば多少の修正は、個人的な判断で利かせる。
オレの叫び声で迫ってきた一匹。
死人の歯に、狙いすまし、肘を突きだした。
噛みついたが、プロテクター入りだ……部屋のノックほどの衝撃しかなかった。
仲間の気配がしたので、オレは姿勢を低くした。
仲間が暴動者を掴んだ。
再びゴムネットで、一匹の頭部を封じた。
――――
「
「愛花、大声は出すなよ? 」
「それくらいわかるわよっ、愛花でも……っ」
「掴まれたら声出しちゃうかも……」
「どうしても心配なら私の後ろ回し蹴りの間合いにいろ、できるだけ―――」
言いながら、真弓は跳躍した。
飛んだ。
足の先を曲げて伸ばし、暴動者の肩か首のあたりにヒットする。
吹っ飛んで、腐った果物のような肌の男が、ほかの暴動者を薙ぎ倒す。
巻き込んで倒れた。
真弓は攻撃を終えたが、床に着地をするときのほうが、筋力を使った―――まったくの無音の着地を目指すため、だ。
組み手とは違う種類の、緊張がある。
主にふくらはぎなどに。
そして安心する間などない。
走り続けようとしたが、前方の夢呼が、一瞥していた。
―――まだ元気あるのな。
―――
同じバンドでよかった、と思える特典か―――意思疎通はできる。
こんな状況ではあるが。
大体アイツならどんな内容なのか、聞こえづらくても理解はできた。
そして心配は杞憂かもしれない……暴動者たちと白い集団が相まって、乱闘をしているので、
白い集団はライブ会場においても突出して目立つファッションなので、奮闘が視認出来た。
ずいぶんと
これでいい。
いざ飛び込んでみれば、異常暴動者の全員が、私たちを狙っているわけではないことを確信できた。
自分が人気者であると過信していたか。
襲われても……それで終わりじゃあない。
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